ウェスティア譚 6−2
「凄い古そうな本かと思ったら、中の紙は綺麗だし文字も良く読めるのね」
「表紙は塗装が落ちるほど読んでしまったがね、中身は保てているようで良かった。」
「一冊の本にそんなに時間かけて読むの!?」
「違う。一冊の本を何度も読むんだ。その本も私が…まだ子供だったときに買った物だ。」
「子供の頃から?すごぉい………アンタが子供の頃って何年前?今何歳なの?」
「秘密」
「なーんで!!??アタシには無理やりにも言わせた癖にっ!」
「あれは最初の口ならしの質問だ。別に聞いてもいいじゃないか。」
「あんたねぇ……レディに口を聞くならそういうとこ気を付けなさいよ?」
カオル子は深いため息を吐けばやれやれ、と言った素振りを見せた。自分に対してだけ敢えて聞いていたと思っていたがどうやら本当にベルベットは理由がわからないらしくきょと、とした顔でモノとジノに視線を移して彼は首をかしげた。
「何故?」
「え、本気でわからない………ような顔してるわね」
「分からなかったら聞いていない。早く教えろ」
「教えてくださいでしょ?まぁ教えてあげるけど。」
「気になったら解決しないと気が済まない性格でね。どんなに時間が掛かっても知りたい。」
「そんな顔とか雰囲気してるから分かるわよ………。女の子は何歳になっても乙女で居たいのよ。だから『私何歳に見える?』って聞かれたら『18歳ですよね~?綺麗なお肌!』とか言うのがマナーで礼儀なのよ。間違ってもアタシにしたみたいに乱暴に聞かないこと!」
わかった?と念を押せば彼は口のなかで言葉を復唱し素直に『わかった。気を付ける』と頷いた。そして言わなければ良いのに余計なことを口にだした。
「でも君は男じゃぁないか?男でも乙女な部分はあるのか??恥ずかしがり屋…とはまた違うようだが」
「はぁ゛あ゛!?アタシはどうみても女の子でしょ!プリティーでビューティーでセクシーでファビュラスでしょ!!」
「…カオル子ちゃん可愛い」
「…カオルちゃん可愛い」
「肌は綺麗だと思う」
「は。?はってどう言うことアタシのお顔も髪の毛もぜーんぶかぁわいいでしょ!?モノちゃんとジノちゃんが正解よ」
「女のようにしているな~程度には思う。何故君は女の真似事を?」
何故出会ったばかりの人間に命の恩人と言えどもそんな深いところまで教えてやらなけらば行けないのだろう。カオル子は自分の両耳のサイドに手を持ってきて、ピロピロ振りながらべーっと彼目掛けて舌を出して変な顔をしてやった。
「失礼な子には教えませ~ん!んべぇ~だ!」
「んべぇ…」
「べぇ…?」
「失礼?何処がだ。」
「踏み込んだ所に突然質問してくるところよ」
「年齢には振れてないだろ。」
「触れちゃいけない所が個人間にもあるのよ!アンタも年齢のこととか魔法をどうして学ぼうと思ったのか根掘り葉掘り聞かれたら嫌でしょう?」
「………確かに。殴りたくなるな」
「こっわ。武力行使過ぎるでしょ。まぁそういう事よ」
「ふむ、此方も気を付けることにしようか」
自身も触れられたくなかった物を引き合いに出されたベルベットは素直に引き下がる。そんな様子を見て常に素直なら良いのになぁ、なんてことは思わないことにしてあげた。
「しばらくの間はお暇な思いしなくてよさそうね。まあ読んでみるわね。あ、お暇だったらモノちゃんもジノちゃんもベルちゃんも遊びに来ていいのよ?」
「ベルちゃんは行かない。」
「モノちゃん遊びに行くね」
「ジノちゃんも遊びに行く。」
「いつでもおいでなさいな!ベルちゃんは暇じゃなくてもアタシが読み終わったら来なきゃいけないでしょ」
「…読み終わるな。寝てろ。」
「ひどぉい!アンタが本でも読んでろって言ったのに!」
「言ってない。読めばどうかと聞いただけだ。」
「言ったわよ絶対。」
「言ってない。な、モノ、ジノ」
「ちょーっと!それ卑怯よ!」
「頭を使っただけだ。悔しかったら出直すんだな」
「悔しくありませんよーだ!だからこのままですぅ」
小学生レベルの言い合い。だがそれはお互いが同じ精神年齢ではないと成立しないモノだろう。つまりお互いが小学生ほどの喧嘩知能しか持ち合わせていないと言うこと。だがどちらもそれに気がついていない。
「まぁ君がバカかバカじゃあないかは置いておいて、じっくり読んで今より幾分か賢くなってくれ」
「言われなくてもそうしますよ〜だ。早く行っちゃいなさい」
しっしっ、とベルベッドには払うがモノとジノにはまたね、と手を振って退出していく。そうすると再び部屋には静寂が招かれた。開かないと思っていた石壁に嵌め込まれた窓も今日は両開きになっておりそよぐ外の風がダイレクトに部屋に招かれている。ローテーブルに置かれた本一式をベッドの上に並べて1ページ開き、表紙からは分からなかった題名を確認した。薬草と気候で作り出す薬、魔術と魔法と自己エネルギー、眷属との戯れ方、5つの国に学ぶ古の魔法と魔術、黒バラの女騎士。四冊は専門書のようなもの、あと一冊は物語。物語の本は可愛らしい女の子の挿絵がところどころ入っており本当に少し分厚い絵本のようなモノで乙女心が揺らぐ。
