可愛いキミ【BL/死ネタ】

初めて会ったのは、キミがイジメられていた時だった…。


当時、うるせぇクソガキ共に絡まれていたキミを助けてやったのを今でもよく覚えている。

周りの奴等よりも背は低いし、見た目もナヨイ。

年の割に幼く見えるキミは、イジメの標的になるのに十分な奴だった。

クソガキ共を愛用のバイクで煽り散らしてやれば、キミは瞳を丸くさせ、オレを見つめていた。


「大丈夫か…?」

「あっ、ありがとう御座います」


尻餅をついた体制から正座に変えて礼を言うキミの顔は、ヘルメット越しでも分かるほど幼い笑みを浮かべていた。

その日はそのままキミと別れたが、後日、偶然出会った際に缶コーヒーをプレゼントされた。


それからオレとキミはちょくちょく会うようになった。


キミは、よくクソガキ共にイジメられていた。

その度にオレが助けに入って、キミはオレに懐いてきた。

オレを見つけると、キミはよく笑顔をみせて駆け寄ってくる。

それが飼い主に懐く犬の様にも見えてとても可笑しかったし、ガラにも無く“可愛い”と思えた。



ある時キミを見つけて声を掛けようとしたら、キミはクソガキ共の一人と一緒にいた。

またイジメにあっているのかと様子を伺っていると、キミとソイツが人目を避けて建物の陰に姿を消した。

慌てて後を追ったがそこで目にしたのは、二人の情事だった。

隠れて互いを求めている様は、愛し合う恋人そのモノで、キミの瞳は恍惚とソイツを見つめていた。


オレは何だか大事な玩具を取られた子供みたいに、胸が締め付けられる思いに駆られてその場を後にする。


オレはきっと、キミに恋をしたのだと後から知った…。


それからキミと出会う度にあの光景が過ぎり、変な独占欲に狩られた。

キミと長く一緒にいたくて、バイクに乗せて連れ回した。

それでもやはり、オレをあの瞳では見てくれなくて、オレはその度に拳を握り締めた。

何度か手を出してしまおうかと葛藤したか、嫌われる事を恐れて出来なかった…。


そんな日々を繰り返していた矢先、キミはまたイジメられていた。

その中にアイツはいなくて、クソガキ共はキミをリンチしていた。

クソガキ共を散らして助けに入ったら、キミの唇は切れて血が滲んでいた。

何処か申し訳なさそうに笑うキミの頬を優しく撫でるとキミは安心したのか、その手に顔を寄せた。


そんなキミを見つめていた矢先、突然背後から声が聞こえた。

其方を見れば、そこにはアイツが立っていた。

息を切らしながら、此方を見つめていたアイツは、目が合うとオレを軽く睨み付けていた。

それからキミの名を呼びながら近づいてくるアイツに気付いたキミが振り返ろうとした。


だけど、オレはそうさせなかった。


キミの頬から顎に手を滑らせ、クイッと上向かせてキスをする。


近づいてくる足音はピタリと止まり、キミは驚き、目を見開いたまま固まった。

数秒間だけの軽い口吻の後、滲んでいた血を舐め取り、放す。


キミは未だに放心状態でオレを見つめていた。

それが何とも心地良くて、オレの心は満たされた。

アイツは拳を握り締め、オレを今にも殺しそうな勢いで睨み付けていた。

そんな奴を鼻で笑ってやった。


大人げないかもしれない…。

だが、本能には逆らえなかった。



それから暫くキミの事を避けていた。

会わない様にキミの通る道をなるべく避けた…。

しかし、それが最悪の結末を迎える事になるとはこの時のオレは知るよしも無かった。



キミと会わなくなって、数週間が過ぎ去ろうとしていた。

そんな中、キミをよく見掛けた近隣で事件が起きたとテレビで報道があった。


嫌な予感がした。


まさかと思ったが、その予感は的中してしまった…。


「今日未明、××市△△の近くで遺体となって発見されたのは、○学生の…」


キャスターの女性が被害者の名を告げた。

オレは息を飲んだ。

被害者の名は、キミの名前と一致している。

女性キャスターは続けた。


「───被害者の少年は草むらで発見され、遺体には衣服の乱れがあり…首をコードの様なモノで絞められた事による窒息死とみられ、警察は殺人容疑で犯人の行方を追っています」


キミの笑顔が脳裏に浮かんだ。

可愛い、かわいい、オレのキミが…あの笑顔が白むように消えていく。

クラリと目眩がして、オレはその場に跪く。


嗚呼、キミを奪ったのは誰だ。


自然と零れる涙は頬を伝い、床へと落ちる。

叫びは声にならず、怒りと憎しみがフツフツと湧き上がった。


キミを奪った奴を絶対に許さない……。



ニュースの途中でテレビを消すと、画面に映り込む己の顔は酷く歪んでいた。


犯人を見つけ出して必ず殺す。


そう、心に決めた。





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