再生リスト2:四期生の絆を見せつけろ
#29【ダクリタ】初見死にゲークリア耐久くらいやらないと味変にならないみたい【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
「…………どうしよう」
私は今、途方に暮れていた。
〈おつかれ!w〉
〈まあそうなるよな〉
〈嘘だろオイ〉
〈ワイは信じてたでフロル〉
〈約束された結末〉
〈いいものを見た〉
〈はい企画倒れ〉
〈人外だ……〉
〈もしかしてRTAの人ですか?〉
「終わっちゃった……」
今日やっていたゲームは『ダークリターンズ』、超絶難度の死にゲーとして有名なタイトルだ。その難易度が故にライバーにも人気で、それなりにゲームの腕に自信のある人しかやっていないのに平均クリア時間は12時間。
とはいえ私は本当にゲームが得意だから、さすがにいけるだろうと思って配信を始めた。開始時刻は19時、6時間くらいかかっても午前1時だ。明日は土曜日だから比較的どうにかなる。
で、結果がこれ。クリア画面が映る配信に示された時刻は、19時53分だった。オープニングトークもあったから、40分もかかっていない。
ゲーム開始直後からいきなりラスボスに挑めるような仕組みになっているから、各種強化や弱体化のイベントを全部無視していきなり突入したんだけど……いくらなんでも。
「私さすがに3時間はかかると思っていろいろ用意してきたんですよ」
〈ほな配信終わるかー〉
〈おつかれー!〉
〈即ボス3時間の時点で人外だろ〉
〈今来たけど終わってる……〉
〈企画倒れしたら即終了が鉄則だぞ〉
いやだ! 今日はボコボコにされるつもりで始めたんだ! これだけじゃ終われないよ!
〈*天音水波 Amane Minami:うちの幼馴染よりゲーム上手いかもしれない人初めて見た〉
〈なんか天音水波おらん?〉
〈本物だァ!?〉
〈なんかおるんだけど〉
〈なんで???〉
「…………なんで今来るんですか天音さん」
〈*天音水波 Amane Minami:いつもと口調が違う……〉
〈いつも!?〉
〈あの、どういったご関係で?〉
〈確かに同じ事務所だけど……〉
〈もしかして電ファンやたら天音好きがちの理由出てくる?〉
なんか距離を詰める気満々のコメントがついたから、さすがに意図を察する。この子もママ同様フレンド登録しているから、disconectで通話をすることにした。
すぐに繋がる。案の定だ。
一応、配信の枠を一度切った。別枠扱いでアーカイブも分割する操作をしてから。
【突発雑談】なぜか天音水波と通話中【月雪フロル / 電脳ファンタジア】
『突然失礼します、天音水波です』
「連絡先持ってる時点で手遅れ感はあるけど……とりあえず、これは上は」
『承知してますよ。むしろそろそろやれってせっつかれてたところで』
〈来ちゃった〉
〈なんで???〉
〈タメ口だ〉
〈どういう関係なんだ……〉
〈ヤバい場面に立ち会ってるのかもしかして〉
コメント欄もザワついてきたけど、どうやら水波ちゃんはバラしに来たらしい。人の放送事故が起きた耐久配信のときにやることではないと主張したいけど、事故を起こしたのは私だから言えない。
これまで電ファンと天音水波は、ライバーがやたらと水波ちゃんの曲を歌う一方で水波ちゃんも複数の楽曲提供を行う相互関係だった。ただ、表に出ていたのはそれだけで。
「じゃあ紹介しちゃうね。……実は水波ちゃん、二年半前から電ファンでボイストレーナーをやってくれています」
『最初の一年は見習いでしたけどね。先生の発案で、人に教える形で自分も学ぶ機会を与えていただけていて』
「なので私もずっと教わっていて。……なんならこの間はディレクション、歌ってみたの監修までしてもらっています」
〈ほぁ!?〉
〈なんて???〉
〈最初からじゃねーか!〉
〈どデカいのきたな……〉
〈マジ?〉
〈当時の水波ちゃんって活動始めてすらなくない?〉
〈あの美音のやることではあるか〉
まあ、驚くよね。わかる。私としては本当に最初から面識があったから順序が逆だけど、今年だけで二本のアニメ主題歌を担当する高校二年生が同事務所系列とはいえVtuberのボイストレーナーをやっているなんて寝耳に水で当然だ。
ただ、一部には「
