第2話 食いしん坊の異次元生物

「だからって、なんでも食べていいわけじゃないんだよ!」


桜は頭を抱えていた。あの謎の生き物、まだ名前もわからないけど、彼の食欲は想像を超えていた。前回はお弁当を食べられただけだったが、今回は教室にいる間にも、次々と他のものが消えていくのだ。プリント、消しゴム、果てはクラスの備品まで――全部、彼がどこかに飲み込んでしまっている。


「ちょ、ちょっと!それは先生の大事な資料だよ!返して!」


桜はあわてて生き物に駆け寄り、彼の口元から重要なプリントを取り戻そうとするが、もう遅い。ペロンと飲み込まれてしまった。クラスメイトたちは、桜が誰もいない空間に向かって話しかけているのを見て、不思議そうに見つめている。


「春山さん、どうしたの?」


「え、いや…なんでもない!」


生き物の姿は他の人には見えていないらしい。桜が慌ててごまかすと、クラスメイトは首をかしげながら去っていった。なんとかその場をしのいだが、このままでは学校中のものを食べ尽くされかねない。生き物を飼うなら、ちゃんとしたルールが必要だと桜は痛感した。


放課後、桜は生き物を家に連れて帰った。彼の行動に悩みつつも、放っておくこともできない。桜の部屋のベッドにちょこんと座っているその姿は、見た目だけならとてもかわいい。


「もう、名前ぐらい決めてあげようかな…。とりあえず、君の名前は『モグ』にしよう。モグモグしてるからね。」


モグ、と名付けられた生き物は、桜の言葉に反応して、小さくピョンと跳ねた。まるで嬉しそうだ。


「ところでさ、君って一体何者なの?」


桜は試しに話しかけてみるが、もちろん返事はない。ただ、モグはキョトンとした表情で桜を見つめるばかり。と、その瞬間、モグの目の前に小さな光がパチンと弾けた。桜は驚いて後ずさりしたが、その光は一瞬で消え去った。


「なに…今の?」


モグの体から、ふわりと小さな光が漂っている。それはまるで次元の裂け目のようで、見ているとモグの体に吸い込まれるようにして消えていく。桜はますますこの生き物の正体がわからなくなってきた。


「もしかして…異次元から来たとか?」


その考えが頭をよぎった瞬間、モグは再びピョンと跳ね上がり、桜の言葉を肯定するように見えた。


「やっぱりそうなのか!異次元生物だったのね…!」


桜は思わず納得してしまうが、問題はその異次元から来たモグが、普通の食べ物だけじゃなく、人間にはないものも食べるということだった。先ほどの光が、どうやらモグの「食事」だったらしい。つまり、彼はこの世界の普通の食べ物だけでは満足できないのだ。


「でも、どうやってこれから君を養っていけばいいんだろう…」


悩む桜に対して、モグは無邪気にピョンピョン跳ね回っている。桜はその様子を見て、苦笑いを浮かべた。どうやら、これからも騒動は続きそうだ。


「ま、いいか。何とかなるよね…」


こうして、桜とモグのドタバタな共同生活は、さらに不思議な方向へと加速していくのだった。

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