第3話 見えない友達

「だから、違うってば!本当にいるんだって!」


桜は必死に言い訳をしていた。今日もモグがまたやらかしたのだ。クラスのプリントが消えたり、机の上に置いていた教科書が突然なくなったりする度に、桜が「なんで?」という視線を一身に集めていた。クラスメイトたちは、桜が何かイタズラしているんじゃないかと疑っている。


「春山さん、もしかしてまた寝不足?最近変なことばかり言ってるよ?」


「え、いや、寝不足とかじゃなくて、その…見えないんだよね、他のみんなには。」


桜はバツが悪そうに笑いながら、モグをちらりと見る。しかし、モグは無邪気に机の上でクルクルと回りながら、また何かを探しているようだ。もちろん、周りにはその姿が見えていないから、桜が独り言を言っているように見える。


「…え、何かそこにいるの?」


「うん、まあね。でもみんなには見えないだけだから!」


桜が慌てて言い訳をすると、友達はさらに怪訝な顔をして黙り込む。仕方ない、この状況は普通の人には説明しにくい。モグは異次元から来た生き物で、自分にしか見えない、なんて言ったら、きっともっと変に思われるだろう。桜はため息をつきながら、机の下でコソコソとモグに話しかけた。


「お願いだから、これ以上変なことしないでよ…。もう誤解されるのは勘弁してほしいんだ。」


しかし、モグは桜の心配なんてどこ吹く風。嬉しそうにピョンピョン跳ね回って、今度はクラスメイトの持ち物に興味を示し始めた。桜は急いでモグを止めようとするが、すでに遅かった。


「ちょ、ちょっと待って!それはダメーッ!」


モグがクラスメイトの鉛筆をパクリと飲み込んでしまった。見た目には鉛筆が突然消えたようにしか見えないため、クラス中が騒然とする。


「えっ!?私の鉛筆が、ない!?誰か取った?」


「え、今の一瞬でどこ行ったの?」


クラス全員が騒ぎ始め、桜は冷や汗をかきながらどうにか誤魔化そうとするが、どうにもならない。桜の心の中で『モグ、なんてことしてくれたのよ!』という叫びが響く。


「えっと、みんな、もしかして…それ、見間違えとかじゃない?」


「いやいや、見間違いじゃないよ!さっきまで確かにあったんだよ!」


クラスの騒動がますます大きくなり、桜は逃げ場を失う。モグの食欲は本当に異次元クラスで、何でもかんでも飲み込んでしまうから、困ったものだ。


――その夜。桜は自分の部屋でモグに向かって真剣に話しかけていた。


「ねえ、モグ。ちょっと真面目に話そう。お願いだから、もう学校のものとか、人の持ち物を勝手に食べないでよ…」


桜が優しく諭すと、モグは一瞬キョトンとした表情を見せたが、やがてお腹を鳴らしながら頷いた。


「まあ、君もお腹空いてるんだろうけど…私も大変なんだからさぁ…。これからはお弁当を分けるから、それで我慢してね。」


そう言って、桜はモグに自分のお弁当の残りを差し出した。モグは嬉しそうにそれを食べ始めたが、その瞬間、また桜の目の前にパチンと光がはじけた。


「また異次元のやつか…」


桜はすでにこの現象に慣れていたが、モグの食欲が引き起こすトラブルはこれからも続きそうだ。


「もう、ほんと、頼むから普通に食事してくれよ…」


こうして、桜とモグのドタバタな日常は、ますます混乱を招く方向に進んでいくのだった。

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