#34【故意犯?】明らかに間違った人選をして天国なのか地獄なのかわからなくなる葵陽【電脳ファンタジア切り抜き】
『ダメだ! 月雪フロルが強すぎる!!』
『勝てる気がしないです……あっ、痛っ!?』
「はあ……準備はいいですか皆さん、地獄が始まりますよ」
さて、二戦目からは私が三連勝となった。このうち三勝目の回は民草が二人来て危なかったんだけど、初戦を取ったようにこの中では強いほうであるちよりんが罰ゲームで使い物にならなくなっていたから誰にも追い抜かれなかった。
常に丁寧語で話すひとだからと安易に「敬語禁止」を突きつけたんだけど、思っていた以上にぽろぽろこぼしてしまったせいでお仕置きの低周波治療器が二十秒に一度の頻度で出動する惨状だった。かわいそうに。……低周波治療器って操作に影響すると思うんだけど、「ゲーム内のもの」にカウントされないんだね。
「なんかもう、最強カスタム禁止どころか順位表示のダンボールすら剥がれそうにないよね」
『こいつに下位を取らせるなんてどうすりゃいいんだよ……』
〈無理でしょ〉
〈まあ……フロルは思ってた以上に強いんだけど……それはそれとして陽と幽子が弱い……〉
〈フロル>>>(越えられない壁)>>>千依>アンリマギア>>>>>>>>>>陽幽子〉
〈陽はまず自分の運転をどうにかしないと……〉
そしておおよそのメンバー内の実力差がわかってきた。四回連続で下位に沈んでしまった陽くんとゆーこさんのコンビと、それ以外の間にもなかなか覆しがたい実力差があるようだ。これはもしかすると、四番手以降が罰ゲーム対象というバランスはちょうどよかったかも。
今回は罰ゲーム中だったちよりんが二連続で四番手だったから、罰ゲームの対象は陽くんかゆーこさんだ。対象はまあ、四連続下位なのにまだ受けていなかった陽くんかな。
「さすがに陽くんもそろそろ受けないとね?」
『お、おう……』
「じゃあ陽くん、空いてる先輩に部屋まで見に来てくれないかディスコネで頼んで」
『うわ……わ、わかった……』
「ハート付きで」
『はっ!?』
ちなみに現在男二人のうち御門先輩は外出中だから、同性なら選択肢はデュエ兄しかない。あの少しでも隙を見せたら嬉々として突っ込んでくる後輩大好きデュエ兄に来て欲しくなかったら、女性の先輩相手にわかりやすい恥を晒すことになる。
少しして、証拠のスクショが四期生のサーバーに送られてきた。
『え、心愛先輩に送ったの……!?』
「みくら先輩なら断ってくれるものを……心愛先輩なら普通に来るよ?」
『い、いやいや。そんなまさか、デュエ兄じゃあるまいし………』
『この通知音怖いですね……どうでした?』
『…………来るって』
「葵陽、あんた最高だよ」
〈どうして……〉
〈ルート分岐の選択肢は必ず外す陽だぞ〉
〈心愛様は最近第二のデュエ兄になってるからな〉
〈雑談でめちゃくちゃ後輩可愛い連呼してるの知らんのか陽〉
〈フロルも触れてたのに……〉
私が触れたのは朝活のときだから、たぶん陽くんは起きてないね。まあそれは別としても、陽くんは確かに先日やっていた名作アドベンチャーゲームで信じられないほど全ての選択肢を綺麗に外していた。
まさか現実でもやるとはね。正直陽くんからしたら、デュエ兄が来るよりきついと思うんだけど。みくら先輩ならハートから罰ゲームと察して断ってくれただろうに。
それにしても陽くんのハート語尾は凄まじいインパクトだ、と思っていた矢先のこと。追加で送られてきたスクショには、すぐ下に心愛先輩が「今すぐ行くね♡」と返信した様子が映っていた。これは私の配信画面にも載せてあげよう。
