第20話 リリィとメイ
僕が花ちゃんと呼んでいる精霊メイ、そのお姉さん的存在のリリィ、そして光の神様となったペリドット・サンライトとの過去での出来事の話。
その話は過去から現在に至り、リリィによって花ちゃんはここに封印され、スラヤミィが封印の魔術を破ったことによって解放された。
「そうですか、あなたが……聖光の君をその献身によって黒の魔王を倒すに至らせた伝説の精霊様だったのですね」
「ひぇ、私って伝説になってたんですか? でも、今はそんな大した存在じゃないです。ただリリィと会いたいがために私のエゴで力を放棄しただけなんですから……」
「ですが、そうしてまで会いたがっていたリリィに会えたのに、なぜ封印されるに至ったのでしょう?」
マチルダさんの指摘はもっともだ。
花ちゃんが元の精霊に戻ったのに、リリィのコンプレックスは解消されなかったのだろうか。
「リリィは言っていました。次は私が光の女神様を助けて、宵闇の魔王を倒すんだって。そのためには私が邪魔だからって」
「つまりは再び強大な力を得て、あなたが再び高位の精霊として復活するのを防ぎたかったということですね」
「そうだと思います。リリィ、すっかり変わってしまって、光の女神様が真の神に至ったら次は自分の番だって……」
そうか、リリィは常に花ちゃんの上、上の立場でいたい。
そのコンプレックスが高じて、こんな状況になってしまったのか。
そういえば、花ちゃんてリリィが最初に呼んだんじゃなかったけ。
「花ちゃん、君の事そう呼んだのリリィが最初だよね。多分……いや今のなし、ごめん変なこと聞いちゃった」
「セディさん、多分嫌味だったと私も思っています。でも良かったんです。私はドジで失敗ばかりのメイ。フラワー・メイと偉そうな名前をもらっても、リリィは私のお姉さんだから、妹の私は花ちゃんと呼ばれて嬉しかったんです」
「だから僕達にも花ちゃんと呼んでと言ったんだね」
「はい。私はリリィお姉ちゃんの妹、花ちゃんだって誰かに呼ばれれば、そう認められた気がしていたから……」
なるほど、花ちゃんにとって大事なお姉さんだったんだね。
そんなことを思っていると、今度はマチルダさんが質問する。
「では、リリィはなぜ宵闇の魔術で封印などしたのでしょうか? 光の神に至ろうとする者が相反する闇系統の魔術に手を染めれば、光の存在としての格が上がるどころか下手をすれば資格自体を失いかねないのにです」
「そう言われればそうですね。なぜでしょうか?」
「そうですか、花ちゃんにも分からないということですか」
(スラヤミィは分かる?)
〈前にも言ったけど、オイラ魔術にはそれほど詳しくないっスよ。今回も資格自体失う云々は、それ聞いて初めて知ったくらいっスから〉
(そうか、だとするとこの問題は棚上げかな)
〈お役に立てず、申しわけないっス……あ、誰か来たっスね〉
入口の方を見ると、見知った影がふたつチラホラ見えた。
(ヤバっ、シスターがいるぞ)
(えー、ジュリアちゃんどうするの?)
