#5【初配信】はじめまして! ……じゃないのかもしれない【月雪フロル / 電脳ファンタジア】

 四期生のデビューが発表されて二週間。普段より一人多い六人でのデビューだけど、追加枠である私の扱いは他の子と変えないことになった。同一人物と認めるとはいえ、フロルと雪を必要以上に混同してしまわないためだ。サプライズ枠としていきなり出てくる演出も案は出たけどね。

 それもあって、今回は早い段階からファンがざわついた。そもそも年に一度だった三期生までから転換して半年での追加だったことに加えて、ティザーPVに普通に六人いたのだからそれも当然だろう。


 今は電ファンにようやく現れた本格ロリ枠であるロリ魔女マギア・ワルプルガちゃんの初配信がエンディングに入ったところだ。私ももう待機状態には入っていて、Twittaへの告知投稿を送信手前で置いてある。

一人30分の初配信とはいえ六人でリレーとなると3時間まで伸びるから、半分で一度休憩時間をとったのもよかったのかな。五番手の終わり際でも最初と変わらない数万人の同接が保たれている。


「……落ち着いてるね、フロルちゃん」

「うん。夢エティアのおかげかも」

「あの程度でここまで楽になれるなら、元々向いてただけだよ。……じゃあ、頑張って」


 優しい先輩に恵まれたもので、エティア先輩は直前まで一緒にいてくれた。自分が直接の原因になったから気にしているのかもしれない。

 でも大丈夫だ。私は二年半もここで先輩たちを見てきたし、喋ってはいないとはいえ夢エティアは自分からやった。同期も五人とも無事に初配信をこなしたわけで、私が後れを取るわけにもいかない。不安はあるし自信はそんなにないけど、悲観はしていないんだ。

 電ファンではデビューまたは加入後の初配信は他の配信を重ねずみんなで見るのが通例になっている。今頃共用リビングでは私の待機画面を開いているところだろう。私もその一員として、ちゃんとしたところを見せないとね。


 緊張はちょっとだけ。ほどほど、自然体は保てていた。

 さあ、始めよう。





  ◆◇◆◇◆





「皆さん、はじめまして! 今日は初配信リレーに来てくれてありがとうございます!

 電脳ファンタジア四期生のアンカー、月雪フロルです!」


〈期待〉

〈きたああああああ〉

〈まさかの六人目!〉

〈めちゃくちゃ可愛いな……〉

〈これまたいい声してる〉

〈ハキハキしてんね〉

〈よかった、この子は普通だ〉

〈六人中三人がマトモじゃない始まり方してたからな〉

〈ここまでが電ファンすぎて普通に始まるだけで良心に見えてくる〉

〈ん?〉

〈なんか聞き覚えあるような〉


 視聴者数はマギアちゃんの枠とほとんど同じ、みんなリレーで来てくれている。ありがたいことだ。もちろん推してもらえるのが何より嬉しいけど、長く電ファンに関わってきた私としては箱単位でも見てほしい気持ちが人一倍ある。

 私も見ていたけど、同期はみんなよかった。その流れが繋がってくれているのがわかるし、視聴者さんもラストスパートでついてきてくれているのを感じる。……いやほんと、お疲れ様。何人かすごいはっちゃけ方してたもんね。

 ……ただ、どうやら第一声で気付いた人もいるようだ。それ自体にも嬉しく感じてしまうのはともかく、違和感で楽しめなくなる前に言ってしまおう。まずは用意しておいたスライドを画面に表示する。プロフィールと全身絵が載っているものだ。


「話したいことがたくさん……ほんとにたくさんあるので、どんどんいっちゃいましょ。まずは自己紹介から」


月雪フロル


種族:アルラウネ

年齢:よく覚えてない

誕生日:5月4日

身長:149+約200cm


 画面には緑髪を伸ばしたあどけない少女が映っている。頭には大きめの髪飾りくらいの花がひとつ咲いていて、肌は気持ち程度に薄緑がかっていた。白と赤の花びらをイメージしたデザインのワンピースを着て、袖からはそれぞれ植物のツルが一本ずつ。脚は膝あたりから露出していて、靴はがくのような形のものを裸足から直履きだ。

 ママことsper渾身のデザインで、これでもかとアルラウネらしさを出しつつちゃんと健全の範囲内に収まっている。……うん、可愛い。


「改めて、コンロンカー……っと、私の種族ではちょっと気合を入れたいときの『こんにちは』が『コンロンカ』になります。ああこいつ挨拶してるんだな、くらいに思ってください」


〈アルラウネ〉

〈設定面から濃さを出してくるタイプか〉

〈+約200センチってなんだよ〉

〈コンロンカ?〉

〈種族の挨拶出てきた〉

〈「ああこいつ挨拶してるんだな」〉

〈それでええんか〉


「ということで、まずは見ての通りですね。私、アルラウネです。つい数年前までバーチャル山奥で森の獣とか迷い込んだ人間とかぱくぱくしてました。まあリアル日本じゃないのでセーフですね、ね?」


〈こわ〉

〈おまわりさんこいつです〉

〈人喰いアルラウネじゃん〉

〈リアルとか言わんでもろて〉

〈ぱくぱく〉

〈バーチャル山奥なら許されるんか……〉

〈電ファンの匂いしてきたなぁ〉


「あ、身長の+約200cmはこれ、ツルです。だいたいそのくらいあります。その気になればもっと伸びますけど。

 で、誕生日。なんか日本ではみどりの日らしいですね。アルラウネは発芽じゃなくて花が咲いたときを誕生日とするので晩春でした。偶然ですねぇ。

 まあ年齢は流してください。とりあえず人間と比べれば長命種ってことで」


 掴みは順調かな。一応それぞれがどんな初配信をするつもりかは相談してあるし、私は最後だからインパクト負けしてしまわないようにちょっと頑張っている。最初はこれから明かすひとつだけで足りると思っていたけど、同期もしっかり電ファン狂気揃いだとわかって自重は不要だとわかった。

