第27話 結婚して二十年以上

 瑛太と杏奈が結婚してから二十年以上の年月が流れた。


「男は五十歳代をどう生きるかだからね。人生百年時代の折り返し地点だからね。五十歳代の過ごし方って難しいんだよ。アタシはそんな男たちを嫌というほど見て来たからね」


「お父さんは、臆病な癖にプライドが高いからね。そして、自分大好きなナルシストだもんね」こんな言葉を杏奈は躊躇せずに言った。


「お父さんみたいなタイプはね、余計な雑音は気にしないで上を目指していく事でバランスが取れるのよ」


「私が、愛情を込めて精一杯支えていくからもっともっと頑張りな!」


 瑛太が四十歳を過ぎる頃から杏奈はこんな言葉を瑛太に言うようになった。そう杏奈は、瑛太の性格を理解し、彼の人生のレールを敷き、司令塔化した女性へとなっていた。瑛太が結婚した当初、「私と結婚して絶対に良かったと思わせてあげるから」そんな言葉を実現させてみせた。


「他人の上に立つ事は、他人の陰口や悪口を言わない人になる事だからね。簡単に陰口や悪口を言う男になるなよ。一番軽く見られるからね! 分かった?」


「他人に頼ったり、他人に期待したりすると腹が立つから、他人には期待しない事だよ」


「腹が立つ人は必ずいるけど、仲良くしてね。後でお父さんに必要な名脇役だと思える時が来るからさ」


「まあ、何とかなるんだよ。不思議と人生はさ」


「どんなに忙しくても死ぬまではならないからさ。頑張ってよ。お父さん!」


 杏奈のこんな言葉に瑛太は今も尚、励まされ力をもらい働いていた。杏奈の言葉には魂が籠もっていた。


 瑛太五十歳、杏奈五十四歳。幾つになっても杏奈は姉さん女房で強かった。そして、その強さは確実にプラスの生命力となって、瑛太や息子だけでなく多くの周りの人をも支えていた肝っ玉母さんだった。

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