入学式

 中学二年の頃、ボクは幼馴染の野宮セリカに聞いた。


「どこの学校行くの?」

「中央」

「中央? へ、へえ」


 たぶん、全国でそうなのかな、と勝手に思ってるけど。

 高校は【北高】や【西高】なんて感じに方角で答える。

 ボクはセリカちゃんに「中央」と言われても、いまいちピンとこない。


 珍しく二人で家路にいたから聞いてみたのに、どんな学校か想像がつかない。

 ボクが首を傾げていると、セリカちゃんが立ち止まった。


「いや、女子高だよ。元だけど」

「あ、そうなんだ」

「ケイタは?」

「ボクはねぇ。んー、……と」


 周りのみんなは、行きたい学校が即決している様子だった。

 推薦入学だったり、滑り止めにしたり、思い思いの学校を目指して勉強や部活に励んでいる。


 その点、ボクは何も考えていなかった。

 幼馴染の背中をウロチョロ追いかけ、ボクは今まで過ごしてきた。

 まあ、何も考えていないのだ。


「公立のどこかに入学できればいいかなぁ」

「中央は私立だからねぇ。もし、まだ決まってないならさ。ケイタ、頭良くないんだし、中央高を滑り止めにしたらいいよ。落ちたくないでしょ」


 ボクは、どうすればいいのか考えてみる。

 でも、何も浮かばなかった。

 ぼんやりとした思考の海に飛び込んでも、何もなかった。

 したいことない。

 目指すものがない。


 だから、ボクはセリカちゃんの案に頷いた。


「そうしよっかなぁ」


 この時にしたボクの判断は、一生忘れられないものになる。

 の中央高校。

 今では共学になり、男子生徒も入っているという。


 でも、どういうカラクリなのか。

 何で、そうなるのか、未だに分からない。


 共学になったというのに、中央高校へ入学した男子生徒は、ボクを含めて

 後々、パンフレットで分かるが、中央高校は男子生徒が全学年合わせても、しかいなかった。


 *


 入学式の第一声は、こうだった。


「うわぁ……」


 ボクだって男子だから、女子を意識する。

 女子が好きだ。

 でも、99%が女子で、1%が男子の割合だと、居心地が最悪だった。


 入学式の会場は、体育館。

 想像よりも広くて、設備がかなり整っている。

 施設は、たぶん市内で一番すごいと思う。

 空調は効いていて、天井が恐ろしく高い。

 体育館の入口は二階に行けるようになっていて、トレーニング器具があるのが見えた。


 広さは、恐らくだが県民体育館くらいある。

 地区予選とかできるくらいの広さ。

 何の部活でもいいけど、大会を開いたとしたら、県内にある学校全部が集合しても平気なくらいだ。


 ボクが通っていた中学校より、壇上は広くて、奥行きがある。


「ねえ。あの子……くすくす……」

「ちっちゃ……」


 耳を澄ませると、ボクの斜め前から話し声が聞こえてきた。

 入学式だって言うのに、話す余裕があるっぽい。

 ボクは羞恥心を堪えて思った。


 多すぎるよぉ……。

 女子しかいない……。


 見渡す限り、女子、女子、女子。

 グレーの色をした新品の制服を着た女子達が、ズラリと並んでいる。

 その数、200は超えている。

 それに対して、ボクを含めた男子達は3人。


 チビ(ボク)、デブ、ノッポ。

 ボク同様に、モジモジとして女子列の後ろに並んでいる。


 体育館の中は、香水なのか、ボディソープなのか。制汗剤なのか。

 とにかく良い匂いがミックスされて漂っていた。


『理事長祝辞』


 教員の人達が並ぶ端っこの席から、キツい顔つきのおばさんが立ち上がる。背筋を伸ばして、壇上を移動すると、演台の前に立った。


「雪が解けて間もない春の季節より、皆さまが本校で御入学を迎えられた事を心より嬉しく思います。これから本校で新たな学び舎生活を営む新入生の方々が、社会に出ても尚、活躍できるように精一杯育成に力を注いでいくことを誓わせて頂きます。――、男子生徒の方々は、これからの3年間。きっと忘れられない日々を過ごす事になるでしょう。その経験は、社会に出ても、何ら恥ずかしくない経験となりますよう、われわれ教員一同は指導に励んでいくことでしょう」


 何か、途中で言葉が強くなった気がした。

 でも、話を聞いていると眠くなってきて、ボクはどうでもよくなった。


 何となくだけど、まあまあ、偏差値の悪くない学校を目指して入試。

 そして、落第。

 滑り止めに入学する運びとなったボク。


 中央高校は昔からの伝統があるっぽくて、ちょっと癖があるらしい。

 というのも、女子の場合、普通に入試を受けて、合格発表される。

 結構、偏差値は高いとの事だ。

 だけど、男子の場合は、名前を書けば、ほぼ入学するらしい。


 この違いがあることから、滑り止めにしたとはいえ、バカ学校とは言えなかった。


 セリカちゃんは頭が良いから、普通に合格した。

 合格を教えられた時に、「何で中央に入ったの?」なんて、今さらな質問をしたのは記憶に新しい。


 セリカちゃん曰く、中央高校は伝統を重んじる学校でありながら、服装とか、校則が緩いとのこと。

 元々、セリカちゃんはギャルで、金髪だった。

 一応、黒く染めてから入試したけど、入学式で周りを見てみれば、金やら青やら、カラフルな頭をしている人がいっぱいいる。


 ただ、制服はきちんと着ていて、はだけるような真似はしていなかった。


 と、まあ、服装が緩いから、女子には人気の高校だとのこと。

 しかも、偏差値が高めなので、将来は思ったより有望。


『以上で、終わりの挨拶となります――』


 やっと入学式が終わり。

 中央高校は全寮制だから、これから各自が住む寮への案内が始まる。

 男子寮は、女子寮の隣にあるらしい。

 パンフレットを見た限り、女子寮は洋館っぽい高級感のある外観。

 男子寮は、家畜を飼ってそうな小屋だった。


 ボクは顔を上げ、女子の列が動くのに合わせて歩き出す。

 気のせいか、先輩たちがクスクス笑いながら、ボク達を見ていた。

 その後ろでは、なぜかが、死んだ目でボクらを見ていた。

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