夏祭り【BL/キス】

今日、近所の神社にて毎年開催されるお祭りが行なわれる。

俺は友人達と一緒に行く予定だったが、ふと気づいた中身が空の財布に渋々祭りを断念せざるを得なかった。


「…と言う訳で。悪りぃけど、俺行けねーや!!」

「なんだよ、それぇぇ!」


俺の家まで迎えに来た友人達から一斉にブーイングをくらい平謝りをする。


「だから悪かったって!」

「誘ってきたのはお前だぞっ!?」

「いやぁ…まぁ、そうだけどさぁ……」

「どうせ、また何時もみたいにお小遣い使いきったんだろっ?」

「うっ!(図星だっ)」

「はぁー。行けないの知ってたらお前ん家なんて寄らなかったのに……」

「……ごめん」


口々に文句を言う友人達に小さな声で再び謝ると、友人達は鼻を鳴らして足早に祭りへと行ってしまった。

しょぼくれながらも友人達の小さくなる後ろ姿を眺めていた俺は、仕方なく家の中へ戻ろうとする一つの足音が此方に近付いて来るのが聞こえた。


「ねぇ……!」


声をかけられ振り返ると、そこにいたのは祭りに向かった筈の友人の一人だった。


「……なんだよ。皆に置いてかれるぞっ!」


俺は素っ気無く返事を返すと彼は躊躇いがちにかっこ『一緒に行こうよ…』と誘ってきた。

その言葉にきょとんとしていた俺だったが、先に行った友人達の彼を呼ぶ声が聞こえ、苦笑しながら言葉を返す。


「俺はいいよ。行って来いよ、みんなお前を待ってるぞっ?」

「……でも、」

「いいから、早く行けって!」


俺は彼を諭し、家の中に入るとすぐに鍵を閉めた。

それから玄関のドアスコープから彼の様子を伺うと彼は暫くこちらを見続け、その後とぼとぼと友人達の向かった方へと歩きだした。

彼が家の前から居なくなったのを確認し、俺は玄関のドアから離れ自室へと向かった。


それから暫くして、いつの間にか時刻は午後七時を回っていた。

自室のベッドで寝ていた俺は外から聞こえてくる音で目を覚まし辺りを伺う。

部屋は暗く、窓越しから見える外は先程までの明るさを微塵も残していなかった。

俺は目蓋を瞑り耳だけに神経を集中させながら、外から聞こえる音に耳を傾けた。

ドンと大きく鳴る音は何回か連続して聞こえたり、暫く静まり返ったりと不規則に聞こえてくる。

銃のような雷のようなそんな音。

今の俺には妬ましく、意地らしい夜空に光輝く花火の音。

聞いているうちにまた段々と眠気が襲い、意識を手放そうとした俺の耳に今度は違う音が聞こえてくる。

それは家の中で聞こえた。

仕事から帰ってきた両親だろうか?

それともお祭りに行った妹だろうか?

そうこう考えている内にその音は段々近付いて来ている事に気付いたが、如何せん目蓋が開かない。

きっと両親か妹が俺の様子を見に来たに違いない。

そう思い込みながらそのまま寝ていると自室の扉が開く音と誰かが入って来る気配がした。


《ほら、来た……》


内心そう思いつつ、起きる気がしない俺は寝惚けた思考の中、声が掛かるのを待っていた。

すると入ってきた人物は俺に一切声を掛けてくることなく俺に近付いてきた。

そして暫く黙っていたかと思うと、俺が寝ている横に何かを置いた。

ガサッと音がするそれはまぶたを閉じていても何かすぐ見当がついた。

鼻をくすぐる香ばしいその匂いは屋台で売られている食べ物しか他に思いつかないからだ。

俺はその匂いにつられてそっと目蓋を開けようとした時、何かが俺の顔に覆いかぶさり耳元で静かに呟いた。


「今度は一緒に行こうね?君が居ないとつまらないから……それからお土産とこれ、お裾分け」


声がしなくなると同時に俺の唇に何か柔らかいものが一瞬だけ触れ、反射的に目を見開くとそこには誰も居なかった。

寝ぼけたのかと思い周りを見渡すと、俺の横には袋に入ったたこ焼きが置いてあった。


「夢……?いや、でもこれ(お土産)はあるし」


《もう一つの“これ”ってなんだったんだ……?》


わけが分からず、自身の唇にそっと手をやるとほんのりと甘いイチゴシロップの香りがした。






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