第4話:失言
「どうしたんですか?」
急に暗い顔になった女神様に俺は動揺した。
「やっぱり過保護でしょうか?もっと弱いアイテムを渡すべきでしょうか?」
(しまった。余計な事を言ってしまった。)
「だから今まで送り出した勇者が結果を出していないのでしょうか?」
「俺が最初じゃなかったんですか?」
「ええ、何人も、何人も、何人も・・・何人も!送り出しているのに!」
急に激昂しだして叫び始める女神はまるで鬼のような形相で地団駄を踏みだした。
先ほどまでとは別人のようになっており、怒らすと危ない人間のそれだった。
こういう時の対処法は下手に話しかけずに、黙って怒りがおさまるのを待つのが一番という事は知っていた。
「・・・。」
女神様は一定時間怒りを地面に叩きつけると、急激に静かになった。
乱れた髪も鬼のような形相もおさまり、最初の静かで美しい女神の姿に戻った。
「申し訳ありません。みっともない所をお見せしました。」
「あ、いえ大丈夫ですよ。」
「えーと、チートアイテムの選択でしたよね。」
「はい、そうです。」
すると女神様は虚空から二つのアイテムを出してきた。
「この不思議な棒と不思議な袋どちらにしますか?」
言っている意味が理解できなかった。
「すみません、説明を受けた3つのアイテムから選択するのでは?それとも追加で貰えるのですか?」
「いえ、貴方の助言を受けて気付きました。私は過保護すぎて勇者の成長を妨げていたのです。ですから、アイテムを差し上げるのはこの2つのうち1つにします。」
どうも俺がよけいな事を言ったせいで、貰えるアイテムがしょぼくなってしまったらしい。
「いえいえ、全然過保護じゃないですから、前のアイテムから選ばしてくれませんか?」
「過保護です。」
「ああ、いやそんな事は・・・。」
「過保護です。」
「その、いや・・・。」
「過保護・・・過保護、過保護、過保護、過保護!・・・ですよ。」
(ダメだ。怖すぎる。)
顔は笑顔だがあきらかにヤバい雰囲気を感じて、諦める事にした。
「わかりました。ではアイテム説明お願いします。」
「そうですね~「不思議な棒」は不思議な事が起こります。だいたい良い事が起きます。「不思議な袋」にはお金が入ってます。金額はえ~と・・・忘れましたがたくさんです。どちらにしますか?」
非常に説明がざっくりしていて判断できないが、女神様の様子から見てそれ以上何も答える気がないようだ。
見たところ不思議な棒は60cmぐらいの木の棒で、武器として使えるのかも知れないが、あまり期待できそうにない。不思議な事が起きるらしいので、以外に凄いアイテムかもしれない。
不思議な袋は顔より大きく、たしかにたくさんお金が入ってそうだ。
「では不思議な袋でお願いします。」
「わかりました。ではこの不思議な袋を収納異次元袋の中に入れておきますね。」
(やはり世の中お金だ。先立つものがあれば有利に進められる。俺の判断は間違っていないはずだ。)
「では新しい世界に旅立つ準備はいいですか?」
「はい。お願いします。」
女神様は俺の返事に深くうなずいて、涙を浮かべた。
「倉木未来さん、貴方は今までの人生を後悔していると思いますが、それが今の汚れなき人格を形成している事は忘れないでください。そして、これからの新しい人生では、過去の後悔を生かして人を愛し、愛されるために努力してください。私もそうなれるよう願っております。」
俺はその言葉で目に涙が浮かんだ。
うさんくさい女神だと思っていたけど、やはり女神様だったんだなあと思った。
「ありがとうございます女神様。」
「いえ・・・うん・・・あれ?そういえば思い出しました!」
「どうしたんですか?」
すると女神様は照れながら俺に衝撃の真実を告げた。
「不思議な袋に入っているお金は50ゴールドでした!思い出せて良かった!」
「え?」
「ではいきますね、ドーン!」
俺はその言葉と共に雲の外へと吹き飛ばされ、そのまま地上へと落ちていった。
俺は気を失いそうな衝撃に耐えながら絶叫していた。
「たったの50ゴールドおおおおおお!世界を救う勇者への選別が・・・たったの50ゴールドおおおおお!おかしいだろおおおおおお!」
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