第14話

朝の支度を始める。

昨日見た夢が頭から離れないまま、制服に袖を通しながらふと思い出すのは、佐藤さんとの映画の約束だ。


「映画か…」


と、小さく呟いてみる。

心の中ではずっとワクワクしているのに、どこか落ち着かない気分だ。佐藤さんが映画に誘ってくれた時、正直驚いた。彼女がそんな風に自分から誘うなんて思いも寄らなかったからだ。それに、俺が夢中になっている佐藤さんと一緒に映画を見に行くなんて、想像するだけで心臓がバクバクする。


「次の日曜日か…早く来ないかな」と、顔を洗いながら自然と口に出してしまう。


朝食の準備に取り掛かる。今日はシンプルにトーストとサラダ、そして目玉焼きを作ることにした。手際よくトーストを焼きながら、映画の内容やどんな会話をすればいいのか、頭の中であれこれ考えていた。佐藤さんはどんな映画が好きなんだろう?俺もできるだけ楽しんでもらいたいし、普段はどんな映画を観るのか、さりげなく聞いておこうかな。


映画の後、どこかで食事をするのか、それとも解散するのか…。その時の流れに任せるしかないけれど、少しでも楽しい時間を過ごせたらと思う。


そんなことを考えていると、ふいにスマホが鳴る。画面を見ると、佐藤さんからのメッセージだった。


「おはよう!映画のチケット、予約しといたから。楽しみだね!」と書かれている。


「おお、もうチケットを取ってくれたんだ…さすがだな」と、彼女の行動の早さに感心しつつ、俺もすぐに返信する。


「ありがとう!日曜日、楽しみにしてる!」


メッセージを送ると、少しほっとした。こうやってやりとりをするのも、彼女との距離が縮まったようで嬉しい。文化祭を通じて、確かに俺たちの関係は少しずつ変わってきた気がする。


朝食を済ませ、弁当を準備する。今日のおかずは、冷凍しておいた鶏の照り焼きをメインにして、サラダと卵焼きを添えることにした。手際よく詰めながら、心はもうすでに次の日曜日のことを考えている。映画が終わった後、どんな話をするんだろう?彼女は映画の感想を話してくれるだろうか?それとも、どこかカフェにでも行って、まったりする時間を過ごせるだろうか?


「今日は、何の映画を観るんだっけ?」とふと考えながら、スマホでチケットの情報を確認する。どうやら、アクション映画らしい。佐藤さんがアクション映画を選ぶなんて少し意外だったが、それもまた彼女の新しい一面を知る機会かもしれない。


