第13話 骸骨騒ぎ
シエルたちは再来月に行われる騎士団試験に向け、修行の日々を始めた。依頼をこなしながらの毎日の仕事に加え、普段の生活の中でも訓練を続けていた。シエルの日課は朝早く起き、走り込みと剣の素振りを行うことだったが、今まで以上にその回数を増やし、質を高めることに努めていた。依頼も率先して実戦的なものを選び、賊や魔物の討伐の依頼を積極的に行っていた。
リアンやユウリも同様に、お互いをライバルとして意識していたため、三人は毎日何かを競い合っていた。
「さて、今日の依頼はどこに行こうかな。」
掲示板を見ながらシエルは考えていた。
「おはよう。シエル、修行に精が出るな。」
「お、アヤメ。おはよう。これから依頼に行くのか?」
「まあ、そんなところだ。」
アヤメは荷物を肩に背負い、門の方へ歩いていった。
「どんな依頼に行くんだ?」
ふと、シエルは尋ねた。
「海賊の討伐だ。ブルーム王国騎士団から直々の依頼でな。隣の港町だ。 それじゃあ、迎えの馬車が来るから、シエルも依頼頑張れよ。」
アヤメはそう言って行ってしまった。
シエルは今日の依頼として、隣の港町アイズンで発生した魔物の討伐に向かうことに決めた。
「あ、シエルも今から依頼に行くの?」
アロエが声をかけてきた。
「うん、今から行くよ。一緒に来るか?」
「え、でも魔物の討伐依頼でしょう?私が力になれるかな。」
アロエは不安そうな声でつぶやいた。
「問題ないだろ。一人で行くより安心だ、よろしくな。」
シエルは笑顔で頷き、アロエとともに港町アイズン方面へ向けて馬車で出発した。
「今回はどんな魔物なの?」
アロエが尋ねる。
シエルは依頼状をじっくりと読み、答えた。
「どうやら街に現れて住人を怖がらせているようだ。しかも夜の間だけで、まだはっきりと正体が不明みたいだな。」
「何それ、怖いんだけど。」
アロエはむすっとした顔でシエルを睨んだ。
「とりあえず、街で情報収集だな。」
アロエとシエルは馬車に揺られながらうとうとしていたが、とうとう眠りに落ちてしまった。
「ほら、着いたぞ。起きてください。」
御者の老人の声に起こされ、シエルとアロエは意識を覚醒させた。
馬車から降りると、目の前には美しい港町が広がっていた。御者にお礼を支払うと、二人はすぐに街へと向かった。
依頼の詳細を聞くために町長の元へ急ぐ途中、港では人だかりができているのが目に入った。
興味を惹かれた二人は、その人だかりに向かった。
そこでは、ブルーム王国の国旗を掲げた船が出航するところだった。
「あら、王国騎士団の船のようね。あ、シエル、あそこ!」
アロエが船の上を指差した。
その視線の先には、騎士団の男たちの姿と共に、アヤメの姿が見えた。
「アヤメだ!同じ港町だったのか、これから出航なんだな。俺たちも先を急ごう。」
シエルは、王国騎士と共に仕事をしているアヤメを羨望の眼差しで見送り、自らの任務へと向かった。
「剣風団の皆様、よくお越しくださいました。私がこの街の町長です。この度は私共の依頼を引き受けてくださり、ありがとうございます。」
町長は二人を迎え入れ、礼を述べた。
「こちらこそ、依頼をいただきありがとうございます。私はアロエです。こちらはシエル。今回の討伐依頼の詳細をお伺いしたいのですが。」
アロエが前に出て、町長に尋ねる。
「今回の詳細なのですが、近頃この街はさまざまな問題を抱えていまして、まずは先ほど王国騎士団が向かいましたが、近海で海賊が暴れ回っているのです。それに加えて、付近の魔物も活性化しており、あなた方には街の自警団と協力して魔物討伐をお願いしたいのです。その魔物は近頃夜になると街を徘徊し始めるようです。」
町長は心配そうな表情で説明を続けた。
「それで、その魔物はどんな姿をしているんだ?」
