第4話「新たな一歩」

 医学部附属病院の特別実験室。早乙女燐は、白衣を身にまとい、緊張した面持ちで立っていた。今日は、プロジェクト開始後初めての公開実験日だった。


「大丈夫ですか、早乙女さん?」


 鷹宮翔の声に、燐は小さく頷いた。


「は、はい……少し緊張していますが」


 翔は優しく微笑んだ。


「自然なことです。でも、あなたの勇気が、多くの人を救うんです」


 その言葉に、燐は深く息を吐いた。そうだ、これは自分のためだけじゃない。多くの女性たちのための研究なのだ。


 実験室のドアが開き、常盤椿教授を筆頭に、数名の研究者たちが入ってきた。


「では、始めましょうか」


 常盤教授の声に、全員が静かに頷いた。


 燐は震える手で白衣のボタンに手をかけた。ゆっくりと、一つずつ外していく。最後のボタンを外し、白衣を脱ぎ去ると、燐の上半身が露わになった。


 室内に小さなどよめきが起こった。燐の胸には、かすかに浮かび上がる不思議な模様があった。まるで、木の年輪のような、繊細な線が描かれている。


「これは……」


 常盤教授が驚きの声を上げた。翔も、目を見開いていた。


「早乙女さん、この模様は生まれつきのものですか?」


 燐は小さく頷いた。


「はい。幼い頃からありました。でも、恥ずかしくて誰にも見せたことがなくて……」


 常盤教授は興奮した様子で、他の研究者たちと小声で話し合い始めた。翔は静かに燐の側に寄り添った。


「素晴らしい発見です、早乙女さん。この模様が、新しい検診法の鍵になるかもしれません」


 燐は驚きと喜びで胸が一杯になった。自分の体の特徴が、研究の重要な要素になるなんて。


 実験は順調に進み、燐の体の詳細なスキャンと検査が行われた。終了後、燐は再び白衣を身にまとった。体は疲れていたが、心は不思議な高揚感に満ちていた。


「お疲れ様でした、早乙女さん」


 翔が燐に温かい紅茶を差し出した。


「ありがとうございます」


 燐は紅茶を受け取りながら、翔の目を見つめた。そこには、尊敬と何か別の感情が混ざっているように見えた。


 その日の夕方、燐は大学の中庭のベンチに座っていた。風が優しく頬を撫でる。


「燐!」


 声の主は葉月詩織だった。


「大丈夫だった? 今日の実験」


 燐は小さく微笑んだ。


「うん、思ったより……大丈夫だったわ」


 詩織は燐の隣に座り、彼女の手を優しく握った。


「よかった。私、心配してたの」


 燐は詩織の優しさに胸が熱くなった。


「ありがとう、詩織」


 二人は静かに夕陽を眺めていた。燐の心の中で、何かが大きく変わり始めていた。自分の体への新たな自信、研究への情熱、そして……翔への不思議な感情。


 新たな一歩を踏み出した燐の前に、まだ見ぬ未来が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年10月19日 12:00
2024年10月20日 12:00
2024年10月21日 12:00

【SF短編小説】95%が女性の社会の中で輝く超越男子との禁断の恋と医療革命 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