 実際、初手茶番から入るライバーも多いからね。私はやめておいたけど、その分畳み掛ける用意はできている。というわけでさっそくここで。




「で、です。たぶん私の声をちょっとだけ聞いたことある人もいるんじゃないかなと思うんですよ。……勿体ぶらずに言いますと、私はずっと電ファンで居候しながらアルバイトしてたんです。雪って名前で」


〈雪!?〉

〈やっぱりか!〉

〈あの雪ですか!?!?〉

〈逃げられなかったんか〉

〈そういう気配はしてた〉

〈待ってた!!〉

〈雪ちゃんもついにデビューか〉


「ほら、昨今は熊が人里にーとかよく言うじゃないですか。あれって主に、山に獲物が減ったから降りてきているんですよね。アルラウネ的にも似たようなもので、おまけに熊まで里に降りて余計に森に食べ物がないわけです。

 それで私も降りてきて、最初は人間社会に溶け込みながら隙を狙うつもりだったんですけど……手を出す前にハルカ姉さんにテイクアウトされちゃって」


〈めちゃくちゃ野生〉

〈アルラウネって野生動物なんすね〉

〈なんか魔物感なくなってきたな〉

〈テイクアウトw〉

〈そらこんな子見つけたら連れ帰るわハルカなら〉

〈言い回しの端々が電ファンなんだよな〉


「その時にライバーに誘われたときは断ったんですけど、じゃあ餌やるからちょっと手伝ってって……当時はどれだけ人足りないんだここって思いましたけど、今思えば諦められてなかっただけでしたねぇ」


〈だろうね〉

〈GJハルカ姉〉

〈餌……〉

〈アルラウネ捕り罠?〉


「ただそれから、すっかり人間社会の文化の魅力を知っちゃって。今では立派な都会かぶれです。こんなにたくさんの人間文化に染まった今、森に帰るなんて考えられませんし!

 ……ま、それだけです。こうしてライバーになったからには他のみんなと同じなので、区別とかはしないでもらえると嬉しいかな」


 まあ、このあたりは上手く話していけばいいだろう。何もかもを明かす必要はないし、自信をなくしてイタズラの約束という部分は後から出る動画があるから今言わなくてもいい。

 それに、この話を長引かせると30分しかない初配信の時間がなくなってしまう。私が雪だとは伝わったから、次に進もう。




「あとは配信に関わるあれこれですね。私の場合はある程度決めてきました」


ファンネーム:民草

配信タグ:#フロルのお花見

ファンアートタグ:#アートフロル

せんしてぃぶ:#フロルの撒いた種


「ゾーニングは大々的にやった方がいいって先輩たちが言ってたのと、ローラ先輩が用意してくれって言ってたので。まああの先輩が何を見てどう扱おうと私には関係ないですから」


〈おっセンシタグを自分から用意するタイプか〉

〈民草〉

〈獲物とかじゃなくていいんですか?〉

〈さっき人喰いみたいなこと言った割には仲良くしてくれそう〉

〈ローラさん!?〉

〈絶対餌になるだろこれ〉

〈ローラの本性知ってるだろうに作るのか……〉

〈強いぞこの子〉


 まあ、ツッコミどころはそんなにないはずだ。多少捻って、とはいえ妥当な範囲内になっていると思う。センスのほどはわからないけど、一捻りはしてみたかったんだ。

 センシティブタグについては、あった方が通常の配信タグやファンアートタグに流れてくる危ういものが減ると聞いている。ガチレズセンシティブで有名な先輩の趣味は副産物だ、好きにしてもらおう。






「次、やりたいこと……これはいろいろです。本当にいろいろ、せっかくライバーになったからにはできることはどんどんやっていきたいなって」


〈おお〉

〈チャレンジャーやね〉

〈なんでも?〉

〈オールジャンルか〉

〈こういうこと言うと先輩たちの餌食になる〉


 大丈夫、私は逆に餌食にするくらいのつもりだ。ライバーとしては新参でも電ファンハウスの住人としては最古参、遅れを取る気はない。


 やることはなるべく手広く。雑談もしたいし、歌だってそこそこできると思っている。ASMRや企画系も考えているし、公式番組も出してもらえたらどんどんやっていきたい。割と器用な自覚があるから、できることややりたいことを片っ端から試していくつもりだ。

 ただ、中でも狙い目がひとつ。


「だけど、ゲームは特に自信あるので重点的にやっていくと思います。たぶんこのシェアハウスでは一番上手い自信があるので」


〈だろうね〉

〈ダンピール避けヤバかった〉

〈あれ見たら上手いのはわかる〉

〈ジャンル指定しなかったな〉

〈大きく出たなあ〉

〈とりあえずアクションはアレだし〉


 ジャンルは定めない。私はゲーム全般がかなり得意だ。もともと器用貧乏なきらいはあったんだけど、それがゲームになると妙にハマる。

 そういうアイデンティティはあった方がいいだろう。持っているものは活かさないとね。




「さて。やらなきゃいけないことは済みましたね!」


〈あっ〉

〈うん?〉

〈あの……?〉

〈流れ変わったな〉

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