「これを機に、もっと彼女のことを知れたらいいな…」そう思いながら、俺は準備を終え、自転車で学校へ向かうことにした。


日曜日が待ち遠しくて、今週はきっと長く感じるだろう。だが、それも彼女との特別な時間を過ごすための大切な期間だ。

学校へ向かう途中、風が頬を撫でる。

自転車をこぎながら、頭の中は完全に佐藤さんとの映画のことばかりだった。

どうやって会話を始めようか、映画のどこに注目すれば良いのか――そんなことを考えながら進んでいると、気づけば学校に到着していた。


自転車を駐輪場に停め、教室に向かう。

佐藤さんも既に席に着いていて、軽く俺に挨拶をしてくれた。

いつも通りの笑顔に一瞬心臓が跳ねるが、すぐに落ち着くように深呼吸をした。


「おはよう」


と短く返事をするが、内心はかなり浮ついていた。

文化祭をきっかけに、俺たちの距離は確かに縮まった。

だけど、今度は二人きりで映画を観に行くということで、もう一歩踏み出すタイミングなのかもしれない。

そんな期待と不安が入り混じる感覚に、自然と顔がほころぶ。

授業が始まり、机に向かっても、集中するのは難しかった。

授業内容をノートに書き留めながらも、ふとした瞬間に佐藤さんとの映画のシーンが頭をよぎる。

もしかしたら彼女も、少しは映画のことを考えているのかもしれない、とちらっと佐藤さんを見るが、彼女は真剣に授業に集中していた。


昼休みになると、クラスメイトが文化祭の話題で盛り上がっているのが耳に入る。

みんなが自分たちのクラスの成果や次の行事について話す中、俺は何となく一人でお弁当を広げる。

今日も昨日と同じように、親が作ってくれたものだが、自分でも少し手を加えてみた。


佐藤さんと一緒に映画を観る。そのことだけを考えていると、自然と弁当を食べる手が止まる。


「今度の日曜日、絶対に楽しむんだ」


そう心に決めて、また弁当を口に運んだ。


午後の授業も同じように、頭の中は映画のことでいっぱいだった。気づけば、放課後を迎えていた。


「じゃあ、帰ろうか」


と、クラスメイトと軽く話しながら帰り支度をして、教室を出る。

帰り道でも、ふと佐藤さんのことを考える。

彼女がどんな映画のシーンに笑うのか、何に感動するのか――そんなことが気になって仕方がない。

家に着くと、少しホッとする。

家の中はいつもと変わらず、親が晩ご飯の準備をしている音が聞こえてくる。

リビングでテレビをつけて、少しだけ気を紛らわせようとするが、またすぐに頭の中は佐藤さんとの映画のことでいっぱいになる。


「映画の後、どうしようかな…食事とか、誘っても大丈夫かな?」


と、考えながら夕食を食べる。親が


「あんた、何かいいことでもあったの?」


と聞いてくるが、「まあ、ちょっとな」と曖昧に返す。まだ親には話せない。

でも、映画が終わって、何かが変わったら、その時は話すかもしれない――そんな未来を想像して、自然と笑みがこぼれる。

夜、ベッドに入ってからも、映画のことで頭がいっぱいだった。

佐藤さんとの時間を大切にしたい、そんな思いが胸の奥にずっと残っている。そして、やがて夢の中へと誘われる。


次の日曜日が、早く来てほしい。

最近、親が仕事の都合で早く家を出て、遅く帰ることが多くなってきた。

そんな中、俺が家事を担う役割が自然と増えていった。

朝食の準備に、お弁当作り、それに夕食まで、家事の大半が俺の担当になる。

さらに、掃除も適度にやっておく必要がある。


「まあ、しょうがないな」


と、自分に言い聞かせながらキッチンに向かう。親が忙しいのは分かっているし、俺も協力したい。

これまで一緒に分担していた仕事を俺一人でこなすのは少し大変だけど、支障にならない程度にうまくやれば、きっと大丈夫だ。

朝はいつもより少し早く起きて、まず朝食の準備に取り掛かる。

今日はシンプルにトーストとサラダ、目玉焼きにしよう。朝から重たい食事は避けたいから、あっさりしたメニューがいい。

サラダには冷蔵庫にあったレタスとトマトを使い、ドレッシングも軽めに仕上げた。

こうして朝の準備を一通り済ませたら、自分のお弁当作りに移る。


今日のお弁当は鶏の照り焼き弁当だ。

自分が作る料理はそこまで派手ではないけれど、きちんと栄養バランスを考えるようにしている。鶏肉に味を染み込ませる時間を確保しつつ、野菜の煮物や卵焼きも一緒に作る。

弁当の彩りを考えるのも、今ではすっかり楽しい作業だ。

食事の準備が終わったら、部屋の掃除に取り掛かる。

特に、リビングやキッチンは親が帰ってきたときに少しでもリラックスできるように、きれいにしておきたい。

掃除は手早く終わらせ、学校に行く準備を進める。教科書を鞄に詰め込み、自転車の鍵を持って家を出る。


学校では、文化祭の余韻がまだ残っているのか、みんな少し浮かれた様子だ。

しかし、俺は頭の片隅に家のことが常にある。

授業の合間にも、今日の夕飯はどうしようか、冷蔵庫に何が残っているかを思い出しながら考えている。

親が遅く帰ってくることを考慮すると、夕食は温め直してすぐに食べられるものがいいだろう。

昼休みになると、クラスメイトと雑談を交わしながらも、ふと家のことが気になる。

だが、それが俺の日常になりつつあると自覚しながら、特に気にすることなく日々を過ごしている。

