#32【四期生メリカ】カオスとイチャイチャと罰ゲームとハンデと視聴者参加型【月雪フロル / 電脳ファンタジア】

「同期コラボやるぞー!」

『おー!』


 翌11月4日、日曜日。この日はかねてから予定していた同期全員コラボだ。デビューからはや三週間、初めての全員集合がここまでずれ込んだのはやや遅い方なんだけど……これまでの週末は全て誰かしらの予定が埋まっていたから仕方ない。私も先週の土曜に公式番組で埋めたし。

 もっとも、別に同期コラボが遅れれば不仲なんてことはない。むしろ関係は間違いなく良好だ。私はあまり相席できていないけど、誰からともなくボイチャで作業通話が始まるくらい。それを私が新人面接でバラして、感触がよかったからか一昨日はゲリラ雑談コラボが始まっていた。


「ってわけで、みんなでレースしていきます」

『ただ、それだけだとフロルが無双して終わるのが目に見えてるからな。今日は配信的なちょっとしたルールを用意してある』


〈きちゃー!〉

〈待ってた!!〉

〈同期コラボ楽しみだったんだ〉

〈ルール?〉

〈仲良ししてくれるだけでも充分だけど〉


 やるゲームは『メリクカート』、オンラインかつ大人数でやるには定番のレースゲームだ。四人までならできるゲームもかなり多いものだけど、五人六人といる同期を全員集めるとなるとそうもいかないからやはり頼ることになりがちだ。

 ただ、今回は追加ルールを用意してある。私はそうすることだけ聞いていて、内容は任せていたから知らない。……んだけど、なんか私の背後にいるんだよね。


『え、きいてない……』

『陽くん、それはなぜか先輩が一人いることと関係があるのかい?』

『ああ、そういうことだ。俺とフロルが相談の上で、この人にゲームマスターを頼むことにした』

「二期生のエティアです。今日は追加ゲームの進行役として、フロルちゃんの部屋から失礼するよ」

「といっても私はさっきまで、エティア先輩もオンラインだと思ってたけど……」


〈エティアさん最近便利枠になってきてね?〉

〈後輩の面倒見てくれてやさしい〉

〈むしろ職権乱用してるでしょ〉

〈こいつどうせフロルで遊びたいだけだぞ〉

〈*ルフェ・ガトー / 【電ファン】:ずるい〉

〈ルフェ脳破壊定期〉


 準備中にいきなり入ってきたときには驚いたけど、陽くんの差し金と聞いたら受け入れるしかなかった。配信デスクの近くにある小机にマイクとカメラを持ち込みつつ陣取っている。

 エティア先輩は最近サディストに目覚めていて、もはや私以外相手にも隠さなくなってきている。そんな彼女が楽しそうに私が知らないことをしようとしているのはまあまあ怖い。……え、ルフェ先輩も来るって? 私の部屋は溜まり場じゃないよ?


「陽くん、何頼んだの? エティア先輩、なんかクジ箱を三つも持ってきてて怖いんだけど」

『ああ、それを使うんだよ。今回の特殊ルールは『ハンデ&罰ゲーム』だ』

『ハンデと罰ゲーム、ですか?』


〈罰ゲーム〉

〈新人がいきなりそんなことを〉

〈陽、お前自分も餌食になる自覚あるか?〉

〈ハンデ明らかにフロル用で草〉


 なるほど、すごく電ファンらしいことをやるようだ。陽くんはこう見えて芸人魂に溢れているから納得だけど。私だって彼がそうであることは承知の上で野放しにしている。

 まあ、不憫属性のある彼のことだ。きっと綺麗なオチを見せてくれることだろう。


 そしてエティア先輩、安全圏から楽しそうにクジ箱を掲げた。最近のこの人は普通に怖い。


「ルールは二つだよ。まず、ライバー六人の中で四位以下になった三人は罰ゲーム候補になる。その中からライバー内一位が一人を選んで、次の一レースの間だけ好きな罰ゲームを命令できるの」

『…………これヤバいんじゃない……?』

「思いつかなければ、こっちの罰ゲーム箱に任せることもできるよ」

『フロルさんがそれを使うと思うのですか』


〈エティアさん楽しそうですね〉

〈恐ろしいルールだ……〉

〈自分で決められるの!?〉

〈*三好ささげ / Sasage Miyoshi【電ファン所属】:楽しそうだねエティ〉

〈エティ空気美味そう〉

〈戦慄するゲーム苦手組〉

〈ナチュラルにフロル一位前提のちよりんよ〉


 なかなか凶悪なルールだった。やっぱり陽くんのミスだよ、頼む相手を間違えている。このままだと全員が特大のネットタトゥーを大量に刻まれかねない。……まあVtuberなんてそんなもんと言われれば否定できないけど。

