　瑛太は小心者で男としての器が小さいだけに、杏奈の過去の恋愛相手が気になっていた。ある時、一緒に飲んだ杏奈の不良の友達に訊いた。

「相手の過去を知らない事も大切な優しさだし、愛を貫く事には必要のない事だよ」という答えが返ってきた。瑛太はその言葉を聞いて、杏奈の不良の友達の言葉は重いと思ったが、しかし、彼は器が小さかった。

瑛太はある時、杏奈の部屋で彼女がいない時にスマホを見た。そこにはかつての杏奈の写真が出てきた。多くの悪いいかにもヤンキーの女性たちの中でも彼女の雰囲気は際立っていた。美貌も際立っていた。

　そして次にスワイプをすると、男の写真が出てきた。悪そうな雰囲気の中でも、どこか知的な雰囲気のする端正な顔立ちだった。男としての雰囲気、顔立ち、ガタイ、全てにおいて自分より上だと感じるタイプの男性だった。

　「杏奈はどうして俺を選んだのか？」

　そんな疑問が沸いてきた。「単純に生活の為か？　いやそんな器の小さな女性ではない。しかし、もしかしたら俺は騙されているのかもしれない」と思っていた。瑛太は本当に器が小さかった。勝手にスマホの中身を見る行為もそうだが、それでいて、勝手に傷付いてしまう。情けない男だ。「杏奈はどうして自分なんかと」付き合い始めた頃の瑛太の器の小ささが露呈していた。

　杏奈は高校中退、少年院、夜の商売。再度の傷害事件で執行猶予がついたものの前科一犯。典型的なアウトローな女性の人生だ。杏奈の周りもそうだ。夜の仕事をして、その店で客として来ていた男性と一緒になるパターンが殆どだ。そして、出産するが、夫は夜遊びやギャンブルばかりに嵌り、次第に夫婦喧嘩が当たり前の家庭に成り、離婚のお決まりのコース。シングルマザーになって二進も三進もいかなくなって実家へと戻り、子供は親が育てる。そんな人生の女性が多かった。

　杏奈は言い寄ってくる男性は沢山いた。いかにも男好きをするタイプでそれでいて性格も男勝りでサバサバしていたから、杏奈目当ての男性も多かったと聞いた。瑛太のようなナヨナヨタイプの男性と付き合った事もなければ、言い寄られた事もなかったと言った。

　恋愛……好きや愛情には理由はないかもしれない。しかし、杏奈は瑛太の世界に魅せられていったのも紛れもない事実だった。