他のひとだったら別に待ちもせず次に進んでいたところだけど、心愛先輩だから少し待つことに。廊下まで見に行っていたルフェ先輩が趣深い表情で戻ってきた約一分後、陽くんのマイクから呼び鈴の音が聞こえた。
『来ちゃった♡』
『あ、っス……』
「そう、これが後輩という概念が好きで好きでたまらない女、一色心愛だよ」
『なんでシェアハウスにいて知らないんだいそれを』
「違うのアンリさん。彼はPROGRESS加入前からの心愛リスナーだから」
『ああ、眩しくて見られなかったんですね』
『つまり私欲?』
『ち、違っ』
『違うの……?』
『ッスー……』
〈陽、お前は俺らだったのか〉
〈急に親近感わいてきた〉
〈オーディション中に心愛が加入した話か〉
〈限界オタク陽〉
〈心愛様が一時期なんかテンション高かったのそういう……〉
ものすごく面白い展開になったけど、これ九割自爆なんだよね。私は空いている先輩なら誰でもいいつもりだったし、みくら先輩なら大火傷にはならないと思っていた。まさか心愛先輩を連れてくるとは思わなかったのだ。
しかし、大丈夫かなこれ。陽くん、これからレースに集中できるのかな。
『陽くん、扉の鍵は開けておこう。何かあっても助けが入れるように』
『閉めてねーよ! 部屋に異性の先輩がいるんだぞ!?』
「あっ……」
『どうして墓穴を掘るんだい陽くん……』
さてと、ちょっと予想外に長くなったけど。まあ実質罰ゲームが本体のような企画だし、問題はないだろう。
次のレースに入る前に、もうひとつやることがある。なんかもう流していい気がしてきたけど、さっきまではこっちがメインだと思って後回しにしていたんだよ。
「じゃあフロルちゃん、大ハンデ箱引くよ」
「うん、お願い」
「じゃあお覚悟ー」
ところがここで、ルフェ先輩は引いた結果を読み上げずに荷物を漁り始めた。取り出したのは……え、手錠?
「る、ルフェ先輩?」
「いきなり大当たりだよフロルちゃん。それじゃ、縛りプレイ(物理)しようねぇ」
「……うわ、そんなガチなやつまで入ってるの!?」
「公開SMプレイなんてはしたないよフロルちゃん!」
「私がやりたがったわけじゃないんだけど!?」
『ドSの先輩の前でそんな無防備な姿を……』
「誰か助けてー!?」
〈フロル……〉
〈いつもは縛る側っぽいのにな〉
〈フロルの反撃されるリバを地で行くところ好きだよ〉
〈エッ……〉
後ろ手で拘束されてしまった。そのまま改めてコントローラーを持たされて、これでプレイさせられるらしい。まあゲーム上級者の遊び方としては存在するものではあるけど、こんな場面でやることになるとは。
…………エティア先輩の前でこうしているの、ちょっと怖い。間違いは起こさないと信頼できるルフェ先輩がいて本当によかった。
『下位になるまでずっとこのままか……』
『でもこれじゃフロルくんは止まらない気がするね』
「大ハンデを複数重ねるのはあんまり想定してないんだけどね」
ただこれね、動かしにくいだけで配信的な反応はこれだけだとちょっとしづらい。長話しちゃってるし、そろそろ次のレースに行こっか。
『なんでだよ!!』
『え、あの子拘束されてるんだよね!?』
「拘束といっても背中側にあるだけで、持ち方自体は変わってないからね。もともと基本的にはゲーム中にコントローラーなんて見ないし」
『無理のある姿勢だとか、スティックの入力角度だとかすら気にしないんだね……』
「一応この子、普段の椅子が使えなくて背もたれのないのに替えてるんだけどね」
「FPSだったらさすがに影響出てたよ」
〈ヤバいぞこいつ〉
〈うわぁ……〉
〈そろそろ言い訳できんぞ〉
〈プロゲーマーかな?〉
