第20話:初めての戦闘

「ハッ!」

意識が戻ると床に倒れていた。

焦って周りを確認すると扉の付いた小部屋だった。

窓も明かりもないが、不思議な事に薄暗い程度で十分周りが見える。


「転移技術があるのは凄いが、意識を失うのは怖いな。と・・・それよりも元の場所に戻れるのか確認しないと・・・。」


その場の流れに任せて転移してしまったが、帰れるかを確認していなかった。

小部屋内を確認すると転移装置・・銀色の円柱がすぐ近くにあった。


「よかった。しかし、これで本当に元の場所に帰れるのか?」


ゲームなら一度触れて帰れるかどうか確認するのだが、現実では転送されてからすぐに帰還すると変な奴だと思われるかもしれない。


「せっかく迷宮に来たんだ、少し探索してから試そう。」


俺はとりあえず、貰った地下1階と記載されている地図を確認する。

20×20の方眼紙を埋め尽くすほどに迷宮内部が記載されていたが、一部分だけぽっかりと抜けている。

この抜けた場所に地下2階への入口はあるのかもしれない。


「よし!いくか!」

俺は自分に気合を入れて小部屋から出た。

小部屋から外へ出ると3m幅ぐらいの通路になっており、暗くて目が慣れないと先がよく見えない。


「ランプを購入していてよかった。」

迷宮というと暗いものと想定していたので用意していたのが功を奏した。

スイッチ一つで、ランプの明かりが周りを照らし、何歩か先は見えるようになった。


地図を確認しながら通路を進んで行くと、先に光が見えた。

近づいていくと、それが広間の光だとわかったが、その場所に何かがいる事もわかった。

俺は素早くランプの明かりを消して、通路から広間の様子をうかがう。

そこには身長150cmぐらいで、犬顔の毛むくじゃらの亜人3匹が剣を振り回しながら、広間をグルグルと回っていた。


(これがモンスターか?)


初めての遭遇に心臓の鼓動が早くなる。

しかし相手はこちらの事には全く気付いておらず、同じ所を徘徊しているだけだ。

俺は落ち着いて能力鑑定をしてみると、「レベル1コボルト」2匹と「レベル2コボルト」1匹だった。


(ランクF迷宮だけあってレベルは低めだし、こちらにはまるで気付いていない。あいつらなら俺でもやれるか?)


実践は初めてなうえ、相手が3匹では結構厳しい可能性がある。

だが、奇襲でまず一番強い奴をやれれば何とかなるはずだ。

しかし、それにはためらわない覚悟が必要だ。


(あいつらは魔石で作られたモンスター、生物ではない。俺はやれる!)


自分を鼓舞して、レベル2のコボルトに狙いを定める。


(いまだ!)


俺は一気に通路から飛び出し突進する。


「グガッ?!」

気付いてこちらを向くが、棒立ちの姿が木偶人形と重なった。

俺は打ち込みをしたイメージそのままに奇声を上げて袈裟切りにする。


「キェェエエエエエエエエイ!」

木偶人形と違って、あっさりと刃が通り左肩から右腰骨まで切り裂く。

相手は血を噴き出すこともなく、仰向けに倒れた。

余りにもあっけなかったので、少し驚いて動きが止まった。


(こんな簡単に刃が通る?しかも血が全くでない?)


「グガァァアアアアア!」

そんな思考を中断するほどの雄たけびを上げて、剣を振り上げているコボルトが視界に映る。

だが、そのまま威嚇するだけで何もしようとしない。


(おとりか?)


警戒してもう一匹を見ると、何もせず俺と威嚇しているコボルトを交互に見るだけでただ立ちつくしていた。


(連携も何もないみたいだな。それなら!)


俺は立ち尽くしているコボルトへの間合いを一気に詰めて、とにかく攻撃が当たるように横薙ぎに刀を振るった。


「グギャ?!」

コボルトは攻撃にまったく対応できずに、攻撃がクリーンヒットして首が飛んだ。

骨もなんのそのの凄まじい切れ味に俺も驚く。


(こ・・・こいつは、強力すぎる。)


とにかく後一匹に向き直ると、まだ威嚇していた。

だが先ほどと違って、剣を振り回しながら少しづつ後ろへ下がっている。


(こいつ、逃げる気か?それとも仲間を呼ぶつもりか?)


逃がして仲間を呼ばれてもやっかいだし、時間をかけると騒ぎを聞きつけた仲間が助けに来る可能性もある。

素早く仕留めるのが上策だが、先ほどまでの奇襲と違って警戒している相手は難しい。


(とにかくこちらから仕掛けるしかない!)


「キィェェェェエエエエエエエイ!」

俺はまた奇声を上げながら相手への間合いを詰める・・・素振りを見せた。


すると奴は声に反応して、反射的に剣を振り回し体勢を崩す。

「ガァッ?!」


俺は冷静に刀を叩き込み仕留める事に成功した。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る