ナフィア譚 1−2
「お散歩みたいで楽しいわねぇ、よくよく考えたらお外でご飯食べるってあんまりないからどんなご飯でも楽しみにしていた方がいいのかしら?」
「双子ちゃんが作るご飯ですものね。私もとっても楽しみです」
「そんなに楽しみならば材料を摂るのを手伝ってやればいい。君たちが獲ったものがその日の夕食になるからな。僕は熊肉が食べたいから熊を狩ってくれ。」
「アンタが食べたいならアンタが捕まえなさいよ。それに乙女2人で熊を捕まえるなんてどう考えても無理でしょうが。」
「2人…?すまない僕は疲れているのかもしれない」
「疲れてないわよ。アタシとアトラスちゃん。普通に考えて熊なんて無理よねー!アトラスちゃん!」
「熊ですね!見つけたら頑張ります!」
「頑張らないで!?か弱い乙女がアタシだけになっちゃうでしょ!」
「カオル子ちゃんはお姫様だから頑張らないで…」
「ジノとモノが守るから安心して…」
「頼もしい
そんな話をしながらまたひたすら歩く。途中双子はまだ子供で、疲れてしまったのかベルベットとカオル子におんぶされて眠っていた。時刻は午後2時前だろうか。ベルベットが突然足を止めた。何やら遠くを見て目を細めている。
「どしたのベルちゃん。くしゃみでもしたいの?」
「ちょっと交代しろ。」
「え、アタシジノちゃんもおんぶしてるんだけど!?」
「それを抱け。そしてモノも持っていろ。」
「ちょちょちょ、おもっ!」
「おいアトラス。剣を抜いておけ。くるぞ。」
「え、あ、はいっ!」
「ちょっとちょっと!?待ってアタシ置いてけぼりなんだけど!?どゆこと!?」
「うるさい。気が散る。」
ベルベットが日傘を閉じてまとめたその時だった。前から大柄で、それでいて貧相な服を身につけ錆びかけた斧を持っている6人程度の集団がやってきた。
「何用だ。」
「へへへ。金持ちの旦那ァ、ちょいと道を尋ねたくってねェ」
「道を尋ねるのにその錆びた品のないものは必要か?」
「ええ必要ですよ。こうやって使うためにな!」
突然1人がそう叫ぶと同時にカオル子達目がけて斧を振りかぶって突進してくる。ベルベットはカオル子を突き飛ばすような形で木の後ろへと隠す。その代わりに前にでてきたのは剣を構えたアトラスだった。
「アトラス。君がどうにかしてくれ。僕は戦いたくない。」
「この人数だったらおそらくどうにか…」
「この人数?あと僕らの真後ろに6人規模の小隊が1つさらに目の前の奴らの左右からそれぞれ約10ずつ来るが。」
「え、嘘…」
「経験者なのに全くわからないんだな。呆れる」
「逆にベルベットさんが鋭すぎるんですよ。何か経験があるんですか?」
「ない。殺気と下手くそな気配の殺し方でわかるだろうに。」
まさにベルベットの言ったとおりだった。後ろの隊は隙を突いて攻撃してこようとしていてまだ出てこないが前からはゾロゾロ人が出てくる。全員が皆汚い格好をしていてそれでいて武器を一丁前に持っていた。人はそれを山賊と呼ぶ。
「賊が何のようだ。」
「決まってんだろ?金と女だよ。」
「女も金も無いから大人しく通らせてくれないかね」
「女はいるじゃねえかてめえの隣によぉ!」
「これはあれだ。うん。君たちの求める女じゃない。というか仮にこれが君たちの求めるか弱い女だとしても貴様らのような下劣な生物に与えるものではない。」
「優しくお話しててやったら生意気な兄ちゃんだな。兄ちゃんも綺麗な顔してんだから抵抗しなきゃ傷をつけずに売り払ってやるぜ?」
「私の美しさは換金できないよ。でもまあ君たちの腐った目でもわかるほど私は美貌に満ちているなら光栄さ」
「ちっ!抜かすなボンボン!てめえらやっちまえ!」
おそらく指図役の人間が声をあげると一気に雄叫びをあげて山賊たちはアトラスとベルベットに襲いかかった。こんなに数がいるのだから集団で作戦があるのかとも思ったが統率は全く取れておらず各々が思うままに武器を振り上げているだけで意外と簡単に捌けそうだ。アトラスはやっと役に立てることができると嬉々として剣を振り回す。さすが勇義隊副隊長を務めていただけある女で身のこなしは軽やかで戦闘慣れしていると言えるほどだった。ただ彼女の優しさが滲み出てしまっているのだろう。傷をつけても致命傷や動けない負傷などではなく起き上がることができる物はまだ襲いかかってくるような傷しか残せていない。ベルベットはそんな起き上がってくる根性ゾンビ達の顔をふんずけるようにしてサポートして回った。だが圧倒的人数にアトラスは徐々に押されているように見える。待機していた背後戦闘員がアトラスにバットのようなものを振りかぶったように見えた。
「アトラスちゃん危ない!!!!」
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