第1話「隠れた才能」
医学部の講堂に、教授の声が響き渡っていた。
「そして、この遺伝子配列が……」
早乙女燐は、真剣な面持ちで講義ノートを取っていた。彼女の長い黒髪は、胸元まで優雅に垂れ下がっている。周囲の学生たちが、当たり前のように胸を露出しているのとは対照的に、燐は高めの襟のブラウスを身につけていた。
講義が終わり、学生たちが騒々しく教室を出ていく中、燐はゆっくりと荷物をまとめていた。
「燐、今日の放課後、カフェに行かない?」
クラスメイトの葉月詩織が、明るい声で話しかけてきた。燐は少し戸惑いながらも、小さく微笑んだ。
「ごめんなさい、詩織。今日は図書館で勉強があるの」
詩織は少し残念そうな表情を浮かべたが、すぐに元気を取り戻した。
「そっか。燐はいつも真面目だよね。じゃあ、また今度ね!」
燐は軽く頭を下げ、詩織を見送った。彼女の後ろ姿を見つめながら、燐は小さなため息をついた。
図書館に向かう途中、燐は医学部の掲示板の前で足を止めた。そこには、新しい研究プロジェクトの募集要項が貼られていた。
「乳がんの早期発見に関する画期的な研究」
燐の目が輝いた。これは彼女が長年興味を持っていたテーマだった。しかし、募集要項をさらに読み進めると、彼女の表情が曇った。
「研究協力者には、定期的な身体検査と、データ収集のための部分的な露出が求められます」
燐は無意識に胸元に手を当てた。彼女は自分の体を人前で晒すことに強い抵抗があった。それは、この社会では珍しいことだった。この世界の女性は自分の生殖能力の高さを誇示するために、惜しげもなくその乳房をさらけ出していた。最近だと臀部を露出するファッションも流行のきざしを見せている。
図書館に着いた燐は、静かな一角に席を取った。しかし、勉強に集中できない。頭の中は、先ほどの研究プロジェクトのことでいっぱいだった。
「私にも、何かできるかもしれない……」
燐は小さくつぶやいた。彼女の心の中で、何かが芽生え始めていた。それは、彼女の人生を大きく変えるかもしれない、小さな決意の芽だった。
その夜、アパートに帰った燐は、鏡の前に立った。おずおずと、ブラウスのボタンに手をかける。一つ、また一つとボタンを外していく。最後のボタンを外し、ブラウスを脱ぎ去ると、燐は自分の姿に驚いた。
鏡に映る自分の胸は、決して大きくはなかった。しかし、その形は美しく、肌は陶器のように滑らかだった。燐は初めて、自分の体の美しさに気づいた。
「これが……私……私の体……」
燐は震える指で、自分の胸に触れた。そこには、何かの紋章のような痣があった。幼い頃から気になっていたその模様を見つめながら、燐は決意を固めた。
「明日、応募してみよう」
彼女の声は、いつもより少し強く、自信に満ちていた。燐は知らなかったが、この決断が、彼女の人生を大きく変えることになるのだった。
窓の外では、夜空に星々が輝いていた。まるで、燐の新たな旅立ちを祝福しているかのように。
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