『本当はお互いここまで活動が広がる前にぱっと言ってしまってよかったんですけど、タイミング逃しちゃったんですよ』
「まあ、最初期はわざわざ言うことでもなかったよね。多少実績をつけてからのほうがよかったけど……日の目を浴びる高さで並んだ頃には、高すぎたというか」
『そうなんですよ。じゃあなんで今って話なんですけど、そこでフロルさんです』
そう。いつの間にかカミングアウトの規模が特大になってしまったから、言うにも機会が必要になった。世知辛い話だけど、私は体良く理由付けにされたことになる。
『フロルさんの歌、みんな聞いたでしょう? あれ、私が育てたんです。……自分で言うと恩着せがましいですねなんか』
「事実でしょ。二年半かけて育てられたんだから。このレベルの歌い手に全部仕込まれたんだから、このくらいは歌えるようになるって話で」
『あー、そうやってまた謙遜する。フロルさんが上手かったのも大きいんですから』
「でも電ファンはみんなそれなりに歌えるでしょ。水波ちゃんのおかげだって」
〈納得〉
〈養殖の歌ってそういう〉
〈なんかイチャついてる〉
〈俺ら今何を見せられてるんだ〉
〈死角からいきなりてぇてぇで刺されてる〉
〈そういうのちょうだいもっと〉
ある意味では、誰よりも水波ちゃんの影響を受けているのは私だから。彼女の功績を見せつけるにはこれ以上ないほどちょうどよくて、それを含めて本当は動画のクレジットに書くつもりだった。その前に向こうから突入してきたけど。
「……それで、さっき『幼馴染よりゲーム上手い人』とかなんとかって」
『ああ、それ。単に上手すぎってつもりで言ったんですけど、私は身近にゲーム強者がいて』
「へえ……ちょっと気になるかも」
『血が騒ぎますか? そうですね……武勇伝をみっつ知ってますよ』
個人を特定する情報がない話だけど、これが誰のことかは実は私には伝わっていた。九鬼朱音、私の同級生である。彼女の妹であるシオンは女優として芸能活動をしていて、二人の母親の弟子である水波ちゃんとは親友関係にあった。世界、狭いよね。
水波ちゃんがそのシオンちゃんとやっているラジオで、シオンちゃんが「お姉ちゃんは運動以外なんでもできる、ゲームも上手い」とは言っていた。彼女が運動だけ例外扱いされる理由はあるんだけど、それは割愛として……上手いとは聞いていたけど、そこまでなんだ。
「どんなの?」
『あの人かなりの九津堂ファンなので、全部九津ゲーなんですけど……ひとつは『クロノーシス・リローデッド』』
「……九津堂でそれが出てくるのは、かなりガチ勢だね」
〈え、あれ九津なん?〉
〈最初期の外注だけど九津なんだよなあれ〉
〈クロリロが九津なのはあんま知られてないよね〉
九津堂は21世紀に入ってから現れた新鋭のゲームソフトメーカーで、今となっては業界トップを争う大手だ。『Gather here, gamers』のキャッチコピーで世界中に知られる。
『クロノーシス・リローデッド』はそんな九津堂が黎明期に外注として担当したゲームで、名作RPGとの呼び声高い『クロノーシス』シリーズの外伝作品だ。
アクションRPGであるシリーズ本編と違って、リローデッドはダンジョンローグライク形式だ。出来はかなり良く九津堂というメーカーの力を見せつけた起点作でありつつ、意外とこれが九津堂製だとは知られていない微妙な立ち位置にある。
「私もやろうかなクロリロ」
『いいと思いますよ。ぜひ『宙渡りの回廊』の合成なしクリアを目指してみてください』
「…………まさかやったの?」
『それが一つ目ですね』
〈マジ?〉
〈は?〉
〈やば〉
〈それは相当やってんね〉
〈水波ちゃんの幼馴染にそんな化け物が……〉
〈合成ありでも無理だぞ〉
そんなクロリロはそもそもやや難易度高めの作品なんだけど、キャラクター系のダンジョンスピンオフのお約束としてとあるやり込みステージがある。それが『宙渡りの回廊』、いわゆるもっと不思議のダンジョンだ。
本来なら引き継いで進めていくレベルやスキルが初期状態に戻され、仲間もアイテムもお金も持ち込み不可能で、その他にもあらゆる親切仕様がなくなり、おまけに最大級の長期戦。そんな地獄同然の場所を、数少ない残された救済要素であるアイテム合成システムなしで踏破する。気の遠くなる話だ。
……え、これがひとつめ?
