第15話:武器

「まず適正を見るのでついてこい・・・いや来てください。」


店員のグルスさんはそう言って、店の奥の部屋へと入っていった。

俺も急いで追いかけて部屋に入る。

どうも丁寧語も気遣いも苦手なようだ。

入った部屋には色々な武器が置いてあり、奥の広い空間には木偶人形が等間隔に配置されており、まるで訓練場のようだった。

グルスさんは無言で適当な剣を選んで渡してきた。


「えーと、この剣で俺は何をしたらいいんですか?」

「打ち込んでみろ・・・いやください。」

「丁寧語はもういいですよ。グルスさんは元冒険者ですよね?俺は後輩なので気遣いは無用ですよ。」

「俺が元冒険者だとなぜわかった?」

「その体格と雰囲気で相当レベルが高い戦士だったという事はわかります。なら冒険者かな・・・と思いまして。」

「ああ、10年前にな。じゃあ木偶人形に打ち込んでみろ。」


(あまり元冒険者の事について聞かれたくないのかな?これだけレベルが高いと自慢しそうなものだが・・・。)


彼はもう話す気がないようで、早く打ち込めとせかしてくる。

しかたないので、俺は渡された剣を持って木偶人形と向き合うが、剣を振る体験などしたことがない。

とりあえず適当に軽く打ち込んでみるが、木偶人形に簡単にはじき返される。


(そりゃそうか・・・いくら体が強くても一度も剣を握ったことがない人間が上手くいくはずがない。)

俺は彼の反応を見るために振り返ると、彼は腕組して怖い顔で立っていた。


「なんで打ち込みをやめる?俺がやめろというまでやれ。」

「いや、武器の選別のためですからもういいのでは?」

「その選別の為だ・・・とにかく打ち込め。」


なんかよくわからんが凄い圧力だ。


「わかりました。」


(とにかく頑張ってみるか。)


◇◇◇


どれくらい時間が経ったのだろう・・・俺はずっと木偶人形相手に打ち込んでいた。

汗は滝のように流れ、剣を握っている手は痛くてたまらない。


「おい、もうやめた方がいいんじゃないか?」

「いえ、大丈夫です。もう少しやればもっと鋭く切り込めます。」


はじめは言われたから仕方なくしていたのに、今は俺自身が納得するまで打ち込みをやめる気になれない。

おそらくだが、この体が前のように剣を振れるのを望んでいるのだろう。

それとも、若い体と思考に引っ張られてむきになっているのかも知れない。


(このまま闇雲に打ち込んでいても、理想通りにはならない。ちゃんとイメージして打ち込まないと。)


俺は少し落ち着いて、木偶人形を袈裟切りするイメージをする。

そして体が望むままに剣を構えて、相手の左肩から右腰骨に振り下ろす。


「キェェェエエエエエエエエエイ!」

俺は奇声を上げて、切りかかる!

初めてイメージ通りに木偶人形に剣が吸い込まれていく!

そしてそのまま切り裂いて・・・とはならなかった。

食い込んだだけで剣が止まり、握力がなくなった手が滑ってそのまま顔面を剣のグリップで強打した。


(いてぇえええええ!痛すぎる!)

俺は鼻血を出しながらみっともなく地面を転がる。

そのかいあってか(?)なんとか痛みが引いてきた。


「おいおい大丈夫か?これでも鼻に詰めとけ。」

「すみません・・・情けない姿を見せてしまって・・・。」

「最後の打ち込みは良かった。木偶人形に刃のない剣が食い込むなどなかなか無い。だが、実践ではああなった場合はすぐ起きて体勢を立て直せ。痛いや情けないなど言っている間に死ぬぞ。」

「たしかにそうですね。ありがとうございます。」


すると彼は驚いた顔をして、

「お前は随分と素直な奴だな。俺のようなロートルの忠告を真面目に聞くとは・・・。」

「いえ、事実ですから・・・それより俺に合った武器わかりましたか?」

「ああ、これなんてどうだ?」


するとグルスさんはすでに握っていた武器を手渡してきた。

それは使ったことはないが、目にした事は絶対ある武器・・・日本刀だった。

鞘から抜いて軽く振ってみると、まるでずっと使っていたみたいにしっくりくる。


「打ち込みを見ていてわかったが、お前は侍だろ?だから、刀が良いと思ってな。」

「これは良い刀に感じますが、かなりの業物なんですか?」

「よく聞いてくれた!これこそが500年前魔王を倒した、勇者ヤマトが使っていた業物!神刀正宗!」

「えっ!500年前の勇者の武器が?」

「・・・のレプリカだ。姿を真似ただけの試作品だよ。」


(ですよねー、こんなデパートみたいなところに伝説の武器とかあるわけないよね。というか勇者ヤマトってこの国を作った事は知ってたけど、500年前

魔王倒したんだ・・・新情報を得たな。)


「勇者ヤマトの刀は魔力を力に変える事で凄まじい破壊力を有していたらしい。それを目指して作ったレプリカ品だが、残念ながら魔力で切れ味が増す程度の力しかない。」

「使った感じ、武器として優秀そうですが不良品ってことですか?」

「いや、高品質の業物だが、刀は扱いが難しく敬遠される。さらにそれなりに高額だから誰も買い手がない。」

「いくらですか?」

「金貨20枚だ。実際それぐらいの価値はあると思うが、レプリカにそこまでの金を出す奴はいない。」


金貨20枚・・・約200万か。

確かに高額だが今の俺なら払える。


(冷静に考えろ、200万はかなりの大金だぞ。冒険者なんて戦ったこともない俺ができるはずがない・・・無職になった時のために貯めておくのが正解だろ。)


俺は気持ちを落ち着けた。

これで大丈夫だ。

そして俺は迷わず言った。


「購入します!」

























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