game 15. まどろみ


 深見緑地公園は広い。出現予測地点を教えてもらって探しに行くと、果たしてカイはイチョウの木の下、ベンチに仰向けになって昼寝していた。

 木洩れ日が白い肌にまだらの影を落とす。風が吹くと、まだら模様はカイの上でゆらゆら踊った。


 悠馬はそっとカイのそばにしゃがんだ。毎日顔を合わせていても、じっくり観察することなんてないものだ。折角だから、よく見ておこう。


(まつ毛まで、色うすいんだな……)


 黙っていれば、キレイな顔をしているのに。もったいない。


 何がもったいないのかは、よくわからないけれど。

 だって、自分が手にしたことのないものなのだ。仕方あるまい。それでも自分ならきっと、もっと有効活用できるのに……と思うのは、持たざる者のひがみだろうか。


 おまえが医学部に入らなければ、その枠を他の誰かがもっと有効活用できたのに……そんな声が、梢のざわめきにまぎれて聞こえてきそうだ。


 しばらくそうしていると、かすかに吐息が聞こえてきた。どうやら本気で寝入っているらしい。悠馬は預かってきた赤いスマホを取りだして、カイの耳にあてた。それから、シオンから教えてもらったばかりの連絡先に電話をかける。


 ピロリロリ~ ピロリロリ~


 カイがビクッと震えた。そしてゆっくり起き上がる。


「ん……。オレの、でんわ」


 眠たいのか眩しいのか、カイは細目でスマホ画面を睨みつけると、鳴り続ける着信音をブチッと切った。


「スマホくらい、持って出ろよな」

「首輪つけられて、満足に散歩ができるかよ」


 カイは悠馬の手から赤いスマホを取り返し、パーカーのポケットに突っ込んだ。

 折しも一匹のコーギー犬が飼い主を引き連れて通り過ぎていく。


 それを見届けると、カイは立ち上がって歩き出した。行く先には降り積もったイチョウの葉っぱが黄金の絨毯じゅうたんを敷いている。晩秋の陽光が、去りゆく白い背中を照らす。ぼんやり見送っていた悠馬は、我に返って急いで後を追った。


「カイ、おまえ、いつもあんなところで寝ているのか?」


 心配しているわけではないが、なんとなくいろいろ、無防備だ。


「オレは日に当たらないと青白くなるからな」


 カイはふあぁと大きなあくびをして、振り向いた視線が悠馬を捉えた。


「おまえはいいよな。……うらやましい」


 そしてまた歩き出す。


……これは、寝惚ねぼけているのだろうか。


「って、どこ行くんだよ!?」


 気づけば、カイが向かっているのは来た道とは別の方角だ。


「寝たら腹減った。つき合えよ」

「はあ? 寝てただけなのに、腹が減るのかよ」


 まあ、わからないではない。悠馬だって、夜ご飯を食べて、寝て起きたら腹が減っていることはある。生き物は、寝ているだけでエネルギーを消費するものだ。


「池の向こうに、カフェがある。あそこのパフェは美味い」


 本当に甘いものが好きなんだなあ。


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