第七話 追懐:荒木結翔 其の三

「さて、キヨちゃん。説明してもらおうか?」


 そう言うと、清峰は慌てて言った。




「こ、これはちげぇんだ!そ、そう!こいつが殴りかかってきて──」




「荒木はそんなつまらねぇことしねぇよ。」




 ばっさり言い捨てた。僕はその時思わず目を見開いてしまった。




 「…お前は、ボクシングで世界一目指すとか言ってたのにな。──その拳はもうそのために使えねぇのか?」




 「いつの話だよ。───もう変わったんだ!!結局この世は力が強えやつに傾くんだ!!大貴もそれが分かるだろ!?」




 「俺は常に俺が信じた奴に付く。それだけで生きてきたんだ。そこを勘違いするな。」




 「じゃあなんで…そんなカスに付いてくんだよ!?そんなのと一緒にいても未来はねぇ!」


 僕はこの言い合い黙って聞いていることしかできなかった。ただ、常にだいちゃんは堂々と、そして、冷静だった。


 


 「──はぁ、もういい。お前と俺はもう終わりだよ、キヨちゃん。そんな奴とは思わなかった。行こうぜ、荒木。」




 「あ、うん…。」




 そう言って、僕に手招きしてきた。ただ、清峰くんに言われっぱなしだったが、これでもう絡まれることないのだろうか…?






 そして、僕とだいちゃんがうなだれている清峰を横切ろうとした───その瞬間だった。








 どんっ!!と、明らかに鈍い音が僕の隣で聞こえた。


 「…え?」


 


 隣で、だいちゃんがお腹を押さえて「ぁ…がぁ…」と悲痛な、言葉にできない叫びを上げていた。




 その時僕は見た。清峰が思い切り拳を殴った後のように、拳を前に突き出している姿を。




 「っ…はぁ!おい!俺に逆らおうとするからだ!ざまぁねぇな!」




 僕は…ただ見ていることしかできなかった。ただ、震えていることしか…。




 「結局、てめぇは正義心が強すぎたんだよ。だからこーやって友達に裏切られるんだよ。 因果応報!!お疲れ様だったなぁ!」 




 その時、僕の中で何かが弾けたような、糸が切れたような感じがした。




 ちらっ、とだいちゃんの方を見ると──微かににこっと笑った。




 「っ……らぁ!」




 と、だいちゃんが清峰の足を掴んだ。


 


「な、なにを…!?」




 そして、僕は、今までの想いと、力を全て乗せ、清峰の顔面に思い切り殴ってやった。




 「っああぁぁ…!!」




 どっ、ととても鈍い音がした。


 でも、僕はすかさず苦しむ清峰に対し、今までの思いを全部ぶちまけた。






 「っ──お前もこれで因果応報だ!!それに──僕のことは馬鹿にするのはいい──でも!!二宮くんを馬鹿にするのは、絶対に僕が許さない!!」






「僕の──恩人で、親友なんだ──。」




 そう言い終わって、二宮くんの方を見ると、しっかり、いつも見せてくれるようなとても良い笑顔で、




 「がんばったな。」




 そう言った。

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