『ふたつめが、『ドラグメントエイジ』ですね』
「アレのそのレベルのやり込み、ひとつしか思いつかないけど」
『当たってると思いますよ。再戦ノアEXTREMEです』
「アレ達成するだけでものすごいバズるんだよ!?」
〈水波ちゃん、その幼馴染ってほんとに人間?〉
〈宙回廊合成縛りを軽々と超えてきて草〉
〈フロルですら戦慄してる〉
続く『ドラグメントエイジ』は、こちらは九津堂オリジナルの弾幕シューティングゲームだ。難易度は五段階あって、EXTREMEはそのうち最高のもの。いつでもノーリスクで難易度を切り替えられる仕様ということもあって、容赦のない絶望難度になっている。
ノアはそれのラスボスなんだけど、クリア後に再戦する彼女のEXTREMEは『九津堂の初代人間卒業試験』と呼ばれている。クロリロの合成禁止はただの縛りプレイだからノーカウントだ。それでもこちらの方が厳しいとすら思えるけど。
それをやったと。確かにそれを達成すると特大のご褒美があるけど……その難易度のほどは、なんと淡々とした字幕解説をつけただけの攻略動画を出していたチャンネルの登録者数が単一シリーズで20万人を超えるほど。
ただ……私はもうひとつだけ、これに匹敵する難易度を知っている。
「なんか三つ目わかった気がする」
『なんですか?』
「『ヴァンパイアハンターハンターズ』200%じゃない?」
『あたりです。……全部動画は撮ってるのに、投稿する気はないんですって。もったいないですよね』
〈wwwww〉
〈何者だよマジで〉
〈ここでVHH出てくるのアツいぞ〉
〈200%ってなんですか?〉
〈人外〉
〈水波ちゃんそいつ人間じゃないよ〉
〈フロル的には因縁にすらなってくるか?〉
ヴァンパイアハンターハンターズの説明はいいよね。夢エティアがバレたときにやっていた上に、二度目の配信ではRTAをやった縁深いゲームだ。
そんなVHHには、公式が非推奨とするほどのやり込みがある。それこそが九津堂の二代目人間卒業試験、200%クリアだ。具体的には、全てのコースに二人のプレイアブルキャラ両方でクリアマークをつけて、収集要素も含めて全クリアすることを指す。
露骨に片方しか想定していないようなステージがいくつも存在するから、その難易度は再戦ノアEXTREMEをも凌ぐ。その上こちらは達成してもご褒美がさほど多くないから、本当に達成感のためだけの称号だ。
「私が初配信で紹介したRTAプレイヤーに、せれなさんという人がいました」
『確かその次の配信で来てくれてましたよね』
「うん。あのひとはAny%日本記録保持者で、動画もそれを使ったんですが……200%RTAの世界も獲ってて」
『…………え、あれRTAするんですか』
〈ハァ!?〉
〈ガチだぞ〉
〈怖すぎ〉
〈フロルと水波ちゃん幼馴染でやべーって話してるのに次元違い出てきたが〉
〈さすがに……〉
まあ、そちらは本当にいろいろなものを捧げた結果だとは思うけど……せれなさん、普通に他のタイトルもやっているから怖いんだよね。本当に何者なんだろう。
ただ、ここまで聞いてひとつ思いついたことがあった。なにしろそれは、今日求めていたものそのものだ。
「……わかりました。やってやろうじゃないですか」
『え? ……アレを!?』
「挑戦してやられて、血反吐吐きながらやって達成するのがやりたいんです。そのためにこの枠立ててますし」
『それはまあ、確かに。じゃないとこれで耐久やりませんよね』
「だから公約です。皆の前で三つの成果を出して、そのままその先に行きます!」
『…………なるほど、これが電ファン……』
……「すぐ終わりそう」? なんてこと言うの。さすがに無理だって。
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???「え、そんな話知らな……昨日とぼけられてた!? あのひとフロルちゃんと……ぐぬぬぬぬ」
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