ウェスティア譚 2−1

酒場に入った時にはまだ朝特有の澄んだ空気とじんわり染み渡るような日差しだった天候も昼を少し過ぎるまで駄弁っていた名残で室外に出れば、脳天をじわじわと焼いてしまうような強い光とコントラストが強くなった青空に様変わりしていた。

いつもカオル子が自室のカーテンの隙間から朝一番に見るのはこの空でまだこんな時間なのに既に少し疲れているという普段では経験しないような体感に些細だが改めて異世界へと足を踏み込んでしまった事を感じさせる。

丁度昼時らしく通りすぎる民家の煙突や窓からは美味しそうな匂いのする煙が上がっていた。


「あーあぁ…これがテーマパークだったらなんの気もなく楽しめたはずなのになぁ…」

「テーマパァク?なんですかそれは?」

「あそっか、アンタたちはわからないんだったもんね」

「カオル子さんがいたっていう世界にゃそんなもんがあるんですねぇ、よかったら道がてらおもしれえ話してくださいよ」

「いいわよぉ?じゃあテーマパークの話でもしましょうか」


どうやらチョロチョロっと行くというのはすぐ近くというわけではなかったらしい…五分も歩けば着くと思っていたが町並みは全く変わらず同じようなところを歩き続けている錯覚にもとらわれてしまう。ただ確かにそこは違う場所で確実に歩みを進めているらしく時折ダニアンが知り合いなのか、似たような背格好の男達と話しているのがわかる。

道端の石を蹴りつつどうせ歩くのだったら彼のいう通り何か面白い話でもしてやろうとポロっと口に出したテーマパークについて話すことにした。


「テーマパークっていうのはねぇにおいて、なんか明確に崇め讃えられるマスコットキャラクターみたいなのがいてね?それぞれ色んなテーマを持って乗り物とかショーとか、パレー ドとかを見せたりする施設なの。」

「なんじゃそりゃ……」

「わかりやすい例ほしい?」

「お願いしてもいいっすか、俺の頭ではわからねえや…」

「ちょっと待ってね捻り出すから」


彼らにとってわかりやすい例えとはなんだろう。自分もいつだったかお店でテーマパークと遊園地の違いの話になりパキッとした明確な違いを偉大なるグ○○ル先生で知ったところだ。いきなり例えを出してみるのは難しいだろう。

ただ少しでも話のたねとなれば良いとない頭を全力で使いどうにかわかりやすい例えを構築していく。


「あ、きたかも」

「お、いけそうですかい」

「いけるいけるいい例えが出てきた」

「じゃあお願いしまっせ」

「アンタたち魔法使いさんを崇拝してるでしょ」

「はい。あんな学問に精通して神様と対等の力を手に入れるなんて並大抵の努力じゃできねえことですから」

「その魔法使いさんをテーマにした娯楽施設って考えてみてちょうだい」

「魔法使いさんをテーマに?」

「そう。魔法を体験できたり、魔法使いさんの冒険を乗り物で体験できたり、本物の魔法使いさんと触れ合っておしゃべりできたり、魔法使いさんをイメージした食べものがあったり……。テーマパークはそういうところよ。」


反応がない相手に心配になり『伝わったかしら…?』と尋ねれば突然大きな拍手が爆音で生み出された。


「すげえ!そんな楽しいところがカオル子さんのいたところにはあるんですねぇ!いいなぁ俺も行ってみてぇなぁ゛〜!」


良かった。どうやらしっかり伝わったらしい。

だがここで大事な補足をしておかなくてはならない。

入るにはキャラクターに対して多額のお布施をしなくてはいけないと言うことを。


「ダニアン、夢をぶち壊すようで悪いんだけど補足付け足していいかしら?」

「へぇ?ここで夢がぶち壊れることなんてあるんですかい?」

「そのテーマパークに入場するには入場するだけでアホほど金がかかる。」

「アホほど。」

「そんでもってパーク内での飲食、これもバカほど高い」

「バカほど。」

「うん。」

「まぁ魔法使いさんに会うには貢物をしねえと会えねえですからね」

「いやに物分かりがいいじゃない。オタクの鏡かしら?」

「オタクの鏡?オタクってなんですかいな?」

「その物が好きで好きでたまらないって人のことよ」

「魔法使いさんに憧れんのは俺だけじゃねえと思いまっせ」

「じゃあそいつらは全員オタクよ。今度からそのものが大好きで大好きでたまらないって人を見かけたらオタクって呼びなさい。」

「へい!いやぁ面白い話が聞けましたよ!これで寝る前の子供の話に困らねえ」

「ダニアンアンタ子供がいたの!?てっきり独身子なしかと思ったわ」

「へい!美人な奥さんと元気なガキンチョが5人いまっせ」

「思ってたより多いわね…。」

「毎日やかましくて大変でっせ。でも俺の大事な宝もんなんす」

「アンタつくづくいい男よね」

「褒められて嬉しいすぁ」

「…でもアンタ今日仕事サボってるわよね?」

「……まあそれはそれ、これはこれですぁ。ちゃんとカオル子さんを服屋に送り届けたら仕事に戻りますよ」

「ほんとにぃ?てかそれじゃあ今日全然働いてないじゃない」

「奥さんにはなんかうめえもんお土産で買って行って機嫌取りしようと思いますわ」

「そうした方がいいと思うわよ、というかアタシのために仕事休ませちゃったみたいになってるわ、ごめんね」

「いやいや俺が飲みたくて付き合ってもらったんでこちらこそありがてえです!」

「そう?じゃあ素直にお礼は受け取っておくわ……って結構歩いてるけどまだ着かないの?」


歩き始めてもう既に30分近く経っている。ずっと道なりに家があると思っていたが今歩いているところはかろうじて土の道はあるも両サイドの家のあった場所は完全に畑と雑木林だけの土地に様変わりしている。チョロチョロっと行くは全然早くなかったと二度目になるがその言葉を噛み締めた。


「もうちょいでつきますんでもうちょっと待ってくだせえ、あ、ほら!家が見えてきましたでしょ!あそこほら!」

「えー。どこよ」

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