第21話:苦戦

コボルト3匹が倒れた事を軽く確認して、また素早く通路に戻り隠れる。

もしかしたら先ほどの戦闘音を聞いて奴らの仲間が駆けつけてくる可能性は十分あるからだ。

俺は広場から伸びているもう一つの通路をずっと警戒していたが、誰もこない。


(まさかこの迷宮にはコボルト3匹しかいないとか?)


そんな事はあり得ないが、この場所においては増援はないようだ。

広場に戻ってコボルトを確認すると、すでに死体はなくその場には紫色の歪な小さな石が残っていた。


(これが魔石か。換金してくれるらしいから拾っておくか。)


それ以外に奴らが持っていた剣もその場に落ちていた。

魔石で形成されるのは肉体のみで武器は関係ないようだ。

刃こぼれが酷くサビが浮いている酷い状態で、武器としては使えそうにない。

重くて持っていくのも面倒な物だが、収納袋があるのでとりあえず回収しておいた。


(モンスターとはいえ殺しをしたのに、そこまで罪悪感を感じないな。)

生物ではないとはいえ人の形に近いので罪悪感を感じると思っていたが、血も出ない上に、死体も残らないので思ったより大丈夫のようだ。


(しかし凄い切れ味だ。大金を出して購入して正解だったな。)

3匹も切ったのに刃が曇る事もなく青白く輝いている。

この青白い光が魔力なのだろうか?


(今回は刀の切れ味と自分がどこまで戦えるかの確認だから、もう帰ってもいいが・・・まだいけそうだな。)


先ほどの戦闘で自信が付いた俺はもう少し進んでみる事にした。


◇◇◇


俺は迷宮をどんどん進んで行く。

基本的に一本道だが、ウネウネと曲がりくねっており方向感覚と距離を誤認させるよう作られていた。

普通なら警戒して引き返したかもしれないが、地図があるおかげで恐れることなく進むことが出来た。

ある程度進むとまた広間があり、そこに同じ強さのコボルトが配置されていた。

同じ要領で奇襲をすると、先ほどより難なく撃破出来た。

その後もその繰り返しで中間ぐらいまで来るとまた広間があった。

通路から確認するとまた3匹のコボルトが徘徊していた。

俺は今までと違う雰囲気を感じて、能力鑑定で確認をする。


(今までと違い「レベル3のコボルト」が3匹だ。しかも全員剣と盾を持ち胸当てを装備している。)


見た目ではレベルの違いはわからないが、今までより武器を操る技術や連携などが優れている可能性がある。

さらに防具を装備していると奇襲の一撃目を耐えられる可能性がある。

下手したら3匹に囲まれてタコ殴りだ。

今装備している刀なら胸当てや盾ごと切って倒せそうな気がしたが、ゲームでも「まだいける!」と思っていると悪い結果になる事が多い。

余裕があるうちに帰るべきだろう。


(名残惜しいがここまでだな。)

俺はコボルトの動向を確認しながら、出来るだけ音を立てないように退却しようとした。


「ガァン!」

俺は後頭部に衝撃を受け、気付いた時には広間の方にうつ伏せに倒れていた。

そのまま意識を失いそうだったが、頭の中で誰かの声が聞こえた。


《すぐ起きて体勢を立て直せ。痛いや情けないなど言っている間に死ぬぞ》


その声で俺はなんとか意識を繋ぎ止め、腕の力で無理やり右へ飛び体を起こした。

そして通路からの追撃に警戒して、後頭部の痛みを我慢して刀を抜き戦いの構えを取る。


「グガァアアアアアアア!」


(コボルトの雄たけび?しまった?)

急いでその方向を見るとコボルトが盾を構えて突進してきていた。

俺は体を低くして激突に備える。


「ゴガァン!」

金属同士がぶつかる音がして体に衝撃が来た。

片足が地面から浮くがなんとか耐える。

(よし!耐えた!)


俺は素早く向き直し、次の攻撃に備えて刀を構える。

だが、間抜けにも小柄なコボルトは突進を耐えられて仰向けにすっ転んでいた。

その間抜けが起き上がる前に、素早く胸を足で踏みつけて首を叩き切る。

「グゲッ!」


(まずは1匹!あと2匹!)


「ガァァアアアアアアア!」

また雄たけびを上げながら1匹突進してくる・・・がさっきと違って不意をつかれたわけではない。

俺は軽くかわして、別の1匹に猛然と切りかかる。


「グァアッ?」

完全に油断していたのか間抜けな声を出すが、容赦はしない。

俺は気合一閃、全体重をかけて刀を振り下ろす。


「キィエエエエエエエエエイ!」


刀はやすやすと胸当てを切り裂き、致命傷を与える。

完全な力技だが、この刀の切れ味なら可能だと判断したのは間違いではなかったようだ。

(2匹め!)


俺は最後の1匹を仕留めるべく、残ったコボルトに向き直す。


ガン!ガン!ガン!


コボルトは突然持っている盾を剣で叩き始めた。


(何の真似だ?)

何を狙っているかわからない行動のため、下手に動けない。

とはいえこのまま眺めているわけにもいかない。


(仕掛けて様子を見るしかないな。)

腹を決めて切りかかろうとして構えた途端、顔の横から何かが通り過ぎた。


「え?!」


気付いたらコボルトの喉に矢が刺さっていた。

俺は危険を感じ、瞬間的に適当に広間を走った。


ヒュン!


風を切る音がする。

その場に留まっていたらやられてたかもしれない。

俺は走りながら矢が飛んできた方向を確認する。


(やはり、俺が襲われた通路からの攻撃か!)

俺はとにかく動き回りながら、通路の敵の能力を鑑定する。


(何?このステータスは・・・。)

鑑定が成功し目の前にステータス画面が表示されたが、すぐに消えてしまった。

なぜ消えたかわからないが、とにかく動き回って反対側の通路に飛び込む。

その勢いのまま最初の角を曲がり、広間の方を確認する。


(はぁっ・・・はぁっ・・・さすがに・・・ここなら・・軌道を曲げない限り、当たらんだろう・・・。)


俺は呼吸を整えつつ、広間の方を監視し続けた。















































































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