第13話:商業区

「今何時だ?」

どうも俺は疲れて寝てしまったらしい。

窓がない部屋のため、今が夜なのか朝なのかもわからない。

ドアを開けると、部屋に光りが入ってくる。

小鳥の鳴き声や自分の体感を信じるなら、今はおそらく朝だろう。


「時計もカレンダーもないから、今何時で今何日なのかもわからないな。それに服もボロボロの服しかない上に何か匂うな・・・。」

せっかく異世界ファンタジーの世界に来たのに必要なのが、生活品なのが悲しい。


「今日はショッピングだな。」


◇◇◇


俺は商業区に来ていた。

色んな店が雑多に並んでいるため、どの店に入ればいいのか迷う。

適当に店外の商品を見てみるが値段が表示されていないので、中に入って確認していたら時間が掛かってしかたない。


(全部回っていたら一日がすぐに終わってしまう。)


まずは紹介状をもらったオオクラ商会に行って見るのがいいのかもしれない。

この街で一番大きな商会と言っていたし、ある程度は信用できるだろう。

かなり大きな地区なので、探すのに時間が掛かるかと思ったが他の店とはまるで違う巨大な建物なのですぐに見つかった。


「これはデカイな。まるで総合デパートのようだ。」

5階建ての巨大な建物で大きな看板には「オオクラ商会」と書かれている。

間違いない事を確認して中に入ると、すぐに受付があり着物を模した制服を着た受付嬢が張り付いた笑顔で迎えてくれた。


「すいません、俺はセイシロウと言いますが・・・ブランさんから紹介状をもらっていまして・・・。」

「ブランさん?お預かりいたしますね。」


彼女はニコニコとしながら、近くにある人の背丈ぐらいある四角い物から何かを取り出し耳に当てた。


「主任、お客様からブランさん?の紹介状をお預かりしましたがどういたしましょうか?」


(この四角い箱って電話だったのか・・・でもここまで巨大という事はあまり技術レベルは高くないのかな?)

突然の文明の利器の登場で少し驚いたが、異世界の人間が作った国ならおかしくないのかもしれない。


「お客様、もうすぐ係の者が来ますのでそちらの椅子に座ってお待ちください。」

「ああ、はい。」

俺は近くの椅子に座り到着を待つことにした。


(受付の人はブランって名前に心当たりがなさそうだったな。あんまり有名じゃない人なのかな?)


待っていると奥の方から制服を着た男性が全速力で走ってきた。

彼は受付の女性に詰め寄ると、紹介状の封を素早く空けて確認していた。

その行動に受付の女性の張り付いた笑顔もはがれ、一心不乱に紹介状を見ている男性を睨みつけていた。


(ただならぬ雰囲気だな。制服を着てるからここの店員だろうけど・・・もしかして逃げた方が良いのか?)

どうしようかと考えていると、男性店員はこちらを見て近づいてきた。


「ブランのお客様とはつゆ知らず、大変失礼いたしました。私の名前はフェルと申します。ブランは別の用事がありまして、代わりになんなりとお申し付けください。」

「そ・・・そうですか・・。」


張り付いた笑顔は不気味だが、悪意はなさそうだ。

さっきの受付と同じように営業スマイルというものなんだろう。


「とりあえず服がボロボロなので代わりが欲しいなと・・・。」

「なるほど、なるほど。では案内いたしますので・・・。」


その後、デパート内を回ったが何が良いかわからず、結局適当に一式揃えてもらった。


「これだけあれば当分は大丈夫だと思います。」


たしかに要望通りの物をなんでも用意してくれたが、そのせいでかなりの量になってしまった。

お金はある方だが、結構請求されてしまうかもしれない。


「お値段は金貨3枚・・・のところを冒険者割引で金貨2枚になります。」

「え・・・金貨2枚?本当に?」

「高いと感じるかもしれませんが、実用的かつリーズナブルの物でも、それぐらいの値段にはなりますので・・・。」


今まではニコニコしていた彼も少し渋い顔になったが、俺は逆の事に困惑していた。

値段が安すぎるのだ。


(おかしいぞ。俺のボロイ服一式が銀貨50枚という事は、金貨2枚では4着しか購入できない。それなのに新品の服一式が6着と靴、そして生活用品なども含めて金貨2枚・・・いや割引しているから本来は金貨3枚か・・・それでも安い。)


おかしいと思った俺は彼に聞いてみた。


「少し聞きたいのですが、今着ている服の値段はどれくらいだと思います?変に裏を読まずに答えてください。」

彼はなぜそんな事を聞くのか?と言う顔をしていたが、

「そうですね・・・新品なら銀貨5枚ぐらいでしょうか?」

「今の状態なら?」

「気分を悪くしないで欲しいのですが、いくら古着でもそこまで傷んで汚れているなら売り物になりませんね。ブランド品でもないようですし・・・。」


どうも俺は寺院の相談員に騙されたようだ。

(ゲームでも寺院はぼったくりなイメージだったが、売り物にもならない物を高額で売りつけるなんて詐欺じゃないか。)


もちろん何もわからず買った俺が馬鹿なんだが、怒りが込み上げてきた。


「お客様どうかされましたか?」

「いや、何でもないです。値段は問題ないので、買わせてもらいますよ。」

「ありがとうございます。」

「それと他にも見たいものがあるので案内と説明お願いしてもよろしいですか?」


(確かに腹立たしいが、今はとにかくこの世界のお金の価値を確認しないといけないな。)




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