第18話 神殿での生活

「クラは修行の一環でここを任されているけど、本業は神官様のお仕事なの。神官様たちは交代でお勉強を教えてくれるし、仕事が終わった後は交代で宿直もしてくれるの。神官様は世話と言うより、管理や指導をしていると思って」


「そうなのね。誰がお世話してくれるの?」


「私たちの孤児院では、毎日の生活を大きい子が小さい子をサポートしてるの。それに『奉仕者』の信者さんが交代で手伝いに来てくれるんだ。だからみんなで手伝いながら食事を作ったり、洗濯をしたり、掃除をしたりするんだ。あと孤児院は二日に一回もお風呂にはいれるの。その時は、小さい子を洗ってあげるんだ。


 昼ごはんの後小さい子はお昼寝するし、五歳から十歳までの子は読み書きや計算とか基本的な勉強を神官様に教えてもらうんだ。あとは女の子は手工芸なんかも神官様から手ほどきを受けているよ。それが終わると後は自由時間。十歳以上の子は仕事に出かける事が多いかな」


「シリ、時間のことを教えて。一年は何日で、一日は何時間なの?」


「一年は三百六十日に余り五日。その五日は神様がお休みする期間なの。一ケ月は三十日で一週間は五日。一日は昼と夜が十二時間ずつで二十四時間よ。神殿は日の出から日没まで二時間おきに神殿が鐘を鳴らして時間を知らせてるの」


 良かった。ほとんど地球と一緒だ。


「一週間はどのように数えるの? お休みってあるの?」


「週の始まりから一星、二星、三星、四星、天星だよ。天星はお休みで、神殿でお祈りがあるの。お祈りの後は自由時間なんだよ。報告したら外にも出られるよ」


 こちらに慣れてきたら、管理人をしながら出かけることもできるのだろうか。いつかはタオに礼を言いに行きたい。

 

「話を続けるね。神官様は、みんなの健康を見守ったり、必要な時は神殿の治癒魔法も受けさせてもらえるの。クラは、運営に必要な書類を管理したり、成長や学習の記録をつけたり、寄付や物資を管理して分配したりしてるよ」


 シリが説明をしながら、部屋を案内してくれる。礼拝堂、教室、食堂、寝室、倉庫、玄関の横に管理人室と乳幼児室と療養室があった。台所、洗面所、トイレ、風呂場は外にあり渡り廊下で繋がっている。


「管理人室の横の乳幼児室は三歳までの小さい子が使うんだけど、今は小さい子はいないの。養子にもらわれていっちゃった」


 シリが言うには、戦後、国が孤児院より養子にして家庭で育てることを推奨し、養子にすると国から養育費が少しだが出るそうだ。不正がないように役人が定期的に面談をしているらしい。戦後の好景気で湖の街は生活が安定し、養子をとる余裕がでたのだろう。


 現在、孤児院は二十人程度の収容が可能だが、利用しているのは十二人だ。そのうち九人は近々養子に出る予定だ。残りの三人は人族で、シリとドウ、もうすぐ成人のケムカインという男の子だけ。シリたちは姉弟一緒じゃないと養子に行かないと言っていたら、残ってしまったそうだ。


「私、ここに必要なのかな?」


 葉月は不安そうに尋ねた。


「まあ、ハヅキがここに居てくれる間に私達三人の行先が決まればいいのだけど」


 シリは笑いながらも、表情にはわずかな不安が見え隠れしていた。

 

 夕食は夕方の早い時間にとるようだ。今は五時位だろうか。今日は特別にフック神官長とサメートが孤児院の食堂に来ている。クラは葉月がいない時はクルクルと働き、子どもたちのお世話をしている。とっても愛らしい笑顔なのに、葉月と目が合うだけで、表情が一瞬にして無くなる。


 夕食は豆の塩味のスープと小さな鶏肉とネギらしきものが浮いている粥だった。台湾の屋台で食べた粥に似ていた。塩味は薄味だ。異世界あるあるで塩が貴重なのだろうか。葉月は健康に気を付けて薄味を心がけていたので、ちょうどいい塩加減だった。


 フック神官長とサメートからの視線が葉月に集中している。


「ハヅキ。夕食の感想はどうですか?」


「はい。美味しくいただきました。私のいた地球の違う国の食事によく似ています。お米があるなんて嬉しいです。あ、この穀物は『米』といいますか?」


 姫が言っていたけど、スキルの欄にあった『言語理解・自動翻訳機能』は勝手に翻訳してくれるんだから『米』で通じるよね。

 

「はい。そう呼んでいます。あなたの国も『米』が主食だと、聞いていますよ。なじみ深い穀物が主食なら馴染めそうですね」


 フック神官長の心遣いが嬉しかった。もしかして、見た目で相当食いしん坊だと思われたのかな? ご飯が美味しくないと暴れる自分の姿を想像すると、なるほど治めるのも大変そうだ。


「私の国は他国の食事を日々の食事に取り入れる事が上手くて、他国発祥の料理が国民食になる事があるんですよ。だから、バンジュートの食事はとても楽しみです」


 フック神官長とサメートはお互い目を合わせ、ほっとした表情になる。


「そうですか。あなたの国の先の転移者は、食事が合わずに苦労したそうです。しかし、王城の料理人でも再現できなかったようで、ずっと食事に不満を持っていたようです」


 そうだろうね。十五歳なんかジャンクフードとか菓子パンやら総菜パン、カップラーメン大好きだよね。ウチの双子も外食しようって言ったら、ハンバーガー食べたいって言ってたな。こんな薄味であっさりしてたら物足りないんだろうな。私は、味は良くても量が足りない感じ。でも大きい男の子たちもおかわりしなかったから、神殿とかは清貧ってのを大切にしているのかな。


 葉月が物欲しそうな顔をしていたのか、サメートが教えてくれた。


「もし、神殿の食事が足らなかったら神殿の外でご自分で購入し摂取されることは禁止してはいません。湖の繁華街には食堂がありますし、湖畔の広場には屋台が色々ありますからね。ご自分の時間でどこかに働きに出てもいいですし、繕い物や小物を作って販売しても良いですよ。ただし、神殿の敷地内では時間外の食事や間食は禁止しています。これは守ってくださいね」


 やった。神殿って意外に自由だ。何のアルバイトがあるかシリに聞いてみよう。ポメ様やタオさんにもらったお金もあるし、落ち着いたら出かけてみよう。

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