第五話 追懐:荒木結翔 其の一
僕の友人、二宮大貴は僕の憧れの人だった。今もそれは変わらない。
僕が何をするにしても敵わなくて、勉強においても、運動においても。何にしても僕の一歩前を歩いているような人だった。
そんな人は、交友関係もとても良くて、性格も良い。非の打ち所がないとはこのことだろう。
一方僕はというと、愛想がなく、勉強は普通、スポーツはできない、そして何よりコミュ障、となんとも出来の悪い奴だった。
こんな僕が唯一誇れるところというのが、正義感の強いところだろう。
だが、強すぎるのもこれまた迷惑なもので、どうしても目の前の悪事から目を背けずにはいられない。しかし、立ち向かう勇気はないためただの『傍観者』という愚図なやつになってしまう。
話を戻して小学校時代、僕はこんな凄い人と無二の親友になるとは想像もつかなかった。
初めて話したのは小学五年の時、僕が教室で一人で本を読んでいるときだった。
本は現実の自分を忘れるために──現実逃避の手段として見ていて、その頃はすっかり本に縋っていた。
───自分自身を変えようとはせずに。
「よぉ!なんの本読んでんだっ?」
正直、びっくりした。こんな僕なんかに話しかけてくるなんて。
「えっと…太宰治さんの人間失格っていう…」
「おぉ…なんかすげーの読んでんだな。」
と、何故か尊敬に近い眼差しで見てきたので、少し照れてしまった。
「そんなこと…ないよ。ただ、やっぱりちょっと難しいかも、しっかり内容はわからないや…」
「タイトルから俺は訳わかんねーよ。人間は人間だろーが!失格もクソもねーよ!なっ?」
僕はそう聞き、はにかむことしかできなかった。
なぜなら、僕は、自分はどちらかと言うと人間失格なんじゃないかと考えていたから。
生物の中の頂点、人間。食物連鎖の頂点、人間。
その血の世界の中での頂点に常に立ち続けた人間は果たして正義と言えるか?肉を喰らい、人間が害悪とした生物は皆殺しにしてきた。そして、人間の都合により絶滅した生物までいる。
───それは正義か?
人間皆、生物失格なのではないか。
しかし、そんなことを言い出してしまっては人間はすでに集団自殺でも図っているだろう。
その人間社会の中での人間失格はそれはもう、相当な極悪人だ。それを僕は看過することはできない、それほど強大な正義感を振りかざしている。
しかし、何もできない僕こそが、本当の人間失格ではないか。
この当時はこの様に上手く言語化することはできなかった。しかしこの思考は当時から持っていたことは確かである。
「…なんで、急に話しかけてきたの?」
しかし何よりその時そのことについて気になった。何で僕なんかにって。
「嫌…だったか、?だったら悪いことしたな。ごめんな。」
そう言うと続けて、
「いつもさ、お前って一人でいるじゃん?なんか余計なお世話かもしんねーけどさ、お前いつも『混ざりたい』って顔してんだよな。」
まさか、そんなことを言われるとは思っていなかった。そんな顔をしていたとは…。
「良かったらさ!まず、俺と友達になってみねーかっ!」
凄い眩しい笑顔で、教室の窓から差し込む夕陽でその顔が照らされる。
こんな憧れの人からのこんな魅力的なお誘い、あるだろうか。
否、ない。断る理由も一切なかった。
「うんっ…よろしく…お願いします…。」
その時、自然と涙が溢れてきてしまって、驚かせてしまったっけ。
「なっ、何で泣いてんだ!?えっ、えぇ…!?」
「ごめん…僕、君に憧れ…てて。そんな君から友達になろうって…嬉しくって…。」
その時、大粒の涙が止まらなかった。自分に、こんな幸運なことがあってよいのだろうか、と。
そして、この日から僕達は友達となった。
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