(ソフィ、気づかれる前に逃げるぞ)
声をひそめてやりとりしているみたいだけど、丸聞こえだった。
いつの間にかマチルダさん、こちらを覗いている二人の背後、入り口の外に立っていた。
「ジュリアさん、ソフィアさん。言いつけたお仕事をさぼったばかりか、セディさんに嫌がらせまでして……」
「げっ、いつの間に後ろに! いや、違うんだ。そ、そう開かずの扉開けてもらおうと思ってさ……なっ、ソフィ」
「わ、わたし知らないの、全部ジュリアちゃんがやったの。わたし見てただけ」
「あ、ソフィてめー、裏切るのかー」
なんかやり取り見てて、火に油な言い訳してるなーとか、マチルダさん苦労してるなーとか、花ちゃんの真面目なお話どこ行ったーとか思っていた。
当然のことながら、ジュリアとソフィアはマチルダさんにこってり絞られたとさ。
「だったらさ、孤児院に乗り込もうぜー。カチコミだよカチコミー」
「わーカチコミだー……って、ジュリアちゃんカチコミって何?」
「殴り込みだよ殴り込み」
「えー、でも……あの魔女リリィ相手だよ……」
「大丈夫だって、なんてったってこちらには聖女様がいるし、開かずの扉の封印と解いて精霊様を助けたセディのにーちゃんもいるし、よゆーよゆー」
「わー、それなら安心ね。悪い魔女リリィーにお仕置きね」
マチルダさんの説教タイムの後、花ちゃんの封印解除と精霊昔話をセットで説明。
かつて孤児院にいたふたりは思うところがあるのだろう、いきなり殴り込みを提案してきた。
もっとも、いきなり暴力に訴えるのは良くないとマチルダさんに叱られたけど。
「でも、カチコミは行き過ぎだけど、一度しっかり話し合った方がよいかも知れないですね。花ちゃんの件もそうだけど、聖光会と光輝会でしたっけ。お互い光の神と女神でしたっけ、似たような信仰をかかげるなら分かり合える気がするのですけど」
「確かにセディさんの言うことは一理あります。ですが、信仰の絡む話はなかなか難かしいのです。それにリリィ院長の性格もあります」
「えっと、プライドが高い上にいろいろあってこじらせているという……あ、ごめん花ちゃん」
「……構いませんよ。私もセディさんのおっしゃる通りだと思いますから……」
「あっ、そうだ。プライド高いと言えば女騎士……じゃなくてセレンライト様。彼女に協力を求めるのはいかがでしょうか……あ、その前に。彼女って、マチルダさんから聖女の力を受け渡されているから、聖光会側の人間ですよね?」
そう言ってマチルダさんを見たけど、何やら複雑そうな表情をしている。
「マチルダさん?」
「……セディさん。セレンライト様はそのあたりのことをあまり理解されていらっしゃらないようで……」
「あー、脳筋ねーちゃんかー」
「美人さんだけど、残念な人だよねー」
セレンライト様、マチルダさんだけでなく、ジュリアとソフィアにも散々な評価だった。
まあ、彼女とのやり取りを振り返って思い出したら、なんとなく納得してしまったけど。
「セディさんには申し訳ないですけど、まずはあなた自身がセレンライト様と和解されてからの方がよろしいでしょう」
ですよねー。
セレンライト様と顔を合わせたら修羅場確定なのが再認識できたところで、僕は彼女に協力を求める案を心の中で却下した。
「ともかくも、実物を見てみないことには話しにならないので、一回会ってみようと思います。今すぐにでも行きたいところですけど、僕なんかが行って会えるのでしょうか?」
「セディさんがひとりで行っても門前払いでしょう。そうですね……私が紹介状を書けば会うことだけはできるかもしれません」
「え、でも対立している相手の紹介状で大丈夫なのですか?」
「一応私も元聖女ですから、それなりの地位にはあります。いかな対立している相手とは言え無視はできないはずです。もっとも、友好的にとは正反対の顔合わせになるでしょうけど……」
「だったら、シスターが一緒に行けばいいと思うの」
「あ、そーだな。わざわざ手紙なんて面倒なことしなくてもいいじゃん」
ジュリアとソフィアの提案に、そういえばそうだなと思ってマチルダさんを見る。
「リリィ院長は今この町にはいません。現在は北東に2日程歩いたところにある隣町にいるはずです。先日の宵闇の眷属討伐の後始末に行っています」
「2日くらいなら、私とジュリアでお留守番してるの」
「いや、一緒に行くって手もあるよなー」
「それはだめです。私が今この町を離れると、いざというときの守りが手薄になります」
詳しく聞くと、この町には宵闇の眷属対策で光の結界が張ってあるらしい。
一日一回魔力を補給する必要があるけど、リリィが不在の今、その結界を維持できる力の持ち主はマチルダさんだけとのこと。
なので、彼女自身が町を離れることはできないということであった。
「分かりました。僕一人で行ってきます」
「では、今日はそろそろ日も落ちるころですし、準備などもしなければならないので、明日の朝お発ちになるとよろしいでしょう」
「あ、はい。そういえば今晩はここにお世話になるという話でした」
「お、じゃあ今夜はにーちゃんと……」
「花ちゃんさんも一緒なの、久しぶりににぎやかなの」
「え、私もお世話になっていいんですか?」
「聖光の君の恩人たる……いえ、花ちゃんはサンライト様のお友達ですから」
「……マチルダさん、ありがとうございます」
こうして、僕だけでなく花ちゃんも、一晩ここでお世話になることになった。
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