#心が少女の顔のままに、さいごを

STORY TELLER 月巳(〜202

#心が少女の顔のままに、さいごを

#心が少女の顔のままに、さいごを


【storyteller by Tukimi©︎】

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決まってリクエストを入れておけば、同じじ間に流れてくる、

ユアマイムーンライト、と言う曲に。

おばあはいつも歌い出す。


口がモコモコと、泡がでてしまうから看護師さんが涎を拭きながら、いざと言う時にと吸引機をそばにしながら歌に耳を傾ける。


そして、私もおばあの隣で歌うと目を細めて手を差し出す彼女、その手を握る。


この時だけは、嬉しいとばかりの笑顔が、私は。


いつまでも見て居たいから。





おばあは、綺麗な英語を話す人で。

それは、時に外から来た人の通訳にと呼ばれてはスルスル魔法の呪文のように口から滞りなく流れて。


よく、自分は教えてとせがんだのだが、これだけは決して教えてはくれなかった。



歴史の授業でおばあの時代を知る頃には、世の中は英語の歌で溢れ、流行りのアメリカポップスに。


汚い言い回しだって言う一言に、尋ね返したらうっかり言ってしまったと言うだけで。

この時も頑なに口を開いてくれなかったっけ。


後から一人、尋ねられない空気から調べた歌詞の文句は。

なるほど人種を揶揄した物で。なるほどねーとは思い。

その人の歌への興味は冷めて。

逆にかけない様にしたが。



あの顔の歪めた吐き出す言い方は。

やっぱり何か英語に嫌な思い出があるのを匂わせただけ。

何度、幾つになっても、記憶がもたなくなってからも、これは、まだわからないまま。



英語なんて、わからなくても構わないさと。

繰り返し知りたがる私を受け流す、おばあの若い頃は。


娘である母すらも、あまり知らないくらいで。

一体そこに何があったのか。




一人暮らし気ままにといたおばあだったが。




それは鍵がない話から、

出たら自宅に帰るそれが、出来なくなって。


それから、ポツポツと一人のおばあから物がない、帰れない、など連絡が入り。



家での一人暮らしが難しくなった。


それは運良くと言うべきか流行病で移動規制が入った三年間のその次の年。

しばらく家族でお正月に行かない間に何が起きたのかわからないが。


母と父とが話をして


しばらくして。


地域のグループ老人ホームへ住み替えた。



そこは賑やかで。四六時中明るくて、音楽が流れていた。


おばあは多くのお友達をつくり、習ったと言うフラダンスを踊ってみたり歌うなり。


その頃が一番。

私たちはよく話した。

物を忘れることが増えたからか、最近の話はいつもしなくて、よう覚えとるけんと昔の話をしていた、おばあは時々。


女学生時代の友人、シナコさんと私を間違えでいるのかいないのか、そう呼んだり、かと言うと思い出した様に私の名を呼んで、そうよね!と、合いの手を求めてきたり。


そして。

好きだったらしい、誰か日本人らしからなぬ名前を。

一度だけ、聞き取れない声で囁いたが。

これも、聞き返せば無かったように話が変わり。


謎は深まるなぁと、思っていた。

ただ、きっと好きな人のために笑顔を勉強したのかもしれないと。

いつかは、聴きたいと。



倒れて入院し、手術は彼女を歩けなくし、物忘れを酷くした。

表情は、一秒前がわからなくていつも恐れているかのように、今どうしたらいいを繰り返し。


ふと入室前の戸の外で、看護師さんが。

『何度も言いますが、今は寝てて下さい絶対安静になんです』



おばあが、動いてはいけない状態、足腰立たないし危ないのに。

ベッドからみずから落ちて、怪我を増やし、入院期間を延長し。


そこからは転げ落ちる様に熱を出して肺炎を起こし、認知症の悪化もあり。



今。寝たきりの。

目をぼんやりさせた彼女、だけど。



「ほら、おばあ、あの歌の時間だよ」


入院者のリクエストボックスに入れる紙に何度も書いたから知った、ユアマイムーンライト、

籐の椅子に座って女学生みたいに笑った頃は

体をゆすり、あの頃こっそり歌ったけど今は平和だから思う存分歌えるわと。



笑う彼女の、あの笑顔のひとかけらくらいの笑みは。



とうとう。

その笑みのまま。

数秒。アレ、と。


看護師さんが手をかざす。

声を掛けて、揺する。

おばあは入院着の浴衣がはだけるまま揺すられるまま。


先生ー!先生!と

慌てて走り去る看護師さんの音を背にしながら。

いつもの様に握られた手は少し高いおばあな人の体温で。


曲とともに閉じた目がまた、開くのではと。


握るままにすぎた。

どいて下さいと。看護師と医師が私を引き離したのも、なされるままにおばあのそばをどいて。


外は蘇生をと人が何人も喧々轟々なのに。


現実離れしてしまって外の音が遠く他人事で。何もかも、夢みたいに掴めなくて。



目を閉じたら。

空が青い老人ホームの庭で、笑う、おばあが。


ノス ベモス!

何かわからない言葉で言うのを聴いた、これこそ幻聴だったかも、しれない。


看護師さんが、大丈夫ですかと、

これまた遠くで、私の名前を呼ぶその背後で。



-お仕舞い-

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(後書き)

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味を変え、と言う訳ではありませんが。

今回、口当たり優しい話を。



思い出の歌を

同じ思い出を持つ人と懐かしむのも良いけれど。


食事の最中や、ドライブ中、日常が一瞬昔に戻り滔々と話す人の話を伺うのも、


それが人生の先輩方だとしたらなお。

聴くのが楽しい。

と、介護の仕事をしていた頃毎日話を聴いていた時間が。


今の私の確かに書く話の深さを広げてくれています。なんせ生きた人の集団には様々なリアリティさが。



なんせ、作り話

ですから。できるだけリアルには(読み手様に話の世界に入っていただける様に自然かつ違和感はへらしたく)とはしていますが。


舞台設定など。


作り話、

フィクションのため、

医療行為名や内容、老人ホーム等世に存在するものと同じ単語であっても、


全ては私のこのもの語りにおける作り物語に都合の良い話になってますので、

あくまで現実とは違います。

あしからず。


また、いい曲だと、文内に出しました曲名。

ムーンライトは私のこのサイトの名前から適当にいれましたが、

ユアマイサンシャイン

この曲との出会いタイミングに感謝。

聴いた時共にいた人と楽しく話をしました。

と言う訳で

その時の


一つの曲が開いた記憶が広がりゆく、

会話の語る楽しさを種にかいてみた、が私裏事情でございましたが。


楽しく思い出を語る人の話を聴く、時間を

持ちたいと思えたなら、私の作戦勝ち!

お気に召してくださいましたら、また、よろしくお願いします✨✨✨



ちなみに。

変なカタカナ?は。


スペイン語の、また会いましょうを調べて、

最後に入れてみました。


¡Nos vemos!を、読むとあーゆうカタカナ表記になるらしい(あくまで月見さんネット検索調べ)


合っていたらいいけど無かったら無かったで


主人公がゆめうつつに、聴いた聞き間違いというかんじにしましょうかね。

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