天体観測【ブロマンス/死ネタ】
ビル街のど真ん中にある、小さいマンションの屋上で天体望遠鏡を覗く。
肉眼ではビルの灯りに邪魔されて、なかなか見れない星空でも、ピントを合わせれば其処には星空が広がる。
でも、俺はそんな星空が見たいわけじゃ無い……。
「───ねぇ……もし明日、地球に隕石がぶつかって世界が終わるとしたらどーする?」
昔、友人と星を眺めていた時にそんな事を聞かれた。
「どう思うって、そんな事あるわけないだろ。そうなったら今頃、世界中のテレビやネットで大騒ぎだ!」
「ハハハッ……“もしも”の話だよ!」
彼は笑って続けた。
「ねぇ、君ならどーする?」
「そーだなぁ……」
俺は夜空を見上げながら考えた。
「やっぱり嫌だな……」
「えっ?」
「だって、俺達には未来があるんだぜ?」
そう言うと、彼は瞬きしながら俺を見つめた。
「明日、世界の終わりが来るなんて考えらんねぇって話だよ!もし万が一、隕石が落ちてきたとしてもだ。そうなった時にしかどーするかなんて分かんねーし、考えるだけ無駄だろ?」
「……そっか、だよなぁ」
彼は俺から視線を外し、無言のまま空を見上げる。
俺は彼のその横顔を見ながら聞いた。
「でも、いきなり何でそんな事聞いたんだよ。お前らしくもない……」
「別に。ちょっとこういう話をしてみたかっただけさ」
普段、仮説を笑う彼が、珍しく自らが述べる仮説話に疑問を浮かべた俺だが、それ以上突き詰める事はしなかった。
彼はそれきり夜空の星を見つめて、ただただ綺麗だと呟いた。
────俺は今、星にピントのあった望遠鏡をそのままに空を見つめて、あるモノを探し続けていた。
「おい、星は見えたかー?」
買い物に出掛けていた友人が帰ってきたらしい。
扉を開けて入ってくる友人は、背中越しに声をかけてくる。
「あぁ、見える」
「そっか。良かったな……でも、何を探してんだ?」
余りにもせわしなかったのか、片手に持つ缶コーヒーを飲みながら友人が訊ねてきた。
「星は見えてんだろ?今日は月だって出てねーし、衛星か何かか?」
「衛星なんかはこんな処じゃ見られねぇし、流れ星とかも無理だから」
「じゃあ、一体何を……」
不思議そうな顔をした友人に目もくれず、俺は小さく呟いた。
「……隕石」
「は?」
俺の返答に情け無い声を上げた友人は、暫くするとくつくつと笑い出す。
「ちょっ……オイオイッ。お前、今、流れ星とか無理だって言ってたじゃん!隕石なんて尚更無理だろっ!!」
遂には腹を抱えて嗤う友人に溜め息を零して、俺はあの言葉を口にする。
「なぁ、もしも隕石が落ちてきて、明日世界が終わるとしたらお前どーする?」
「はぁ?また可笑しな事言って……俺を笑い殺す気かよ!?」
「……いいから答えろよ」
目尻に涙を浮かべ、肩で息をする友人はそーだな、と、少し考えてから答えた。
「俺だったら嫌だな……。明日世界が終わるとか、考えられねーわ!」
「だよな……」
やはり友人は友人だった。
類は友を呼ぶとはこの事だろう……。
だけど。
「お前はどーするんだ?」
そう訊ねられた時、俺は昔の友人の言葉を口にする。
「俺はね────」
あの時、俺も友人に聞き返した。
「だったらさ、お前はどーすんだよ?」
「え?」
「世界の終わりにさ」
「……俺は」
『────それでも、良いと思う』
「まーた、変な事言って……お前、ホント今日どーした?」
呆れを通越して心配された。
そりゃそうだ。
普段から理論的思考の持ち主が、今はメルヘンチックな臭いセリフを吐いてりゃそーなる。
「別に。ただ、言ってみたかっただけだ」
それだけ言ってまた空を見つめた。
友人は未だに不可思議なモノを見るように見つめていたが、ふと望遠鏡を見て呟いた。
「しかし、年期の入った望遠鏡だなぁ……。買い換えたりしねーの?」
「あぁ、うん」
「何で?」
「だってコレ、俺の天体仲間だった奴の形見だから!」
あの日、その会話を最後に彼は数週間後、この世から旅立った。
元からあった病気が再発したと聞いたのは、彼の葬式での事だった……。
彼はきっと、自らの死が間近に迫っていた事を薄々気付いていたのかも知れない。
だからあんな事を言ったのだと、今更ながらに思う。
「そっか、なんか悪ぃ事言っちまったな……」
「気にすんなよ。俺も今の今まで言ってなかったし。お前らしくないぞ?」
「お前が言うな!」
そうして笑い合いながら、望遠鏡を覗いて見た星空は、衛星や流れ星や隕石すらも映さずに先程と何ら変わり映えしない輝く星々を静かに映し出している。
───もしも世界を終わらせる隕石が降ってきたなら。
俺はまた、彼に会えるだろうか……。
終
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