第三話 湧き出て溢れる殺意
「俺だ。あぁ…あれはもう、ある一人の青年に継承させた。」
『大丈夫なのか?そんな何も知らないガキに託すなんて。』
「へっ、どーせ候補者ってのは結局変な自己中野郎しかいねぇんだろ?」
「それに、この状況打破するにはなーんにも状況知らねぇガキのほうがまだなんとかなるかもだろうが。それに賭けただけだ。」
『お前というやつは……もういい。しばらく電話に出れんからな。』
「了解。」
はぁ、とため息を一つ。この男は『この界隈』とやらにうんざりしていた。
胸ポケットからおもむろに煙草を取り出し、一息付く。
「ふぅっ………… ───自首…するか。」
「もう俺ぁ…疲れたぜ。この玉座から…降りる。」
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(どーなってんだ。体が、熱い…!)
その頃、荒木はあの場から逃げ出し、路地裏でうずくまっていた。
(これ、死ぬのかなぁ…。彼女なしで。友達も一人しかいないまま、か。)
「うっ、ぐぅぅ…!」
(せめて、誰かに…)
「っ!」
その瞬間、何かが全身に弾けたような感じがした。
本当に不思議な感覚で、浮遊感でもなく、高揚感でもない。おそらくこの気持ちを表す言葉など見つからないのではないか、という気分である。
「これは、なに…?体の熱も…消えた…?」
何が起きたのか、今だに理解できずにいた。
だが、一つ確かなのは、自分の中の何か、が変化したことである。
今までにはない、何か。
そうして、僕は路地裏から出ることにした。
僕の何が変わったのか、その全てを一瞬で理解した。
明らかに目に映る者たちへの『憎悪』がどんどんと膨らみ『殺意』に変わっていく自分がわかった。
何かをこの人たちにされたわけじゃない、そんな訳ないのに、あるはずのない記憶が、荒木結翔を襲った。
他の人から見たら、先ほどの刺された事件により、警察が集まり、人だかりができている、ただそれだけの光景。
だが、荒木にとってはこれは複数の悪意を持ったナニカの集団にしか映らなかった。
「な、なんだよ。なんなんだよ、これぇ…!」
自分がおかしい。それは分かっている。分かっているのに、それを信じられない。疑心暗鬼に陥る。
自分はおかしい、いやこの人たちがおかしい、いや自分がおかしい、いやこいつらがおかしい。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい──────!
「あの…大丈夫ですか…?」
「…………ッ…!」
自分は一人の綺麗な黒髪の女性に声をかけられた。
おかげで、我に返ることができた。
しかし、その優しい心配の声でさえ、悪魔の囁きのように聞こえる。
「汗が…すごいですよ?さっきから呼吸も荒いですし…」
「いえ……大丈夫です。お気に…なさらないでください。ほんと、大丈夫ですから。」
僕は、すっとその場から逃げだす。
そして、走りだし、涙目になりながら、自分の家の方まで、走り抜けて行きます。
「───何あいつ…『ただ漏れ』じゃん。」
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「ッ〜…………!はぁはぁ…!なんで…っ…!」
信号の多い交差点で、足を止め、そこで冷静になりました。
そのとき、改めて強くこう思いました。
認めたくなかった。まだ、自分は自分であると。『人間』なのだと胸を張って言いたかった。
しかし、この自分自身の有り様から僕は言うしかなかった。弁明の余地もない。
自分は、人間性を、失ったのだな、と。
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