第28話 息子と杏奈の会話

「お母さんが幸せを感じる時はどんな時なの?」


「そうだねえ、家族がみんなで食事ができる事かな、お父さんが毎日仕事に行って安全に家に帰って来る事、お前が健康で学校に行って帰って来る事、家族全員が元気でいてくれる事かな」


「な~んだ、お母さんだったらもっと凄い事を言うと思ったのに……」


「お父さんやお前が毎日、当たり前の事を当たり前にできて、そして健康にできる事が一番幸せなんだよ。普通に一日が終わる事に私は何よりも幸せを感じるよ」


「アタシは色んな人を見てきたから。特に夜の世界に入ってからは、威張りたい人、強がっている人、お金持ちの人、地位の高い人とかね。けどね、一番幸せそうだなあと思う人は、そういった世界で生きている人よりも普通の細やかな暮らしを家族としている人じゃないかと思っていたんだよ」


「一生懸命にひたむきに生きている人が幸せを感じている事が、何となくだけど分かって来たんだ」


「だから、お父さんと知り合った時も、ひたむきに子供たちと向き合っている姿勢が好きになったしね。とても新鮮だったし素敵だった。夜の小学校の校庭で、二人で逆上がりの練習もしていたんだ。明日、子供たちに良い見本を見せたいから付き合ってくれってさ。あのような姿を見て、この人と一緒なら絶対に幸せになれると思ったんだ。他人の幸せの為に生きているお父さんは格好良かったし素敵だったし、愛して良かったと思っていたよ」


そんな言葉を息子に伝えていた。


司令塔の杏奈が敷いたレールを瑛太は必死で走って生きてきたのだ。 


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