だが今は物語は気になっているが物語よりも専門知識のようなことを知り得たく、魔法使いの仲間入りごっこがしたかった。どれにしようかな、と綺麗な指先で選び出した本は『五つの国に学ぶ古の魔法と魔術』だった。
表紙はくすんだ紫色で、古本のような香りはせずにどこか惹かれるラベンダーオイルのような香りがしている。不思議とページをめくる手と興味が一気に惹きつけられた。
「あら…意外といい香りなのね……。えーっと、初めに?」
『この本を読むということはあなたはこの世界に飽き、刺激と楽しみを求めているのですね。それとも血のにじむような努力をしてでも手に入れたいものがあるのですか?これを嘘を語った夢物語の本だと思う方もいらっしゃるでしょうか。そんなお方はそう思って読んでいただければ良いです。ただ本当に希望を求めている方ならば、本当に何かを変えたいと思っているのなら、信じて、ページをめくって、飲み込んで見てください』
冒頭からこの世界に飽き、と書いてあるが何を言っているのだろうか。この世界に飛ばされて右も左もわからない人間なのにこんなすぐに飽きることなどあるわけがない。ただ面白そうなのでそのまま読み進めることに。
第1章 イリファ編
第2章 ウェスティア編
第3章 ナフィア編
第4章 サウスィア編
第5章 リスタチア編
第6章 世界共通編
と6つの章から成っているようで国に対して50個を超える魔法や魔術や伝わる伝説についてが細かく書いてあるようで最後の章は世界それぞれに結びついている伝説が幾つか書かれていられるらしい。とりあえず今自分がいるウェスティアとウェスティアに共通する世界のお話から始めることにした。
『ウェスティアは四つの地域からできている。栄えている方からトリプト、ジオルド、マディルド、セロプアとなっている。
トリプトは国を守る優秀な兵隊が多くそれと並行して魔術狩りをする勇義隊も多い。魔法具や武器、魔法石や杖を売っているのを良く見る。魔法使いが主人公の話が多い。
ジオルドは武器の店は無いが飲食店や生活必需の食材や服を売っていることが多い。掘り出し物が多く、表通りの裏では相当強力な魔法品を売っているらしいとよく聞く。トリプトでは力を振れなかった不作法な兵士が横暴な態度を振るっていることが多い。
マディルドは農作業や土木建築を仕事を担っている人間が多く、飲み屋が多い。地方で採れたての果物などが安く売られている。定期的に魔術師の話が聞かれ、定期的に勇義隊が見回りにくることが多い。
セロプアは人が住めるような箇所は少ない。あってもそこの人々は酪農などで生計を立てていることが多く、新参者を拒む節がある。山や僻地が多く化け物の話が多い』
ここはセロプアだとベルベットが言っていたがここはそんなに不気味なところでは無い。まあ僻地はあの崖を見るかぎり真実だが、森もあり、綺麗な空も空気もある。化け物がいると書いてあるがきっと街の人々がベルベットを吸血鬼の化け物と言っているように勘違いや恐怖からそんな伝説が生まれたのだろう。
怪我が治る魔法の泉の噂や喋る小鳥の話。無限に魔法石の湧いてくる宝箱。思わずクスッとしてしまうような、それでいてあり得ないような。それらは夜寝る前に母親がお話ししてくれたお話のようで心から滲み出るような柔らかい気分が湧き上がってきた。あっという間にウェスティアに関する不思議なお話を読み終わってしまった。
「この世界は本当におとぎ話みたいな世界ね…ちっちゃい頃のアタシがここにきたらとっても喜んだはずなのに…」
ふ、と顔を上げればベッドの隅にインク瓶と羽ペンと、和紙より幾分か強そうな紙が置いてあるのが見えた。筆ペンやインクは使ったことがなかったが今の本を読んだ自分は半分魔法使いの気分でキュポっと言う音を立てて蓋を開け、ちょぽちょぽとインクに羽ペンを付けて何か描いてみることにした。読んでいない本の表紙を下敷きに、その本に紙をおいてとりあえずお花を描いて見る。ちょっと考えて、今さっき本で読んだ喋る小鳥を想像して小さくて丸い鳥さんを描いてみた。自分で描いた絵なのにびっくりする程可愛らしくて積まれた本の上に飾ることにした。
「あららやだ可愛いじゃない〜」
ひとしきり満足したのだろう。また本の続きに目を落とす。次にカオル子を待ち受けていたのは夢とは真逆のような存在のお話しだった。
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