 それに、私も安心できないのだ。ハンデなんてものをわざわざ用意されているし、何より仕掛け人がエティア先輩だから。


「もうひとつ。ライバー内で一位になった人に対して、ハンデ箱から引いた内容をやってもらうよ」

『はい先生』

「なんですか野々宇さん」

『なにやら大量の荷物を抱えてマネージャーが家まで来ているのはそういうことでしょうか』

「うん、ランダムだから可能性としてね。……それと、罰ゲームは一レースだけど、ハンデの解除は四位以下になる度にひとつずつだよ」

「えっ?」

『これは勝ち目が出てきたかな……?』

『ふろるちゃん、いくつハンデつくんだろ……』

「拝啓お父さんお母さん、今日が私の命日なのかもしれません……」


〈罰ゲーム命令権はハンデとセットと〉

〈ハンデは運次第なんですね〉

〈二位が決めてもよさそうに思ったけど〉

〈お?〉

〈フロル終了のお知らせ〉

〈そのくらいしないと面白くないよな!〉

〈さすがですエティア女史〉

〈フロルってライバーで遊ぶとか言う癖にゲームでボコるだけみたいなことやらないからな、外からこういう形にしないと対戦コラボしてくれない〉

〈ドSエティア、期待を裏切らない〉


 ほら。ただハンデがあるだけならともかく、それが重複するあたり悪辣だ。そうすればどうなるか、本当によくわかっている。

 それに……うん、ルールとしてもよくできている。これで大人数で集まると途端にハジケ出したりさえしなければ、貴重なMC適正者になるんだけどね。


「はい先生」

「なんですか月雪さん」

「どうしてもうひとつ箱があるんですか?」

「ハンデの数が3の倍数になる度に、こっちの大ハンデが用意されるからだよ」

「……殺意高すぎない?」

「フロルちゃんのためだからね?」

「それはお手数をお掛けして……じゃなくて」

「まあ、大ハンデは優先的に解除されるから安心して」

『みんな、あれ使われる自信ある?』

『ない』

『ないね』

『ありません』

『ふろるちゃん専用かな……』


〈フロル用じゃん〉

〈ハンデ抱えながら負けずにフロルに三回勝つのはさすがに……〉

〈同期からの圧倒的信頼〉

〈丁寧なフロ虐助かる〉

〈さすがに今日はフロル無双回だと思ってました〉

〈いい先輩を持ったね〉


 ああ、だめかも。私もう明日学校に行けない。

 だって、これほぼ間違いないじゃない。あの大ハンデ箱、確実に私にさせたいことばっかり入ってるよ。






 とはいえ、嘆いていても逃げられるわけではない。大人しく配信魂に身を捧げることにして、対戦部屋は私が親になって立てる。エティア先輩が触りやすいから。

 ルールは通常のフリーレース。「一位がゴールして30秒で強制終了」オプションだけオンにして、その他もろもろの設定は全て初期状態のままだ。そしてレース人数は12人。


「みんな入ったね。それじゃ、一分後にこの部屋コードを私のTsuittaで公開するので、6枠争奪戦どうぞ」

「あ、一レースごとに抜けてね」

『リスナー的には、今回はただのレースじゃないんだよな』

『リスナーの順位は関係ないルールのようなので、罰ゲームが見たい人を攻撃して落とすレース展開が予想されますね』

『地獄かな?』


 半分の六人に固定枠としてライバーが入って、残る6枠は視聴者参加型として入れ替わりながら埋めてもらう形式だ。ただよくある視聴者参加型と違って、勝ち負けはライバーの中でだけ争うことになる。つまりリスナーのみんなは順位度外視で強いアイテムを引いてはライバーを攻撃し続けることになるのは想像に難くない。

 それで本当に終わるのかという心配すらされかねないルールだけど、そこは一応大丈夫だ。あまり止まりすぎたり逆走すると回線落ちになるとか、同じ場所で何度もアイテムを取っても強いものが出ないとか、本来なら最強アイテムである《バレット》は勝手に前に進んでしまうとか、さっきも述べたように一位がゴールして30秒が経つと強制終了になるとか、いろいろと仕様がある。


 ただまあ、みんな予想していることだろう。確実に凄まじい内容のレースが連発されることになると。

 というわけで、みんなで地獄に行こうか。もし企画が成立しなかったら、考えた陽くんが悪いということで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る