#6【初配信まとめ】四期生も案の定だった新人たちの暴走【電ファン切り抜き】
電ファンにはいくつもの伝統芸能が存在する。そのうちのひとつ、新人が最初にやるのがこれだ。
「じゃあここから好き勝手できるので、私は好き語りしますね!」
〈出た〉
〈あの?〉
〈い つ も の〉
〈好き勝手できるのでって〉
〈こいつ……ナチュラルに電ファンに染まってやがる!〉
〈好き語り?〉
〈前5人全員フロルがツッコんでくれるって言ってたのに〉
〈やはり電ファンにツッコミは存在しないのか〉
〈まーた性癖暴露RTAしてるよ〉
〈誰よりも電ファンに慣れた新人だぞ〉
初配信でいきなり暴走することである。これをやらなかったライバーは数えるほどしかいないし、その人たちも当たり前のように三回以内にもれなく弾け飛んでいる。
電脳ファンタジアに普通の人は存在しない。先月まではこれも迷っていた理由だったけど、私も覚悟を決めたから。やりたいようにやってしまおう。
「さぁて、どの方面からいきましょうか……やっぱり段階的に、大衆的なほうからですかね?」
〈しなくていいんだが?〉
〈乗るなエー○! 戻れ!〉
〈いくつもあるのかよ〉
〈フロルはツッコミであってくれ……〉
〈電ファンが過ぎるだろ〉
〈段階的???〉
〈やべーの抱えてるってことか〉
〈*野々宇千依 / Nonou Chiyori:あれ、ルフェ先輩はこの子は突っ込んでくれるって〉
〈体温フェチの同期もよう見とる〉
〈ちよりんそれ嘘や〉
〈ルフェさん新人に嘘吹き込むのやめろ〉
〈コイツを止めてくれちよりん〉
うん、やっぱり順番にいこう。後半のインパクトが落ちたりしても嫌だよね。
みんなは止めてくれてるけど、私だって電ファンだからね。やらなきゃ。
〈やらなきゃ(使命感)じゃなくて〉
〈だめだガンギマってやがる〉
〈誰かこいつを止めてくれ〉
〈*エティア・アレクサンドレイア / Etia ch.:おもしろ〉
〈エティアが止めなくて誰が止めるんだよ!!〉
「じゃあまずは……ママの絵が好きです。今日はちょっと布教しに来た部分もあるので、しばらくスライドショー出しときますねー」
〈お? なんか普通〉
〈初手親孝行〉
〈なんだいい子じゃん〉
〈おいまて〉
〈スライドショーデカすぎるが?〉
〈フロルを隠すな〉
〈sperはいいぞ〉
〈この子スライド芸する子だったのか……〉
「はい、sperママのご紹介です。透明感のあるタッチが特徴ですね。これまでアマチュアだったんですけど、これを機にプロになるって言ってたのでご依頼はこちらから」
〈いい絵なのはわかったから全画面をやめろ〉
〈フロル……どこ……?〉
〈sper絵でsper産立ち絵を隠す女〉
〈だからデカいって!〉
〈クソデカメアドきた〉
〈宣伝魂ヤバいな〉
〈一番宣伝すべきなのは自分自身だろ〉
よし満足した。じゃあこれは小さくして画面端に。
〈残すのかよ〉
〈このスライドショーもしかして今日いっぱい画面の四分の一埋めてる?〉
〈止まる気ないなあ……〉
「次に行きましょう。さっきゲームが得意って言いましたけど、私はRTAも好きで。特に見る方ですね」
〈RTAか〉
〈なんか普通だなやっぱ〉
〈止まらない以外はまとも?〉
〈開始0秒ギターとか素手カボチャ砕きとか自発的クソザコ早口言葉よりはマシだ〉
〈四期生イカレてんだろ〉
〈いつもそうだろ〉
〈実家のような安心感〉
〈確かに面白いよねRTA〉
「面白いところはいくつかあるんですよ。単純に洗練された動きも見てて楽しいですし、バグや裏技をどんどん使ってフラグぐちゃぐちゃになっちゃうのも。動画として見るときはガバも、解説動画のやつは特に」
〈うんうん〉
〈よかった普通の好き語りだ〉
〈なんだよ身構えさせるなよな!〉
〈やっぱりフロルちゃんはマトモ寄りじゃないか〉
〈おい〉
〈またクソデカ画面きたが??〉
〈制限速度いっぱい減速なしで急カーブ曲がるタイプですか?〉
〈初配信で他人のRTA動画流すの前代未聞だろ〉