家事をやることが面倒に感じることもあるが、親が安心して仕事に集中できるように、俺がサポートするのは悪い気分ではない。


放課後、家に帰るとまず夕食の準備に取り掛かる。

今日は親のために、和食メニューにしようと決めていた。魚の塩焼きと味噌汁、そしてきんぴらごぼうを作ることにした。

夕方は時間に余裕があるので、丁寧に料理を進める。魚をじっくり焼き、味噌汁には豆腐とわかめを入れて、家庭的な味を心掛けた。

夕食を作り終えた頃、リビングで少し一息つく。

テレビをつけて、ニュース番組を見ながら今日一日の出来事を振り返る。

学校では、映画のことや友達との会話があったものの、やはり頭の中の多くは家のことが占めている。


夜遅く、親が帰ってくる。疲れた顔を見て、俺は夕食を温め直して出す。

親は


「ありがとう」


と一言だけ言って、夕食を口に運ぶ。

俺が作った料理を、無言で食べている親の姿を見ていると、少しだけ誇らしい気持ちになる。

その後、食器を片付けてから自分も夕食をとり、風呂に入って一日の疲れを癒す。

そして、明日の準備をしてベッドに入る。親が忙しい分、俺は家のことをしっかりやらなきゃいけない。

そんな日々が続いているが、不思議と嫌な気分にはならない。

これからも、家事と学業をうまく両立して、親を支えていく。

そう心に決めながら、俺は眠りについた。


それは、まさに金曜日の朝だった。

日曜日まであと2日、そしてその日には佐藤さんと映画に行く約束があった。

今まで仲良くしてきたけれど、俺たちはまだ「ただの友達」という関係だ。でも、この日曜日の映画をきっかけに何かが少し変わるかもしれないという期待が、胸の奥で密かに膨らんでいた。


学校に行く準備を終え、自転車に乗っていつもの道を走る。

朝の空気は心地よく、少し冷たい風が顔を撫でる。

考えがまとまらないまま、俺はふと佐藤さんのことを思い出す。彼女とは友達として付き合っているが、最近少しずつ距離が縮まっているのを感じていた。

特に文化祭の準備を通じて、お互いに助け合いながら過ごした時間が、俺にとってとても大切なものだった。

教室に入ると、いつものようにクラスメイトが賑やかに話している。

佐藤さんもその一員で、笑顔で友達と話していた。

俺は、そんな彼女の姿をちらりと見ながら、自分の席に座る。

彼女ともっと親しくなりたいけれど、どう接すればいいのか分からないという気持ちが、頭の中で渦巻いていた。


「おはよう、烏丸くん!」


佐藤さんの声が俺の思考を打ち破った。

彼女がこちらに向かってきた。


「おはよう、佐藤さん。今日は元気そうだね。」


「うん、今日も楽しそうなことがいっぱいありそうだからね!それに、日曜日の映画、すっごく楽しみにしてるんだよ。」


彼女の笑顔は、まるで日の光のように明るかった。

俺は少し照れながらも、日曜日の映画について話を続けた。


「俺も楽しみにしてるよ。何の映画を見るんだっけ?」


「アクション映画だよ。ちょっとドキドキするやつだけど、面白そうじゃない?」


佐藤さんが映画の内容について話し始めると、俺は自然と彼女に引き込まれていった。

彼女の声や表情からは、映画への期待感がにじみ出ていた。俺もそれに共感し、いつの間にか話が盛り上がっていた。

その日の授業はいつも通りだったが、心の中では日曜日のことがずっと頭を占めていた。

どうしても、映画を通じて何か変わるんじゃないかという期待が拭えなかった。

もちろん、現実的に考えれば、ただの友達のままでいる可能性が高いのだろう。

でも、少しでも発展するチャンスがあるなら、俺はそれを逃したくない。

放課後、佐藤さんと一緒に帰る時間がまた訪れた。

最近では、放課後に一緒に帰るのが習慣になっていた。

彼女と並んで歩きながら、俺は映画のことを再び話題に出す。


「そういえば、映画の後って何か予定あるの?」


「特にないよ。もしかしたら、ちょっとカフェで休んでいこうかなって思ってたんだけど、烏丸くんも一緒にどう?」


「もちろん、いいよ。映画の感想を話し合いながら、カフェでゆっくりできたら楽しそうだね。」


「うん、そうしよう!」


佐藤さんの提案に、俺は心の中で大きくガッツポーズを取った。

映画を見た後に、さらに一緒に過ごす時間が増えるということは、少しでも彼女と近づけるチャンスだ。

これまでの友達関係から、ほんの少しでも進展があるかもしれないという期待が、俺の心を躍らせた。

家に帰ると、俺はすぐに日曜日の準備をするわけでもなく、ただ映画のことを考え続けていた。

どんな会話をすればいいのか、どんなリアクションを取れば彼女に良い印象を残せるのか、そんなことばかりが頭に浮かんでくる。

でも、考えすぎてもしょうがないと自分に言い聞かせ、少しリラックスすることにした。

翌日も学校では変わらず、佐藤さんとは自然な会話を楽しんだ。

彼女との関係は、まだ良き友達という枠を超えていないが、それでも日曜日が来れば、何かが変わるかもしれないと信じていた。


そして、ついに日曜日がやってきた。

俺は少し早めに準備を済ませ、約束の時間に遅れないように家を出た。

佐藤さんとの映画デートが始まる。

ドキドキしながらも、俺は彼女との時間を思い切り楽しむつもりだった。







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