第5話迷いの道



俺は森の静かさに包まれながら、一歩一歩進んでいく。暗闇の中で得た力は、まるで温かい光のように心を満たしていた。しかし、闇を乗り越えた先には、さらなる試練が待っていることを感じていた。道は続いているが、足元には不安が潜んでいるような気がした。


しばらく進むと、再び霧が濃くなり、視界が朦朧とする。木々の隙間から漏れる淡い月の光が、まるで導きのように感じられる。ふと、耳を澄ますと、どこか遠くから囁くような声が聞こえてきた。


「お前は本当に進みたいのか…?」


その声は魅惑的で、俺の心に不安を植え付ける。振り返ると、先程の影が再び薄れた霧の中に蠢くのが見える。恐怖を感じる余裕はなかったが、心の奥に潜む迷いが顔を出す。俺は迷い道を選ぶべきなのか。


「俺は進む。何が待ち受けていようとも。」


決心を新たにし、声の方向へ進む。霧の中で、ぼんやりと見える何かがあった。近づいていくと、それは古びた石の柱で、周囲には同じような柱が並んでいる。一つ一つには奇妙な文字が彫られているが、見覚えのある言葉も混じっている。


「過去を忘れない者に、未来への道を与えよう。」


その瞬間、俺の脳裏に過去の出来事がフラッシュバックする。かつて感じた痛み、選択の結果、逃げ逃げてきたものたちが、目の前に蘇ってくる。あの時、恐れに立ち向かわなかったら、どんな人生が待っていたのか。そのことを考えると、胸が締め付けられるようだった。


「忘れることはできない。だが受け入れることはできる。」


俺はその言葉を自らに言い聞かせながら、柱に手をかける。触れると、冷たい石が熱を帯びてきた。忽然と光が辺りを包み込み、金色の光の粒子が舞う。一瞬にして、周囲の風景が変わった。


目の前には広大な草原が広がり、色とりどりの花々が咲き乱れている。その中心には、美しい女性が佇んでいた。彼女の顔には、どこか見覚えがあった。彼女は微笑みながらこちらを見つめている。


「私を忘れないで。あなたの過去の一部なのだから。」


彼女の声は優しく、まるで心の奥深くに響くようだった。彼女の存在は、俺に数々の想いを思い出させ、懐かしさと共に深い後悔を感じさせる。


「俺は…お前を忘れたことはない。ずっと、心の中に…。」


彼女は静かに頷き、両手を差し伸べた。俺は恐る恐る彼女に近づき、その手を取る。瞬間、過去の記憶が溢れ出し、心の奥に隠していた感情が一気に押し寄せてくる。その感情は苦しいものでありながら、同時に解放感をもたらした。


「もう、恐れないで。過去を恐れることはない。あなたは成長したのだから。」


彼女の言葉が温かく響き、力強さが俺の中に芽生える。俺は彼女の手を握りしめ、今までの自分の背負ったもの全てを受け入れる覚悟を決めた。


「これが力だ。過去を抱きしめることで、次に進む力を得た。もう、迷わない。」


彼女の存在がぼやけていき、その瞬間、草原が再び霧の森へと戻ってゆく。そして森の中に戻った俺は、再び進む勇気を感じながら、一歩を踏み出した。


「次はどこへ行く?」 新たな旅路に思いを馳せる。運命の扉が開いていく。

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