「これは特に気に入ってる動画ですね。せれなさんの『ヴァンパイアハンターハンターズ』200%です。流す許可は取ってます」
〈?????〉
〈200%ってなに〉
〈このために許可取りに行ったのかよ〉
〈聞かれたプレイヤーの方も困惑だろ〉
〈貴方様の記録動画を弊社ライバーの初配信で流させていただいてもよろしいでしょうか?〉
好きは布教しないと広まらないんだよ。ほらここ、有り得ない動きを連続で決めてる。こういうのが好きなの。許可してくれたせれなさん、ありがとう。ファンです、応援してます。
じゃあこれも画面端にやって、次。
〈画面の半分が他人の成果物映像で埋まったが〉
〈さすがに立ち絵を前にしてくれて安心した〉
〈一気に絵面が電ファンになってきたな〉
〈やってることは「ホラゲ苦手なので今からやります」よりだいぶマシのはずなのに〉
「三つ目いきましょう。小ネタが好きです」
〈小ネタ?〉
〈だんだんニッチになってきたぞ〉
〈どういう小ネタだ?〉
うん、単語じゃ伝わらないよね。ちゃんとスライドを用意してきたよ。
〈だから全画面やめろォ!!〉
〈またフロルが見えなくなった〉
〈*葵陽【電ファン】:誰だよこいつがツッコミって言ったやつ!〉
〈ルフェとエティアとマリエルとお前ら〉
「いい、陽くん? ボケは単体でも成立するけど、ツッコミはそれだけだと成立しないんだよ。お笑い番組とかでもそうでしょ?」
〈それはそうだけども〉
〈そもそもギャグに振り切らなくていいんだよなあ〉
〈なんで自分が芸人なの前提なんだ〉
〈普通に配信してるだけでもいいんだけど……〉
〈アイドル売りとかないんか?〉
〈PROGRESSかつ歌姫のセレーネでダメだったんだから電ファンにアイドルは無理よ〉
「小ネタというのは、各種作品に散りばめられた本筋に必須ではないもののことです」
ボケとツッコミは今後はちゃんとバランスを取るつもりだけど、今は突っ走る。初配信のコメント欄に一体性なんてあるわけがないから、ボケを期待しないほうがいいんだ。
あんまりグダグダすると時間が足りないことを練習で確認しているから、どんどん進めてしまう。スライドをひとつ操作すると、上部のタイトル部分にある「小ネタとは」はそのままに、下に「話の本筋以外の作り込み」という文字が出てくる。雑なパワポだけど、むしろその方が手作り感があっていいだろう。
「RPGでいえばなんでもないNPCのセリフとかフレーバーテキストですね。そういうところにちょっとした笑いどころとか、ストーリー上のできごとの裏話とか仕込まれてることがあるじゃないですか。あれが好きです」
〈あー〉
〈わかる〉
〈そういうのいいよね〉
〈なんか普通の話だ……〉
〈勢いヤバいけど内容はまとも〉
〈エセ狂気か?〉
またスライドを切り替えると、実例として用意してきたものがいくつか連続して表示される。権利的な都合で全部ゲームだけど、ちゃんと自分で撮ってきたものだ。
「こんなふうに、イベントをクリアしてしばらくしてから戻ってきたらサブキャラの作業が進んでいるとか……寄り道した先にストーリーの背景情報があったり。
深堀りやその後の話のほかにも、死んだあのキャラと関わりのあるこのキャラが形見を身につけていたりとか、音ゲーの最大コンボ数に仕込みネタがあったりとか……推理ゲーやホラゲで読める本が置いてあったりとかも好き」
これについては割と賛同の声が多かった。わかってくれて嬉しいよ。
じゃあこれも画面端に置いて……BGMを変える。
「じゃあ最後ですねっ」
〈ん?〉
〈なんだ今度は〉
〈またなんか来る〉
〈もうお腹いっぱいなんですけど〉
〈もう10時半近いんですよ!?〉
〈ここで終わっていいのに……〉
まあまあ。きっと楽しんで貰えると思うからさ、もうちょっとだけ。
「私ね、仲間で遊ぶのが好きなんですよ」
〈はい?〉
〈なんだって?〉
〈仲間で遊ぶ〉
〈“で”???〉
〈アクセルかかったな〉
「はい、“で”です。電ファンはみんな面白いですからね、その面白さを引き出す手助けがしたいんです。……拾われてからしばらくはライバーになる気はなかったんですけど、結局それをやるには自分もライバーになるしかないというのが理由のひとつでしたね」
これは嘘ではない。ハルカ姉さんとの約束のときは「自分が面白いと思うこと」をやれと言われて、イタズラを選んだのは自分だった。それもこれも、ハプニングややり合いに呑まれて楽しそうに悲鳴をあげるライバーが好きだったからだ。
それを当人たちから認定されて、舞い上がりもしたんだ。だから今更止まる気なんてない。
「とりあえずさっき、同期のゆーこさんとはそのうちホラゲコラボしようと思いました。あのひと、たぶんそういうことした方が面白いと思うんですよ。
あとは…………ふふ。うん、いろいろ」
〈*四ツ谷幽子 -Yuko Yotsuya-:えっ〉
〈おおっ!?〉
〈さてはこれマジだな〉
〈視聴者的には嬉しいやつだ〉
〈よしきた! もっと狂えフロル!〉
〈推しの叫び声を供給してくれると聞いて〉
〈やべーやつCOがここまで歓迎されてるの初めて見た〉
〈いろいろ何するつもりなんですかね〉
〈笑みが怖い〉
〈やっぱ電ファンだわ〉
うん、任せて。私は楽しい、リスナーは嬉しい、コラボ相手は美味しい。一石三鳥だもんね、どんどんやっていくつもりだから。
一番手っ取り早いのはゆーこさんだけど、もちろん他のみんなともやっていくつもり。警戒はされるだろうけど、イタズラも隙があればやろうかな。
…………そんなスタンスを続けていれば、どこかで反撃も喰らうだろう。私も酷い目に遭わされて叫ばされることだってあると思う。
だけど、それはそれで面白いと思うし。覚悟はできてるからね。私はライバーだから。
「覚えておいてください。大抵の電ファンライバーにとって、嫌そうな『えー』は『仕方ないなあ、いいよ』です」
〈うわ、身も蓋もない〉
〈そうだろうけども〉
〈怒られそう〉
〈フロルも?〉
「そりゃもちろん。これだけ見てきてその覚悟すらできてなかったら、デビューの話を受けたりしてませんもの」
……まあ、この発言に私は今後幾度となく後悔することになるんだけど。
「ああ、もうひとつ好きなもの。……私は電ファンが大好きです。それも民草のみんなと共有していけたらいいなと思います」
〈おおう〉
〈これはてぇてぇか?〉
〈初てぇてぇの相手がデカい〉
〈急にエモいじゃん〉
〈終わり際に投げ込んでくるじゃん〉
〈もしかして民草でも遊ぶつもりか?〉
〈ずっと裏方として見てきたフロルちゃんだから言えることだね〉
画面はあと四分の一が残っている。電脳ファンタジアのロゴをそこに………いや、中央に置くことにした。これは私の生き方でもあるから、一番大事なんだ。
〈カオスな画面だ〉
〈きっちり全員電ファンだったな!〉
〈狂いまくってたのにまとめよる〉
〈なんでこんな配信で清涼感出せるんだよ〉
「さて、今日のところはお別れの時間ですね。次回ですが、私が一番いろいろ準備できてるので二度目の配信はトップバッターです。明日の夜からさっそくゲームやっていこうと思うので、よろしくお願いします!」
〈もう10時半か〉
〈終わりかぁ〉
〈明日了解!〉
「チャンネル登録ボタンは……スマホの方はこのあたり、PCの方はこのへんにあると思うので、そこ押して通知もオンにしてお待ちください! というわけで、今日は長い時間お疲れ様でしたー! またねー!」
エンディング画面に切り替えて……少し待ってから配信終了。うん、よかったんじゃないかな。
ちゃんと全部止まったことと、配信の切り忘れもスマホで確認して、ようやく力が抜けた。
そのまま数分動けなかった。結局、何割かは虚勢なのだ。私は自分自身に絶対的な自信なんて持てていないから、今だってびくびくしている。
でもまずは、無事にできたことを共有しに共用リビングに行かないと。……だけど、あと五分だけ待って。
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