第3話「決断の時」

 早朝の研究室。早乙女燐は、緊張した面持ちで椅子に座っていた。今日は、プロジェクトの詳細説明会だ。


「おはよう、早乙女さん」


 鷹宮翔が、穏やかな笑顔で部屋に入ってきた。


「お、おはようございます」


 燐は小さく頷いた。翔の存在感に、unconsciously に背筋が伸びる。


「では、プロジェクトの詳細を説明しますね」


 翔はホワイトボードの前に立ち、説明を始めた。新しい乳がん検診法の開発、それは画期的なものだった。しかし……


「そして、このデータ収集のために、定期的な身体検査と……部分的な露出が必要になります」


 燐の体が硬直した。彼女は自分の胸元に手を当て、小さく息を呑んだ。


「大丈夫ですか、早乙女さん?」


 翔の声に、燐は我に返った。


「は、はい……ただ、少し……」


 言葉に詰まる燐。翔は優しく微笑んだ。


「無理をする必要はありません。考える時間が欲しければ……」


「いいえ!」


 燐の声は、自分でも驚くほど強かった。


「私、この研究に参加したいんです。ただ……少し時間をください」


 翔は静かに頷いた。


「分かりました。明日の朝までに、答えをください」


 研究室を出た燐は、深々とため息をついた。頭の中は複雑な思いで混乱している。


 キャンパスを歩きながら、燐は自分の決意と不安を天秤にかけていた。ふと顔を上げると、そこには葉月詩織が立っていた。


「あら、燐。どうしたの? 元気なさそうね」


 詩織の声には、心配そうな響きがあった。


「ちょっと、考え事があって……」


 燐は躊躇いながらも、状況を説明した。詩織は真剣な表情で聞いていた。


「そっか……でも、燐。これはチャンスよ。あなたの才能を活かせる絶好の機会だわ」


 詩織の言葉に、燐は驚いた。


「でも、私……自信がなくて」


「大丈夫よ。燐は美しいし、才能もある。それに……」


 詩織は少し言葉を濁した。


「鷹宮翔と一緒に研究できるなんて、羨ましい限りよ」


 その言葉に、燐の胸がきゅっと締め付けられた。


 夕暮れ時、燐は自室の鏡の前に立っていた。ゆっくりとシャツのボタンを外す。胸元が露わになる。


「これが……私」


 鏡に映る自分の姿を、燐は凝視した。確かに美しい。しかし、それ以上に大切なものがある。


 燐は深く息を吐いた。そして、決意を固めた。


 翌朝、研究室。


「決心がつきました」


 燐の声に、翔は静かに頷いた。


「この研究に、全力で取り組みます。たとえ、自分の体を晒すことになっても」


 燐の瞳には、強い決意の光が宿っていた。


「ありがとう、早乙女さん。きっと素晴らしい成果が出せるはずです」


 翔の言葉に、燐は小さく微笑んだ。


 窓の外では、新しい朝日が昇っていた。それは、燐の新たな人生の始まりを告げているかのようだった。


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第4話「新たな一歩」


 医学部附属病院の特別実験室。早乙女燐は、白衣を身にまとい、緊張した面持ちで立っていた。今日は、プロジェクト開始後初めての公開実験日だった。


「大丈夫ですか、早乙女さん?」


 鷹宮翔の声に、燐は小さく頷いた。


「は、はい……少し緊張していますが」


 翔は優しく微笑んだ。


「自然なことです。でも、あなたの勇気が、多くの人を救うんです」


 その言葉に、燐は深く息を吐いた。そうだ、これは自分のためだけじゃない。多くの女性たちのための研究なのだ。


 実験室のドアが開き、常盤椿教授を筆頭に、数名の研究者たちが入ってきた。


「では、始めましょうか」


 常盤教授の声に、全員が静かに頷いた。


 燐は震える手で白衣のボタンに手をかけた。ゆっくりと、一つずつ外していく。最後のボタンを外し、白衣を脱ぎ去ると、燐の上半身が露わになった。


 室内に小さなどよめきが起こった。燐の胸には、かすかに浮かび上がる不思議な模様があった。まるで、木の年輪のような、繊細な線が描かれている。


「これは……」


 常盤教授が驚きの声を上げた。翔も、目を見開いていた。


「早乙女さん、この模様は生まれつきのものですか?」


 燐は小さく頷いた。


「はい。幼い頃からありました。でも、恥ずかしくて誰にも見せたことがなくて……」


 常盤教授は興奮した様子で、他の研究者たちと小声で話し合い始めた。翔は静かに燐の側に寄り添った。


「素晴らしい発見です、早乙女さん。この模様が、新しい検診法の鍵になるかもしれません」


 燐は驚きと喜びで胸が一杯になった。自分の体の特徴が、研究の重要な要素になるなんて。


 実験は順調に進み、燐の体の詳細なスキャンと検査が行われた。終了後、燐は再び白衣を身にまとった。体は疲れていたが、心は不思議な高揚感に満ちていた。


「お疲れ様でした、早乙女さん」


 翔が燐に温かい紅茶を差し出した。


「ありがとうございます」


 燐は紅茶を受け取りながら、翔の目を見つめた。そこには、尊敬と何か別の感情が混ざっているように見えた。


 その日の夕方、燐は大学の中庭のベンチに座っていた。風が優しく頬を撫でる。


「燐!」


 声の主は葉月詩織だった。


「大丈夫だった? 今日の実験」


 燐は小さく微笑んだ。


「うん、思ったより……大丈夫だったわ」


 詩織は燐の隣に座り、彼女の手を優しく握った。


「よかった。私、心配してたの」


 燐は詩織の優しさに胸が熱くなった。


「ありがとう、詩織」


 二人は静かに夕陽を眺めていた。燐の心の中で、何かが大きく変わり始めていた。自分の体への新たな自信、研究への情熱、そして……翔への不思議な感情。


 新たな一歩を踏み出した燐の前に、まだ見ぬ未来が広がっていた。

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