第17話 新しい仲間との出会い

「フック神官長様。私を神殿で働かせてください!」


「ふむ。そうですね、ハヅキには神殿の運営する孤児院の担当をしてもらいましょう。そこで、子ども達と一緒に魔法や計算やバンジュートの文字を覚えていきましょう。後は掃除や洗濯、食事の準備や子ども達のお世話をお願いしますね」


 フック神官長は部屋の隅で記録をしている人族の男性に声を掛けた。


「サメート、クラを呼んできてください」


 サメートと呼ばれた男性はオレンジ色の布を巻いた神官服を着用していた。フック神官長と同じように高位神官なのだろう。しばらくすると、小柄な愛らしい女性を連れてきた。彼女は黄色い布を巻いている。修行中の神官であることが分かった。フック神官長はその女性に葉月を紹介してくれるようだ。


「ハヅキ。この神官は孤児院の担当をしているハムスター獣人のクラです。彼女は小柄なので、洗濯や大人数の食事の準備が大変だと言っていました。ぜひ助けてあげてください。クラ、こちらがハヅキです。彼女は転移者でバンジュートの事は全く知りません。お世話して、仕事のことなど教えてあげてください。詳しい指示はサメートに伝えておきます。今日はまず、孤児院を案内して生活の準備を手伝ってください。いいですね」


「……はい」


 クラと呼ばれた女性は小さな声で返事をした。目を合わせてもらえない。葉月はこれから世話になるため、このクラとは仲良くしなければと意気込んだ。


「葉月です。クラさん、よろしくお願いします! 私、力持ちだから力仕事とか任せてください!」


 とにかく印象良くするため明るく接した。新しい世界では、ティーノーンの神々に悪口言われないように頑張るのだ。


「ん。ついてきて……」


 クラは小さい声で、目を合わせずに部屋を出ようとしたので、葉月は急いでついて行った。扉の前まで行くと思い出したと言った風に、部屋に向かって大きく振り返り言った。


「フック神官長様。今日は儀式をしてもらってありがとうございました。早く自立するために頑張ります。もし自立できなかったら、神殿でいっぱい働きます! では、失礼します!」


 元気一杯な声でペコリと頭を下げて、廊下を早足にクラの後を追った。その後姿を見て、フック神官長はクックッと笑った。サメートは少し顔をしかめている。


「面白い子が来てくれましたね」


「フック神官長様。面白いというか摩訶不思議ということは認めますが、『子』という呼び方は少なくとも自分より若い場合に使うものだと思います。しかし、あんなに落ち着きのない、いや、若々しい四十三歳は見たことがありませんよ。それに、本当に驚くほど若く見えますね」


「見た目は二十代に見えて驚きましたよ。長寿の国から来たことも影響しているのでしょう。魔法が使える魔術師は平均寿命が我々より二十五年も長い六十五歳です。もしかするとハヅキは特別な力を持った魔術師なのかもしれませんね」


「ティーノーンの神からは、ハヅキが来ることでこの街の安寧が保たれるとの神託がありましたが、本当に大丈夫でしょうか?」


「まあ、何が起きてもそれは神が与えた試練です。何かあれば真摯に向き合っていけばいいのです」


 フック神官長とサメートはこれから起こることを想像しつつ、葉月が出て行った扉をじっと見つめていた。


***


 葉月はクラの後ろをついて歩いていたが、何も話してくれない。葉月が転移者だからなのか、日本人だからなのか、偏見があるのだろうかと考えた。

 

 神殿の奥進へむと、古びた木造平屋建ての建物が見えてきた。建物の前には広場があり、その間には小さな家庭菜園や花が植えられていた。広場の横には鳥小屋があり、葉月は日本で見た山間部の木造の古い分校を思い出した。


「あ、クラだー!」


 元気な男の子の声が響き、走って近寄ってきた。葉月を見ると、男の子はピタリと止まり、急いでクラの後ろに隠れた。十歳くらいだろうか。葉月は体格が良いので、子どもに怖がられることも多い。しゃがみ込んで目線を合わせて挨拶をしてみた。


「こんにちは。今日からこちらでお世話になる葉月だよ。よろしくね」


「……」


 葉月はにっこりと笑顔を保っていたが、男の子もクラからも反応がなく、頬が痛くなってきた。そんな時、中学生くらいの賢そうな女の子がやってきて声を掛けてくれた。


「あ、お客さん? こんにちは。クラ、お客さんをどこに案内したらいいの?」


「……部屋。管理人部屋」


「え? そうなの? お客さんじゃなくて管理人さんなの?」


「ん……」


 女の子は深いため息をついたて、葉月に向かって笑顔を向けて言った。


「ごめんね。クラはちょっとハムスターの獣性が強くて臆病なんだって。だから、あなたに慣れるのに少し時間がかかるんだ。私はこの孤児院にお世話になってる人族のシリポーンよ。シリって呼んでね。そして、クラに隠れてるのは弟のドウだよ。ドウ、挨拶はちゃんとしなさい」


 ドウはクラから少しだけ顔を出し、ぺこりとお辞儀をした。葉月はドウに再度にっこりと微笑んだ。そして立ち上がり、シリに自己紹介をした。


「私は葉月。今日からここにお世話になります。転移者だから何も分からないの。いろいろ教えてね」


 周りに自分以上の人見知りがいると、意外と自分がしっかりしなければと思い、話すことができた。クラは何も言わずドウを連れて部屋に戻っていった。孤児院の案内はシリがしてくれるようだ。


「本当はクラがやらないといけないんだけど、あんまりストレスがかかるとお腹を壊したり、円形脱毛症になったりするの。だから私が案内するね」


 ハムスターって環境の変化で病気になっちゃうって聞いた事がある。私の事がストレスにならないと良いんだけど。

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