第25話:救済

(なんだ、なんだ俺を無視して話が進んでいくぞ。)


彼らはやいのやいの話しているが、話に全く入れない。


「正直に話してくれてありがとうございます。」

「あの・・・私を見逃してくれますか?」

「それはダメです。今あなたは明確な殺意を示しました。脅されたとはいえ、罪は変わりません。」

「そ・・・そんな!私を救ってくれると言ってたじゃないですか?!」

「もちろんです。あなたは罪を償う事で救われるのです。」

「冒険者殺しは重罪なら、もしかしたら死刑になるかもしれないんでしょ!それだと救われないじゃないですか?!」

「あなたは正直者です。問題なく天国へ行けます。もし死刑になったとしても、安心して下さい。」


彼は微笑みをたやさず、ティアに優しく語りかけていた。

その表情から悪意がない事が読み取れ、よけいたちが悪い。


マルトが何の感情もなく話しかける。

「話は終わったか?」

「ええ、大丈夫です。また1人救われました。」

「セイシロウ、お前も来てこの女の事を証言しろ。それで解決する。」

「え・・・ああ。」


俺は流されるままついていこうとすると、ティアが必死に懇願してきた。

「助けてください!セイシロウさん、私は脅されてしょうがなく攻撃をしてしまいましたが、本当は嫌だったんです!」

「そう言われても、悪意がなかったとしても一歩間違えれば俺は死んでいた。助ける理由がない。」

「そう言わないでください!何でもしますから!」

「ん?」


現実では聞く事がないと思っていたセリフをここで聞いて、少し心が揺らぐ。

この女を助ける選択肢は全く考えていなかったが、助けた場合どうなるか現実的に考えてみることにした。


(まず助けた場合、本当に何でもするのかは怪しいな。嘘を平気で言う女だ。何でもするどころが裏切って、借金のために後ろから刺される可能性が高い。)


「助けたら本当に何でもするんだな?嘘じゃないだろうな?」

「もちろんです!何でもします!あなたに絶対服従を誓います!」

「絶対服従は出来ないだろう?ミレディに命握られてるんだろ?」

「警備員に脅されていた事を告白します!だから命を狙った事だけはなかった事にして下さい!」

「フム・・・。」


それなら、悪くないかもしれない。


「この女がやった事をこの場で許したら、罪はなくなるのか?」

「助けるつもりか?それは困るな。」

「何か問題でも?」

「俺達はこいつを捕まえるために時間を使った。最近の事件の犯人として突き出せば謝礼金の金貨10枚が貰える。」

「それを俺が払えば問題ないですか?」

「そんなにこの女が欲しいのか?では、金貨15枚だ。」

「・・・わかりました。払います。」


俺は相手に見えないように金貨を取り出し、その場で金貨15枚を払った。


「本当に払うとはな・・・、約束は約束だ。この女は好きにしろ。」

「残念です。神の身元に導く使命を果たせませんでした。」

「時間の無駄だ。まあ利益を得ただけよしとするか。」


彼らは口々に言いながら帰っていった。


「まさか助けるとは思わなかったぜ。」


久しぶりに聞く声が後ろから聞こえてきた。

今まで姿を消していたバルクだ。


「バルクさん!なんで助けてくれなかったんですか?」

「盗賊ギルドの恥さらしめ!動向がおかしいと思ったら、馬鹿な事をしやがって!」


どうも知り合いらしい。


「セイシロウ、すまないな。馬鹿な奴だが俺の後輩なんだ。助けてくれてすまない・・・が、金は返せないぜ。その分こいつは好きに使え。」

「好きに使っていいのか?」

「もちろんだ。こいつに拒否権はない。」

「そんな~、何でもするとは言いましたが、常識の範囲内でよろしくお願いします。」

「お前は金で買われたんだ、言わば奴隷よ。もし裏切ったら、今度は俺がお前を断罪するからな。」

「え~。」


彼女はそのまま泣き崩れたが、反省はしていても危機感がないその様子に危うさを感じた。

彼女にとって今回の事は、人を殺す犯罪ではなく、自分を助けるためにはしかたない割のいいバイト感覚なのだろう。


バルクは俺に近寄り、耳元でささやいてきた。

「こいつは本当に馬鹿だが、盗賊としての腕はいい。上手く使ってくれ。ただ、出来るだけ外道な事はやめて欲しい。」

「わかった。」


了承したが、少し外道な事を考えていたので残念な気持ちになった。


「それとティアは馬鹿だから警備兵に今回の事を話す時のフォローをしてやってほしい。余計な事を話されると今回かばった事が無駄になる。」

「指示したミレディの事は大丈夫なのか?報復とか・・・。」

「それは大丈夫だ。もし何かあったら俺に相談しろ。もちろん関係ない事でも相談してくれ。大きな借りができちまったからな。」


絡んできたときは、チンピラかと思ったら以外に理性的な男で驚いた。

もちろん悪属性なので信用しすぎも良くないが、今回の件は大丈夫な気がした。


「それと・・・大金を持っているようだが、今回みたいに簡単に金払いするような事はやめた方がいい。良からぬ考えを持つ奴が大勢いる。俺の仲間には黙っておくよう言っておくが、噂って言うのはどこからでも広がるからな。」

「わかった。」


彼は悪人面でニタリと笑い素早く去っていった。













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