ウェスティア譚 7-1
カオル子の意識が覚醒してから、丁度二週間が経った。現在カオル子はベルベットから貰った古いウェスティア一帯の地図を凝視している。古い地図の中になら今となっては廃れた館になった建築物が建っているだろうという浅はかな考えからである。
『西の山の廃れた館に眠る魔法石を見つけることができたら、一緒に伝説を信じて助けてやろう』
先日のそのベルベットの言葉を信じながら、歩けるようになったら辺りを探索しようと思っている為、それを助ける歩けなくともできる作業に勤しんでいた。彼から渡された地図はどうやら古いものらしく、その当時ウェスティア一帯に立っていた館の場所と、建てられた年号がそれぞれ丸く記されたマークの上に書いてあった。この年号はカオル子の世界と通じている物ではないらしく『法暦』というもので表されている。ベルベット曰く『魔法が生まれた年を法暦1年として数えている』暦だそうだ。ちなみに今は法暦1300年らしい。
「全くわからない土地の全くわからない年代の全くわからない地図から正解なんて導き出せる訳ないじゃなぁぃ……難しいわぁ……」
今この場所が詳しくどこかもわからずにとりあえず親切に振られた数字とその場所を確認することにした。この当時の館の数は全部で13個。親切に地図には新しい順番から数字が降られていた。
1 200年 2 200年 3 163年 4 160年 5 156年 6 100年
7 098年 8 083年 9 079年 10 015年 11 008年 12 008年 13 007年
各所バラバラに数字が振られていたがメモ用紙に順番と場所を書いて整理していけば案外簡単にまとまった気がする。
「まぁ場所がわからずともこの書いてある年代で一番古い館がわかっちゃうわね!そう考えたら簡単簡単!!」
そう答えを導き出して意気揚々と地図の一番古い13番目の館に羽ペンで丸を付けようとしたがあることに気がつく。あの伝説を記した本には『一番古い館』とは書いていなかった気がするのだ。慌ててあの鳥を描いた紙を栞にしておいたページを捲るとやはりそうなようで、『廃れた館に眠る』としか書いていなかった。
「Oh……なんてこったい…パンナコッタい……」
答えを導き出せそうなステージから一気にどん底ステージに叩き落とされ、思わず頭を抱えて踞ると開きっぱなしになっているドアをこんこん、と叩く音が聞こえた。それに気がついて勢い良く顔をあげると洋服一式とタオルを持ったモノとジノと、その後ろで偉そうに扉をノックしているベルベットが立っている。
「カオル子。風呂だ」
「……え!?お風呂入れるの!?」
「もうだいぶ良くなっただろう?歩けると思うからそろそろ風呂にはいれ」
「モノたちがいれてあげるね」
「いしょに、はいろ」
「やったー!!お風呂だぁ!!」
地図の謎なんてそっちのけで天高く拳を突き上げて喜びを表す。それはそうだ。彼女がこの世界に来てから約三週間体を洗うと言う行為をしていないのである。意識を失っている間はちょくちょく体を拭いて貰ったりしていたらしいがやはりお湯に浸かって自分で体を洗うと言う行為は何より特別で、異世界関係なくとても嬉しいモノだ。
もう歩けると聞けば布団から脱出してそっと固い石の上に敷かれたカーペットに足を下ろした。
「どうだ?まだ痛むか?」
「ビックリする位痛くない…アタシホントに骨折れてたの?」
「まだ調子に乗るなよ。また折れる」
「また折れるなんてことはないでしょ。走ったりできそう」
「いや。しばらく動かしていないなら筋肉の老化で動かしにくいし筋肉が減っているから転んだりすれば衝撃は吸収されずに骨にモロに響くぞ」
「はいごめんなさいゆっくり歩きます…」
ベルベットに右側、階段の壁に左側を支えてもらいながら、大きな螺旋階段状の階段をゆっくり降りていく。階段も全ての床も、ほとんどが石でできているようだがそれらの上には柔らかで歩くときしゅきしゅと音を立てるカーペットが敷いてあった。
「いいお家ねぇ…なんでアタシが見てきたお家と違って全部石でできてるの?」
「知らん。この建物ができた時代に流行ったデザインなのか、あえて加工しずらい石を建築に使うことで力を表したかったのか…。まあ涼しいし暖かいしで住み心地はだいぶいいよ」
「へぇ…そうなのねぇ……ん?ってことはこのお家はベルちゃんが建てたわけじゃあないってこと?」
「嗚呼そうだ。誰も住んでいないから勝手に住んでいる」
「え、いいのそれって!?」
「こんな辺鄙な土地に好き好んで住む奴もいないし、この家をちゃあんと整備できるやつなんてほぼいないからいいんだよ。忘れ去られてゴミ箱のようになっていたしね」
「へぇ、それをベルちゃんがこんなにいっぱいカーペット敷いたり家具置いたりして住めるようにしたのねぇ。そう考えればちょっと可愛いかも」
そんな話をしていればあっと言う間に脱衣所に着いた。もう仕事は終わったとばかりにベルベットはカオル子から手を離すと、モノとジノを中に引き入れ自分はとっとと退出し、ドアを閉めた。
思ったよりもしっかりしている脱衣所には脱いだ服を入れるであろう手編みの籠とタオルなどをしまっているタンスのようなもの。そしてそのタンスの上にはハンガーにかけられたバスローブのような湯上がりに着るであろう衣が掛かっていた。
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