第12話 僕は魔王?
僕が魔王の眷属ではないかとの疑いは晴れたようで、とりあえずはよかった。
しかし、新たな疑問がいくつか湧いてきたのも確かだった。
マチルダさんのこと隊長さんが聖女と呼んでたこととか、あとベルについても気になることがある。
〈オイラもベルについては気になるから聞いて欲しいっス〉
スラヤミィに何か質問あるかと聞いたところ、ひとつ要望が出た。
では、今度はこちらから質問してみよう。
「えっと、僕らかもお聞きしたいことがあるのですけど、お身体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、話をするくらいなら問題ありませんよ」
「お待ちください聖女……じゃなくて、シスターマチルダ。あなたは今しがた倒れられたのですよ。俺としては認められません。セディ君、すまないが……」
「マルコさん!」
思いのほかマチルダさんが声を荒げたのでびっくりした
「ええ、大きな声を上げて申し訳ありません。でも、セディさんは私の質問に誠意をもって答えてくださいました。こちらからもそれをお返しするのが礼儀というものでしょう」
「ですが、シスター……」
「マルコさん」
マチルダさんが頑として譲らない様子を見て、隊長さんは諦めたように椅子に座り直した。
「礼儀をお返しすると申しましたが、失礼をお詫びするという方が正しいかもしれません」
「ええと、さっきのベルの件ですよね」
「先程も申しましたが、あれだけの会話の中で嘘をついたのは一度だけ、ええ最後のは別としてです。誠実な対応をしてくださったセディさんには、誠実な態度でもってお返ししたい。お詫びとはベルを使って試すような真似をしたことについてです」
「いえ、そんな。僕こそ最初は疑われるような言い方をしてしまってすみません。ただ、僕としては可能な限り嘘はつきたくなかっただけですから」
「ええ、それでもここまで正直にお答えいただけるとは思いもしませんでした。人は多かれ少なかれ自分のプライドを守るために、小さな嘘を結構つくものなのですよ」
どこか遠くを見ながらマチルダさんはそう言った。
「そう言えば、質問でしたね。セディさんには、私に答えられることでしたら可能な限り誠実にお答えすることをお約束いたします」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして、そのベルについてなのですが……」
ベルについて、所有者の魔力を込めて発動する魔術アイテムらしい。
質問した相手の嘘に反応しベルが鳴る。
客観的な事実に反していても、本人がそう信じていたらベルは鳴らない。
例えば、Aさんは男性だけど、本人が自分は女性だと信じていればそれは嘘とはならない。
そしてマチルダさんが倒れる程に魔力を込めて質問した件についても聞いてみた。
僕が宵闇の眷属ではないかという質問について、どうやら世界の根源に直接つなげて答え合わせができるようにしたとのこと。
先程のAさんの例に即して言えば、本人がいかに男性だと信じていても、事実は女性なのでベルは鳴るようになっているということだ。
つまり、僕は世界そのものから宵闇の眷属ではないと認められたということである。
魔王とは別の生き方をする。
そう考えた僕が認められたようで少し嬉しかった。
でも、僕はひとつ引っかかっていることがある。
「魔王は宵闇の眷属か否かですか?」
「ええ、僕が魔王本人だった場合、魔王が宵闇の本体だったら眷属じゃないって判断されてベルが鳴らない可能性があるじゃないですか」
「……セディさんが魔王ですか?」
「ええ、記憶喪失の魔王とか……」
〈セディ!? 折角宵闇の眷属の疑いが晴れたのに何言ってるっスか!〉
(ごめん、スラヤミィ。マチルダさんは僕に誠実に接しようとしてくれている。それに対して出来れば誠実に対応したい)
〈……分かったっス〉
(スラヤミィ、怒った?)
〈むしろ逆っス。魔王とは違う生き方をするというセディの考えがブレてなくて嬉しいっスよ〉
(ありがとう)
僕も嬉しかった。
スラヤミィが認めてくれた。
やっぱり君が友達になってくれて良かった。
「結論から言えば、分かりませんとしか言いようがないのです」
「それって、どういうことですか?」
「私としては、宵闇の魔王本人も宵闇の眷属に含まれると思っていました。しかし、今回はベルに魔力を込めて世界の根源に判断を求めました」
「では、その世界の根源の判断って……」
「私の考えと同じなら魔王も眷属に含まれますし、違うと判断されれば魔王は宵闇の眷属ではないことになります」
「そうだ、もう一回僕が魔王かどうか質問していただけますか?」
「……ごめんなさい。普通の嘘の判断は今でも出来ます。しかし世界の根源に問う、これはそう何度も簡単には出来ないのです。一度使用すると次に使えるのは最低でも一か月先になります」
「え? そんなに……」
「セディさん。私の個人的考えですが、あなたは魔王ではありません」
「僕が魔王でない根拠とかあるのですか?」
「私の知る魔王とあなたとではあまりにも違います。では問います。あなたは宵闇の魔王ですか?」
「……僕は宵闇の魔王です」
ベルは鳴らなかった。
「ほら、セディさんはご自分を魔王でないかと疑っていますが、あなた自身は心の奥底で明確に否定されている」
それは、僕が魔王とは違う生き方をしたいと思っているからで、記憶を失う前は本当に魔王だったんだ。
だって、魔王の使い魔だったスラヤミィだってそれを証明してるじゃないか。
僕は、何が何だか分からなくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます