ウェスティア譚 11−3
「あいついきなり殴ってきたぞ。」
「いい音してたもんね」
「なんだあいつは。助けてやったというのに」
「わかったわかったから、アンタはもう用済みってことよアタシが代わってあげるからリビングにでもいなさいな」
ああなるほど…脱がせている最中運悪くアトラスに起きられて頬をぶたれたのか。苦笑いしつつもう脱がせた甲冑を持っているベルベットの背中を押して一階のリビングに戻らせた。
「ごめんねアトラスちゃん…目覚めてすぐに仏面顔のあんな男が自分の服脱がせてたらびっくりするもんね」
「あ、あなた達…いたっ…」
「まだ動いちゃダメよ!手当まだしてないんだから!さ、傷を見せて!手当しちゃいましょ!」
カオル子は阿呆だった。アトラスと会話ができた流れで友人にするように体を隠してくるまっていた布団を剥ぎ取ったのだ。いくら傷の手当をするとは言え異性の前でいきなり全裸を晒されたアトラスはどうなるだろうか。先ほどリビングで聞いたのと全く同じ悲鳴が近距離で聞こえたかと思えば乾いた音と共にじんわり右頬が痛んだ。今度はカオル子がベルベットにしたように双子が慌てて階段を登ってきた。うん。もうこれは双子ちゃんに頼むしかないと双子にその場を任せて自身は先ほどの彼と同じようにトボトボ階段を降りてリビングへ向かった。
「お前もか。」
「多分アタシが悪いんだけどとてつもなくいい一撃だったわよ。」
「ざまあないな」
「何よアンタもビンタされたくせに」
だがベルベットの右頬の腫れはもう跡形も見えない。叩かれた力が弱かったのだろうか、それとも時間の経過か。まだ自分の頬はじんわり痛むというのに。頬を撫でながらソファーに座ればベルベットは本を閉じて包帯を取り出しカオル子の足の手当を始めた。
「あら?アンタ自分で人に干渉することなんてあるの?」
「酷いことを言うな。僕だって手当てぐらいする。それと双子を守ってくれたそうだからな……と…」
「え?何??ゴニョゴニョ言わないで聞こえないから」
「何も言っていない。」
「嘘よ!双子を守ってくれたそうだな…の後なんか言ってたわよ!」
「やめろ僕の声真似をするな。似てない」
「もう一回やってあげましょうか?」
「この傷引っ叩くぞ?」
「いやです」
ベルベットが少し前、死にかけだった自身のために魂を弄り治癒力がなんたらと言っていたがその通りかもしれない。ろくな止血もしないと言うのにもうすっかり傷口から流れる血は止まり、腫れも引いている気がする。ぐるぐると無心でこちらの足首に包帯を巻くベルベットに彼女は疑問に思っていることを聞いた。
「ねえベルちゃん?」
「なんだ。」
「ベルちゃんなんでアタシ達の場所がわかって、危ないってわかってきちゃったの?そんなに長時間出かけてたわけでもないのに」
「嗚呼それならお前につけたあの守りの隠し布あっただろう?」
「あったわね。無くしちゃったけど。」
「あれを結びつけるときにこれが解けたら僕の方にわかるように術をかけたんだ。君のことだ。どうせ顔を隠していても面倒ごとを起こすと思っていたからね。結果はまあ見ての通り僕の予想が当たったわけで」
「すごい大正解。すごい馬鹿にされてる気もするけど有難い気もする…」
「まあいいじゃないか結果万々歳なんだから。」
「ふぅん…ベルちゃんってさ、ほんとに魔術使いなの?」
「だったらなんだ。」
「アタシが読んだ本とか勇義隊の人たちは魔術師は悪魔に身を売った悪役だって書いてあるけどベルちゃんが悪い人にはアタシ見えないわ。悪人だったらあそこで双子ちゃんだけ助けてアタシは置いていくだろうしもっと無差別にとんでもない攻撃するんだと思ってたから」
「…僕はただ自分の信念を貫くだけさ。それに…まあいい。」
「また途中でいうのやめたのぉ?」
「お前が知らなくてもいいことだからな」
「まあ喋りたくないことがあるのはお互い様って前にも言ったばっかりだしねぇ。アンタのそのしけた顔見てると揶揄う気も失せるわ」
「僕の顔はいつも通り潤っているが?」
「表情の話」
「ハンサムだろう?」
「憎たらしいほどにね」
一瞬重くなったように感じた空気もお互いを適度に馬鹿にする会話で解けていく。すっかり包帯で巻かれ終わりまた互いが紅茶や本に戻っていると手当が終わったのか持っていった道具を持って二階から双子が降りてきた。
「傷の具合は?お疲れ様だったな。」
「ちょっと切れてるだけ…」
「ベル様のお薬塗ったからすぐ治る…」
「そうかありがとう。」
足にまとわりつく双子の頭を撫でれば双子は嬉しそうに道具を片付けにかけていった。双子の顔を見ればビンタを食らってはいないのだろう。完全に傷の手当てが終わったことを確認したベルベットは話をしてくると本を閉じて立ち上がった。
「僕はあの女に話を聞いてくる」
「待って、アタシもいく」
「なぜ?」
「だってアタシがいなかったらベルちゃん酷い尋問しそうだもの」
「僕のことをなんだと思っているんだい。」
「酷い尋問をする人。」
「そんな馬鹿な」
「それにあの子と1番最初に出会ったのはアタシよ。アタシも話を聞く権利があるわ」
「そんな無駄な時間を過ごすなら石を探していた方がいいと思うぞ」
「無駄な時間じゃないわ必要な時間。安心して今日から徹夜で探すから!」
「また喧しくなるのか……」
眉間を押さえ階段を登るベルベットの後ろについて行けば学んだのかベルベットは石の扉を叩いて声をかけた。
「入るぞ」
「ど、どうぞ…」
扉の向こうから女の声が聞こえてきた為もうすっかり意識は覚醒しているのだろう。開く扉の向こうには包帯を巻かれて布団を体にかけてこちらを見るアトラスの姿があった。
「君、名前は?」
「アトラスです。アトラス・レデュルク。」
「そうか。ではアトラスくん。君にいくつか質問をさせてもらうよ。」
カオル子や双子に向けるものとは180°変わった凍てついた目でベルベットはアトラスと名乗った女を見下ろした。
カオル子の残金あと98万4400ペカ
第11話 (終)
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