第18話 杏奈のぬくもりと安心感

 瑛太が杏奈と結婚したい本当の理由は何かと言ったら、それは杏奈の生き方の違いに引かれたからだ。杏奈は年上だけではない、人生の修羅場を掻い潜ったという経験したものの見方ができる女性だった。


 杏奈と一緒にいる事で瑛太は自分が、学童の指導員として、人間として、更にはいっぱしの男性として成長させてもらっている事を実感し、瑛太は杏奈に結婚を申し込んだ。


 「弱い自分だけど、これからも宜しく頼みます!」と、こんな瑛太の言葉に杏奈は、「私と結婚して良かったと絶対に思わせて上げるから。将来は貴方がいつか話してくれた子ども食堂をやりましょう! 放デイ放課後等デイサービスもやりましょう!」


 「えっ、俺が経営者……? 絶対に無理だよ!」


  ※


「私、不安なの。貴方が私の事を選んでくれた事がね」 

「どうして不安になるんだよ?」

「育ちが違うんだよ。私は。それが一番怖いの」

「育ちや経験が違う所があるから好きになったんじゃないの?」 

「分かってないよね。それは今だからそう思うんだって。違い過ぎるから新鮮に感じるし、味わった事のない世界だから刺激があるからだよ。お互いにね」

「……」

「私は貴方が私のような不良じゃない真面な女性の方に戻るんじゃないかって不安があるけど、私も貴方が大好きだから後悔したくないから必死なの。貴方を失いたくないの」

「それは俺だって同じだよ。自分は強い男じゃないし、今まで杏奈が付き合った男に比べたら間違いなく頼りないし、根性もないし、喧嘩だって弱いし、だからいつも不安になっているよ」

付き合った頃の、二人はそんな会話をしていた。

 

 お互いが本気になればなるほど、不安が強くなった。本気で人を好きになると、不安が大きくなる。好きになるという事はそんな思いと背中合わせだ。いつもは小さな事では動じない強い女性を演じている杏奈の弱さをそっと見せた時、瑛太はそこに彼女の繊細さと愛おしさを感じていた。


 そんな話をしながら二人は夜の街を、恋人繋ぎで掌を合わせて指を絡ませて歩くと、そこには温もりから感じる安心感があった。今までのどの恋愛よりも、この人と一緒にいたいと痛切に感じていた二人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る