第7話 纏わりつく命
「シエル、いけるか?冷静に、落ち着いて戦うんだ。後ろの山賊は任せたぞ。」
「わかった。」
シエルは剣を抜き、周囲を一瞥した。目の前にいる山賊たち一人一人の動きを冷静に見極める。彼らは次々と襲いかかってくるが、シェルはその攻撃を紙一重で避け続けた。ふとアヤメの方に目をやると、彼女は目にも止まらぬ速さで、山賊たちを次々と斬り伏せていく。無駄のない動きに、シエルは心底驚嘆していた。
「どうした、坊主!避けるだけか?」
シェルを睨みつける一人の大柄な山賊が、斧を乱暴に振り回しながら挑発する。
「いつまでも逃げられると思うなよ!」
その言葉に、他の山賊たちもシエルを追い詰めようと動きを速めてきた。
シェルは決意を固め、相手の動きに集中した。大振りの斧が振り下ろされた瞬間、シェルはわずかな隙を見逃さず、一気に剣を振るった。その鋭い一関は、山賊の身体を深々と切り裂き、男は数歩もがいたのち、地面に崩れ落ち、動かなくなった。
その瞬間、シェルの全身が凍りついた。
自分の剣がその人の命を奪った。
その事実が脳裏を支配し、まるで時が止まったかのようだった。数秒前まで生きていた人間の命、その未来を自分が断ち切ったのだ。初めての感覚に、彼の手は震え、動けなくなってしまう。
次の瞬間、
「シエル!!」
アヤメの鋭い叫び声が響いた。シエルが我に返り振り向くと、もう一人の山賊が、刃を振り上げ、彼の背中に襲いかかろうとしていた。その一撃を避けるにはもう時間がない。
シエルは反射的に目を閉じ、死を覚悟した。
だが、山賊の刃が彼に届くことはなかった。代わりに、その山賊は誰かに斬られたように膝から崩れ落ちた。シエルは驚き目を見開いた。背後から自分を襲った男の首には深い傷があり、命はすでに尽きていた。
「よかった.....間に合った。」
アヤメがいつの間にかシエルの近くに立っていた。冷静な表情で、すでにまた次の敵に視線を向けている。
「シエル、戦いはまだ終わってないぞ。
動け!」
その言葉に、シエルは再び剣を握り直し、気持ちを引き締めた。戦場の現実が再び、彼の中で息づき始めた。
「おい!シエル、気を抜くなよ!!」
鋭い声が飛び、振り返るとそこには斧を構えたリアンの姿があった。
「リアン!」
思わず名を呼んだシエルは、幼馴染の普段とはまるで違う、鬼気迫る表情に少し驚く。
しかし、その一瞬で気を取り直し、次の山賊に目を向けた。
「シエル!油断するな!死にたいのか!!」
リアンが叫ぶ。
「うるせぇ!言われなくても分かってる!」
シエルは怒鳴り返しながらも、背中合わせになったリアンと息の合った動きで次々と敵を倒していった。二人の連携は、かつて訓練で共に磨いたものであり、今ここでその成果が発揮されている。
ふと、シエルの視線はアヤメに向かった。彼女は、あまりの速さで次々と山賊たちを斬り伏せ、まるで風のように戦場を駆けていた。その冷静さと圧倒的な技量に、シエルは再び圧倒される。
「なあ、リアン、ユウリはどうした?」
ユウリの姿が見えないことに気づいたシエルは、リアンに尋ねた。
「ああ、あいつなら心配いらねえよ。何人かの村人を守りながら、山賊どもをねじ伏せてるぜ。お前が気にするまでもねえさ。」
「そうか......なら俺たちも負けてられないな!」
シエルとリアンは互いに目配せし、再び気合を入れて山賊たちに挑んだ。二人は連携を取り、次々と山賊を切り伏せていく。怒号や金属音が響く中、彼らの動きはますます冴えていた。
「よし、あとは貴様だけだ!」
リアンが叫び、最後の一人を指差した。
その男は、山賊の頭領だった。男は傷つき、息を荒げながらも、にやりと笑みを浮かべた。
「げえ、やるじゃねえか、お前ら。だが、これでどうだ!」
突然、山賊の頭領は家屋の陰から小さな少女を引きずり出し、その首にナイフを当てた。少女の震える姿に、シエルたちは一瞬で動きを止めた。
「きゃああ、助けて.....!」
少女の悲鳴が辺りに響き、全員の心臓を締め付けた。
「さて、このガキの命が惜しけりゃ、武器を捨てな。おっと、下手に動くなよ......こいつの首が飛ぶぞ。」
頭領は少女を左腕でしっかりと抱え込みながら、じりじりと後退していった。
すると突然、物陰からユウリが音もなく飛び出し、頭領の背後に忍び寄った。素早い一撃で、頭領の右手に握られていた斧を弾き落とし、次の瞬間には彼の背中を斬り裂いていた。
「ぐっ、テメェ......くそ......」山賊の頭領はき声をあげ、その場に崩れ落ち、やがて動かなくなった。少女はユウリの腕をしっかりと握りしめ、震えながらも離れなかった。
「ユウリ、助かった。感謝する。さてこれで、この集落を荒らしていた山賊は全滅したはずだ。あとは近隣の駐屯地にいる騎士団に報告して、まだ息のある奴らの身柄を引き渡せば終わりだな。」
アヤメは冷静に状況を確認しながらそう告げた。シエルたち三人も、生き残った数人の山賊を村の中央に集めて拘束した。
「さて、あとは.....」
アヤメは村を離れ、何かを探しに行った。残されたシエルたちは、戦闘で命を落とした山賊たちの遺体を一つ一つ丁寧に並べていた。シエルは、自分が奪った命の重みを感じ、胸が締め付けられる思いだった。
しばらくすると、アヤメが馬車を引いて戻ってきた。荷台には、無残にも殺された村人たちの遺体が並んでいた。アヤメは無言で、ひとりひとりの遺体をそっと地面に下ろし、埋葬の準備を始めた。
その時、先ほど救われた少女が突然駆け出し、並べられた遺体の一つに向かって飛び込んだ。彼女はその遺体が誰かを察していた。泣き叫びながら、少女は父親と思われる遺体にしがみついた。声にならない叫びが村の静寂を裂くように響き、悲しみ、寂しさ、そして悔しさが、少女の体から溢れ出ていた。
シエルたちは、その姿を見つめながら、自分たちの無力さを痛感していた。どれほど戦い、強くなっても、失われた命は二度と戻らない。あまりにも厳しい現実が、シエルの胸に重くのしかかった。
世界は、残酷だ。
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