第四話 濁水の如く
自分は、やっとの思いで、一人暮らしをしている家に帰ることができた。
しかし──もう限界だ。
ここに来る道中でも殺意がみなぎり、早く人を殺したい、殺したいと強く思っていた。
なんとも具体的には言い難いが、それでも言うならば「あの人の臓物はどのような形・色をしているのだろうか」「あいつはもしかしたら僕に危害を加えるかもしれない、だから殺しておこう」こういった思考に染められる感覚だ。
その思いが、自分を苦しませ、本能と理性とがせめぎ合っていた。
「気持ち悪……うっ、うぅぅぅ…!おえぇぇぇ…」
その現状に、思わず吐いてしまった。
人を殺したい、など今までこれほど強く思ったことなど一度たりともなかった。
それを、永遠に何回も、何回も、幾度となくくる。
まさしく、地獄だ。あの男が言っていた通りであった。この誰に対しても無差別な怨恨を向ける自分に摩耗して精神的にきている。
「なん…で、僕がこんな…」
僕は二日ほど、学校に行かなかった。
行ったらどうなるか、容易に想像がつく。きっと…『殺して』、しまうんだろう。
そして、何より、だいちゃんを傷つけてしまうかもしれない、その恐怖。
僕の唯一の親友を殺すなんて、考えたくもない。
「お腹…減ったなぁ…」
家にあるものは全部食べてしまって、買い物に行くこともできていない。
しかし、このままでは何も食べれずに死んでしまう。
SESに頼るか──?いや、あそこは犯罪者の執行を優先する組織だ。こんな半分犯罪者の僕を助けてなどくれないだろう。
こんな頭がおかしくなってしまっても、お腹は減るらしい。そんなとこだけ無駄に人間ぶっている。
──じゃあ、このままいっそ…?
でも、まだ僕には生きて、やらなきゃいけないこともある。
「姉さん…。」
外に、行こう。まだ生きなきゃいけないんだ。
#####################################
「ふぅ…これで、ギリギリって感じか…。」
サングラスで、あまり人の顔を見ないようにし、下を見ながら歩く。
これならば、あまり殺意を抱かずに済む。
「っと…!」
前から歩いてくる人とぶつかりそうになるっていうのが難点だ。
なんとか、避けれるが。
「ん……え、?」
その瞬間、自分の思考がおかしいことに気づく。あまりに自然だったため、それに気づくことができなかった。
そう。なんで僕は避けれるんだ?僕は一切前を見ていないのにも関わらずだ。迫っているとなぜ分かった!?
「もしかして、未来予知…?」
もし、この力が呪いの代償ならば割には合わない。こんなに苦しんで苦しんで絶望して、吐き気を抑えて生きていて、それが一生続くかもしれないのに、この能力。
皮肉かもしれないが、未来予知という能力ならば、僕がこれからどうなるか知りたいもんだ。
でも、もしかしてこの力なら…と僕の中で一つの希望が湧く。
「姉さんを…救えるかも…!」
やるだけやってやろう。後はもう知らない。
やっと何か地獄の中での『光』を見出だせた気がした。
しかし、やはりこの『殺意』は自分が思っていた以上に、蝕み、心壊すものであった。
そうしてその後買い物に行きとりあえず、インスタントラーメンなどを買い込み、しばらく生き残れる準備はできた。
「あとは…だいちゃんになんて言うか、だよなぁ。」
先日からずっと、メールがひっきりなしにきていて、「今は会えない」の一点張りでなんとか凌いでいるが。
「これも…そろそろ限界だよなぁ…」
だいちゃんは僕のことを、本当によく知っている。
僕になにかあった時は必ず勘づいて助けてくれる。
────でも、今回ばかりは頼れない。自分一人でやらなきゃいけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます