機ぐるみ

ごむらば

第1話 機ぐるみを見た!

ここはターミナル駅、多くの人々が行き交う改札を抜けた先にロボットの着ぐるみがいた。

ラッシュ時なら目もくれずに通り過ぎる人々もお昼近くになると、それほど足速に通り過ぎる人も多くない。


小さな子どもを連れた母親たちが、子どもにせがまれてか興味からかロボットの着ぐるみの周りに集まっていた。

ロボットの側にはビラを持った女性が立っていて、現在百貨店の催事で開催中のロボット博の宣伝ビラを配っていた。


母親たちはビラには目もくれず、ロボットと我が子の写真をスマホに納めている。


ロボットの着ぐるみはビニールレザー、ウレタン素材でできた銀色の四角い頭に四角い体、直方体の足と腕、膝の部分は丸く、手の部分は丸いペンチといかにもロボットという風貌だ。

頭の左右にはアンテナのようなものが付いており、鼻はないが、目と口が付いている。


ロボットの身長はそれほど高くなく、写真を撮る時の仕草から中身は女性である事は明白であった。

張り切って動くロボットの足は今にも外れそうになっていた。


傍でビラを配っている女性もなかなか可愛い。

あの娘も交代でロボットになり、中で汗をかいて頑張っている姿を想像すると興奮してきた。






配るビラがなくなったのか、引き揚げるビラ配りの女性と着ぐるみロボット。


しかし、想像もしない事が起きた。

足が外れそうになっていた着ぐるみロボットが転倒。片足と下半身が露わになる。


露出した足は人間の足ではなく、ロボットいやアンドロイドといった感じの足だった。

シルバーで光沢があり、細く美しい足。

ロボットとは明らかに違い、膝の部分は曲げる事ができるようにいくつものパーツを使用し、覆われていた。


太もも部分も同様にシルバーのパーツに覆われて、下半身は見える範囲ではハイレグ水着のようになっていた。


ロボットの体の部分も転倒した勢いで脱げそうになったが、腕の部分も一体になっていたお陰で、ロボットの中身の全貌は見る事ができなかった。


ビラ配りの女性は慌てて外れた足を拾い、ロボットに履かせると今度はしっかりと肩を貸して誘導しながら百貨店へと消えていった。


転倒した際、着ぐるみロボットからは確かに女性の声がした。









着ぐるみロボットの中身が気になり、ロボット博を覗きに行くと、偶然先ほどの女性とロボットが簡易の控え室へ消えていくところが見えた。

その控え室から彼女たちの会話が聞こえる。

「大丈夫だった?」

「私は大丈夫なんですけど、ロボット壊れてないかなぁ?」


「うーん、よく分からないけど、壊れたところはなさそうね」

「良かった!」


「しかし、寒かったわね」

「そうですね、ロボットの着ぐるみを着てても寒かったですよ」


「その方が人目を引いて良かったんじゃない?」

「無理ですよ、薄いゴムの上にプラスチックみたいなのが付いてるだけですよ」


「ここなら、寒くないか大丈夫ね、準備始めましょうか」

「はい、お願いします」


ファスナーの音に続いて、電動ドライバーの音が聞こえる。


「どう?大丈夫そう?」

くぐもった声が返事をしているが、控え室の外からはよく聞こえない。


「じゃあ、衣装いくよ!」

もう1人の声は聞こえず、ファスナーの音だけが聞こえる。


「凄いね、この胸、羨ましいわ」

アンドロイドの娘が返事をしているが、声がくぐもって聞き取れない。


「じゃあ、行きますか」

そして2人は控え室から出てきた。






ビラを配っていた女性はシルバーのミニスカートのワンピース姿にシルバーのエナメルブーツ。


先ほどビラを配っていた時もおそらくこの格好だったのだろう、ロングのダウンコートを羽織っていたので分からなかったが。

着ぐるみロボットに気を取られて、彼女の顔しか見ていなかった。


着ぐるみロボットはというと、全身がシルバーのマネキンのような容姿に変わっていた。

ロボットというよりはアンドロイド。

所々に機械の感じを出す為に、ネジ穴や体の至るところにラインが走っていて、金属を継ぎ合わせた感じを出していた。


頭も小さく、とても中に女性が入っているとは思えない精悍な顔立ち。

アンドロイドはビラを配っていた女性と同じミニスカートのワンピースを着用していたが、サイズがあっておらず、胸ははち切れんばかり、お尻もパツパツでボディコン状態だった。


そして2人はそのままバックヤードへと消えていった。



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