第1話 お弁当泥棒の正体

桜は、何度目かもわからないため息をつきながら、自分の机に座り込んだ。


「まさか、お弁当を盗まれるなんて…」


彼女、**春山桜(はるやま さくら)**。高校2年生、16歳。とびきり普通の女子高生…のはずなのに、彼女の周りではなぜか奇妙なことばかり起こる。ドジでちょっぴりおっちょこちょいな性格ゆえ、日常生活でも失敗が絶えないが、それでも持ち前の明るさでなんとか乗り切ってきた。部活も特に入っておらず、唯一の特技と言えば、お母さん直伝の料理くらいだ。


「今日は絶対にお弁当を守るんだから…!」


そう決心して、昼休みが近づくたびに警戒していたのに、またしても唐揚げが一つ、また一つと消えていく。クラスメイトにはその姿は見えていないのか、みんな普通にお昼を楽しんでいる。誰かがふざけて隠しているのかと思ったが、そんな悪質なイタズラをする友達はいないはずだ。


「犯人はどこだ…?」


桜は机の下をそっと覗き込んだ。すると――そこに、あのフワフワとした耳を持つ謎の生き物が再び現れ、彼女の卵焼きをかじっていた!


「いた!やっぱりこいつだ!」


思わず声を上げた桜は、そのまま生き物を捕まえようとしたが、相手は素早くピョンと飛び上がり、机の間を縫うように逃げていく。


「待てぇぇぇ!!」


桜は全速力で追いかけ始めた。教室を飛び出し、廊下を駆け抜け、階段を何段も飛び降りていく。桜のドジな性格がここで大爆発。階段の途中で足を滑らせ、転びそうになるも、持ち前の運の良さでなんとか踏ん張る。


「今度こそ捕まえてやる…!」


やっとの思いで生き物を追い詰めたのは、体育館の裏手。逃げ場のない場所に追い込まれたその生き物は、ひょこっと振り返り、キョトンとした顔を桜に向けた。


「お前、一体何者なの?」


桜がそう尋ねると、その生き物は不思議そうに首をかしげ、まるで言葉を理解しているかのように、軽く羽をバタつかせた。


「…まあ、なんかかわいいけどさ。」


桜は呆れつつも、生き物の愛らしい姿に少しだけ心を和ませた。しかし、その瞬間、またお腹が鳴る音が聞こえてくる。生き物は相変わらず腹ペコのようで、周りをキョロキョロしながら何か食べられるものを探している様子だ。


「お腹空いてるのか…。」


桜はふと、お弁当が空っぽになった原因を再確認した。この生き物が食べてしまったのだ。だけど、不思議と怒る気になれない。むしろ、困っているなら助けてあげたくなるのが桜の性格だ。


「しょうがないなあ。じゃあ、今度はちゃんとお弁当分けてあげるから、逃げないでよ!」


そう言って桜は手を差し出すと、生き物はピョンと彼女の手に乗り、嬉しそうに小さく鳴いた。


こうして、桜とこの不思議な生き物との奇妙な同居生活が始まることになる――。


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