結果としては、さほど変わらなかった。まあ、見かけほどは操作だけなら制限されていないから。私も初めてやったけど、意外となんとかなるね。
まあ、この状態があんまり長引いたりしたら疲れてきたりはするかもしれないけど……これはひとつめの大ハンデだから、少し間違ったりして一度罰ゲーム圏内になれば消える。さほど気にしすぎることもないと思う。
『つまり我々は、後ろ手に手錠をされたフロルさんに負けたと』
『ふろるちゃん、ツルでゲームしちゃだめだよっ!』
「してないって! 普通に手でやってるよ」
「そんなこと疑われるものなんだねぇ」
『でも確かに、信じられないくらい速いです。コツとかあったら教えてほしいかも……』
「あ、それは大丈夫だよ。私が伝えられるものなら」
〈不名誉みたいになってるけどちよりん普通に速いぞ〉
〈おかしいのはフロルのほうだから〉
〈ツルでゲーム!?〉
〈そりゃ悪いぞフロル〉
〈むしろ操作難度高そう〉
〈お?〉
〈フロル先生のゲーム教室マジ!?〉
〈教えられるのか……?〉
マギアちゃん、秀逸なことを。確かに今ならツルで体の前に構えてプレイする方がいいかもしれない。できるなら。
一方で心愛先輩の発言は私としても膝を打つ───今は打てないけど───ものだった。せっかくの特技といっていいのだから活かせるといいし、ゲームに関して私がやっていることを教えるというのは確かにアリかもしれない。どうやれば面白くできるかなんかはちょっと考えておこう。
「じゃあハンデ引くよ」
「えいっ。……あ、また今使ってるカスタム禁止ですね」
「さすがにそろそろ性能差出てきちゃうね。まあ、とはいえ楽な方の枠だけど」
『あいつ余裕できてきてるぞ』
『なんでもっと強いハンデを入れておかなかったんですか先輩!』
「他の子が踏んだときのことを考えててね……」
一応当たりのハンデが被ったら引き直しになるらしいけど、ハズレ枠として使用カスタム禁止は多めに入っているようだ。作成者のエティア先輩が詰められているのを聞くと、なんだか私が申し訳なくなってくるね。なんでだろう。
まあそれはともかく。このゲームのタイヤパーツは同性能が二種類ずつあるものが多いから、いよいよ強タイヤからはお別れとして……罰ゲームの時間だ。
「そろそろみんな欲しいのいきましょっか」
「ハードルを上げるね」
『な、なんかおかんが……』
「そんなマギアちゃん、次のレース中だけ語尾にゃんで」
『えっ!? そ、そういうのは、わたしじゃないような……』
「むしろマギアちゃんしかいないと思うよ。……ね、やってみよっか」
『そ、そんなぁ…………にゃん』
〈うおおおおおお!!〉
〈よくやったフロル!!!〉
〈最高か?〉
〈*ローラ・ミラルカ / Rola Millarca:さすがよフロル!!〉
〈さすがフロル、需要をわかってる!〉
〈ついにローラ来てて草〉
〈後輩で百合夢妄想してる奴が白々しい……〉
〈ミ゜〉
〈これは……思った以上ですね……〉
もうみんなわかっていると思うんだけど、マギアちゃんは可愛い。本当に可愛い。これでも比較的キュート枠を想定されている、というかお姉さんキャラは無理だとと自負している私が、かわいいは全てを救う枠をデビュー前から諦めるくらいには可愛い。
そんな子ににゃんにゃん言わせたいというのは、きっと人類共通の欲望だと思うんだ。ローラ先輩じゃないけど、流石にこれはやる気だったしいい仕事をしたと思う。
だが。この後私は、後から小っ恥ずかしくなるほど綺麗に鼻っ柱をへし折られることになる。
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