第22話 杏奈の弱気
瑛太は姉の末っ子で、姉や母親からいつも甘やかされて育った。両親に会わせる時の初日に杏奈は今まで着た事のない落ち着きのある服装で実家へと行った。年上であり、そしていかにも昔はヤンキーだった雰囲気を消す事は難しかった。瑛太の母は、同じ保育関係の妻を貰って欲しいと思っていた。また、姉も弟の結婚相手には、小姑として厳しい目を向けていた。
「私の雰囲気を見たら、お父様とかお母様が、ガッカリするんじゃない?」
「私なんかが貴方の奥さんになって良いのかな?」
杏奈の弱気な言動が、こんな一面もあるんだなと思い、瑛太は余計に愛おしかった。
家に着く前、二人は神社に参拝し境内で瑛太は杏奈を強く抱き締め、「杏奈は俺の奥さんだよ。自信を持ってよ!」と優しく言った。
杏奈は実家に着くと、履き慣れていないパンプスだった為、玄関の土間で滑ってしまい転び、ストッキングを破いてしまっていた。それほど杏奈は上がっていた。あの強気でちょっとやそっとでは動じない雰囲気の杏奈が今は物凄く動揺している姿がとても可愛くも見えた瑛太だった。それだけ彼の妻になる事を真剣に考えている証拠でもあった。
瑛太は杏奈の状況を父には話しておいた。瑛太が杏奈に魅かれたのは、自分が出会った事のない女性だったからだ。彼が今まで恋愛をしてきたどのタイプとも掛け離れていた。ヤンキー、高校中退、少年院、堕胎、前科一犯と三拍子どころか四拍子も五拍子もあった女性だ。
杏奈もまた自分が普通の幸せを掴む事はないと思っていた。自分に言い寄ってくる男性はみんな同じ色だった。その最もたる共通項は、「勉強して来なかった」事であり、価値観が一般人とは違っていた。杏奈にとっても大学まで出ている男性との出会いは初めてだった。ましてや、他人の子供の為に愛情を込めて尽くす保育士をしている人と恋に落ちるとは夢にも思ってなかった。
杏奈は修羅場を潜ってきた人間なので、事の成り行きを推測して当てる事が出来た特異な資質があったが、自分の事には皆目、どうなるのかも推測が出来ないでいた。杏奈もまた瑛太との出会いに今まで感じた事のない感情を抱いていた。
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