シエルは興味を抱いて尋ねた。
「それが、見た目は骸骨のようなのです。まるで土の中からそのまま蘇ったかのように、何かを探し求めて彷徨い続けているのです。」
町長の言葉に、アロエは恐れを隠せず、少し腰を引けた。
「ひっ、骸骨……」
アロエの声は震えていた。
「それも、その骸骨は集団なんです……自警団のみんなで追い払おうとしても攻撃は通らず…しかし、骸骨たちも攻撃してくるわけではなく、ただ何かを目指して彷徨っているようで……」
今晩、シエルたちは自警団とともに骸骨たちの対応に向かうため、町長が用意してくれた宿でしばらく待つことになった。
「さてと、夜まで何をしようか。」
シエルはベッドに腰を下ろし、靴を脱いで横になった。
「何もする気がないじゃない!私はもう少しこの街を観光したいわ。」
アロエの言葉に、シエルは天井を眺めながら、何かすべきことを考え込む。
「よし、情報収集ついでに街を見て回るか!」
シエルは、アロエと共に二人は街を巡りながら夜が訪れるのを待つことにした。
「ね、シエル、ちょっとあそこに行きたい!」
アロエは出店が立ち並ぶ方を指差し、シエルの腕を引っ張って連れて行った。出店では新鮮な魚料理や貝殻で作ったアクセサリー、漁に使う道具などが並んでいたが、アロエが目を引いたのは海藻類の屋台だった。
薬草学を学んでいる彼女は、海藻に対しても興味津々だった。
「ちょっと、もう少し見ていきましょうよ!
昆布にワカメ、青さやひじき!すごく健康的な海藻ばかり!今晩の食事は海藻ね。ふふ。」
アロエは新鮮な海藻を次々と購入し始めた。シエルはそんなアロエを微笑ましく見つめながら、ふと海の方を眺め、今晩の骸骨討伐に向けて考えていた。
何人かの人に骸骨騒ぎのことを聞いて回ったが、役に立つような情報は得られなかった。
「祟りじゃよ…」
突然、背後からひそひそと声が聞こえ、シエルは思わず飛び上がった。
「う、びっくりするなあ、もう!」
シエルは心臓を抑えつつ振り返る。そこには、小柄な老婆が立っていた。
「こんにちは。…祟りって?」
老婆は何やら寂しそうな顔を浮かべ、近づいてきた。
「少し長い話じゃが、聞いていくかい?この街の昔話があるんじゃよ。」
「なになに?聞かせてください!」
後ろからアロエが現れ、軽く老婆に向けお辞儀をした。
老婆は頷きながら、近くのベンチに腰を下ろした。アロエも興味深そうに買ったばかりの海藻を胸に抱えつつ、隣に座る。
「昔、わしがまだ小娘だった頃、ある海賊たちはこの港を拠点にし、あちこちを冒険していてな。彼らのおかげでこの街も発展していったのじゃ。海賊でも悪い奴らじゃなかったんじゃよ。」
老婆の声はどこか懐かしげで、どことなく物悲しさが漂っていた。
「しかしな…ある日、その海賊たちが航海から戻ってきた時、生き残ったのはたった三人だけだったそうじゃ。彼らは死んだ多くの仲間たちをこの街の近くに埋め、その後、残された何かに取り憑かれたように何か財宝を求めて彷徨い続けることになったんじゃよ…。」
「それってどんな宝なんでしょうね?」
アロエがシエルを見つめながらつぶやいた。シエルも何かを感じ、老婆に尋ねる。
「ねえ、おばあちゃん。その彷徨ってる海賊たちって、今この街に現れる骸骨と何か関係があるんじゃないのか?」
老婆は静かに首を横に振った。
「それは誰にもわからん。ただ、祟りを受けた者は、いつか自らの運命に引き寄せられるものじゃ…」
その言葉が妙に胸に引っかかり、シエルは眉をひそめた。
やがて日が沈み始め、夕焼けが港町を紅く染め上げていく。老婆の言葉が重く心に残りながらも、二人は一度宿に戻り、夜に備えてしばしの休息を取ることにした。
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