初恋【BL/女装】
本日、俺は初めて恋という出来事に遭遇した。
いつもの時間に学校を出て、友人達とダラダラ世間話をしながら家へと続く帰り道を歩いていた。
歩みを進めるにつれ、一人また一人と自らの帰路につく友人達に手を軽く振りながら別れを告げる。
そのやり取りを繰り返している内にいつの間にやら一人となった俺は、自宅を目指して歩みを進めていると、見慣れた交差点が目の前に差し掛かった。
俺は辺りを見回しながら、少なからず通るであろう車を確認していると、前方から一人の女性が歩いて来るのが見えた。
俺は女性に伴い、交差点を渡りながら視線を女性に向けた。
女性は俺より少し背が高く、色白の肌に綺麗な艶のある黒髪を靡かせながら俺の横を通り過ぎる。
その瞬間、今までにない衝撃が俺の全身を駆け巡り、俺はその場に立ち尽くしながら過ぎ去る女性を暫く見つめていた。
次の日。
その話を友人達に語った俺は、見事笑い者にされた。
友人達は口々に叶わぬ恋だと慰めや、からかい混じりの言葉を返してきた。
怒りを抑えながらも、俺は一番仲の良い友人に賛同を求める。
彼はいつも俺の味方をしてくれる優しい奴なので、俺は彼に縋る思いで話を振った。
彼は話を聞いた後、いつもは俺に賛同をしてくれるのだが、何故かこの時ばかりは周りの友人達と同じ返答をされた。
俺は彼が味方になってくれなかったのと、共感を得られなかった事に腹を立てたが俺の想いは変わらず、俺はもう一度彼女に会う為に交差点で待伏せをした。
願わくば彼女に会って自分の気持ちを伝えたいとも思っており、それから毎日学校帰りはこの交差点で空が夕闇に包まれるまで彼女が現れるのを待ち続ける日々を送っていた。
友人達はあいも変わらず、からかいの言葉を投げ掛けて来たが俺は気にせず、彼女が来る日を待ち続けた。
しかし、彼女はあの日以来姿を現す事はなかった。
待てども待てども現れない彼女。
一週間が過ぎ、更には一ヶ月が過ぎようとした頃、流石の俺も落ち込んでいた。
すると、仲の良い彼が心配したのか声を掛けてきた。彼は呆れたように何故そんなに執着するのか?と訊ねてきた。
俺は少し照れながら『初恋なんだ』と呟くと、彼は驚きつつ困った様な顔で笑っていた。
それから数日が経った頃、いつもの様に交差点で待伏せしていると、目の前からあの彼女が歩いて来るのが見えた。
彼女はあの時と同じく色白の肌に綺麗な黒髪を風に靡かせ、颯爽と此方へ向かってきた。
俺は勇気を振り絞り、彼女が俺の近くまで来るのを確認してから彼女に声を掛けた。
彼女は俺の声に立ち止まると此方に顔を向け、小さく返事をした。
俺は吃りながらも自分の気持ちを彼女へ伝えた。
彼女は聞いた後、しばらく沈黙していたが、ふと口を開くと思いがけない事を口にした。
それは、彼女も前から俺に好意を抱いていたと言う事だった。
あまりにも突飛な話で一瞬、俺の思考は停止していたが、彼女の問い掛けに我に戻る。
お互い、暫く黙り込んでから、彼女からの告白が返って来たので、俺は二つ返事で彼女の言葉を受け入れた。
彼女はクスリと笑うとまた口を開いた。
『実はもう一つ教えなければならない事がある』と。
彼女が凄く神妙な面持ちで話すので、俺は真剣に彼女の話を聞いていた。
彼女は一言、『事実を知っても嫌いにならないでね?』と言い放ち綺麗な黒髪に手を伸ばす。
俺は『大丈夫だよ』と彼女に告げると、彼女は微かに笑って『有難う』と言い、手に掴んだ黒髪をゆっくり引っ張った。
俺はあ然とその光景を見つめていた。
彼女の綺麗な黒髪が剥がれ落ち、彼女の本当の姿が現れた時、目の前にいたのは紛れもなくあの仲の良い彼だった。
驚きと困惑状態の俺に彼は申し訳無さそうに何度も謝った。
後日。
いつもの時間に学校を出て友人達とダラダラと世間話をしながら、家へと続く帰り道。
歩みを進めるにつれ、一人また一人と帰路につく友人達を見送りながら、あの交差点へと差し掛かる。
辺りを見渡し車の確認をしてから足を一歩出すと、もう一歩の足が隣に並ぶ。
横を見ると、彼がさりげ無く隣に並んでいた。
「何してんだよ」
そう訊ねると、彼は『別に』と笑って誤魔化した。
そんな彼に溜息を吐いた俺は、彼の手を握りしめて交差点を渡る。
すると彼は俺の手を握り返して『恋人みたい……』と嬉しそうに呟いた。
終
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