第16話 葉月の鑑定結果

神殿の中の本殿で大勢の神官たちに見守られながら『鑑定の儀』と魔力判定と健康診断が行われた。鑑定の儀はフック神官長が葉月の頭の上に手を乗せ、祈祷するだけだった。姫に私の頭に手を置いて祈ってもらった時は「何かが芽生えた」気がしたのだが、今回は何も感じることは無かった。


 鑑定や健康診断はバーリックの屋敷で行った方法と同じだった。フック神官長に鑑定結果を見せてもらった。


・名前:ハヅキ・マツオ

・産地:チキュウ産、二ホン製造

・年齢:四十三歳

・性別:女性

・婚姻歴:未婚

・称号:地球からの転移者・息長足姫のいとし子・清らかな乙女

・職業:巫女・農家・狩人・料理人・介護人・乳母 

・健康状態:良好(ただし著しい肥満)

・魔力量:極めて低い

・属性:生活魔法のみ使用可(日本神話支局・息長足姫おきながたらしひめより制限あり)

   ◦ 種火をつけることができる

   ◦ 松明程度の灯りをつけることができる

   ◦ 衣類を乾燥させることができる

   ◦ 清潔な飲料水を出す事ができる、

     家庭内の清潔を守る為の洗浄用水を出す事ができる

   ◦ 家庭菜園程度の作物の成長促進、家庭菜園程度の土壌の改善

   ◦ 治療院に行くほどでもない怪我の治療、自然治癒力の促進

・スキル:言語理解・自動翻訳機能、身体強化(極弱)、簡易鑑定、アイテムBOX(極小)


 その他には、性格や、身体能力、地球で取得した普通自動車免許や狩猟免許、ヘルパー三級などの資格情報、計算や文章力などの知的な程度など事細かに記されている。


 性格の項目ではこのように記されていた。


 ハヅキは、軽率で頻繁に他者に騙される。その結果、信頼性に欠ける一面がある。優しさと称しているが、実際は他者に利用されやすいだけであり、真の思いやりというよりは単なる甘さといった方が正しい。


 人見知りの傾向が強く、初対面の相手に対して警戒心を抱くが、その警戒心が過剰であり、信頼関係の構築に時間がかかる。また、内向的な性格であり、一人で過ごす時間を重視しすぎるあまり、他者との協調性に欠ける面がある。このような性格は、組織内での協力や連携を阻害する可能性が高い。


 総じて、ハヅキはバランスの取れた人格とは言い難く、信頼性に乏しく、協調性に欠ける人物である。


 葉月はダメージを受けた。自分でも騙されやすく、甘い性格だとは感じていたので、この評価は正しいことは認めざるを得ない。小学校の時、通知表で「落ち着きがない」「おしゃべりが止まらない」「人の話をよく聞かない」と書かれた時よりもつらい。


 落ち込んでいる様子の葉月にフック神官長が声を掛ける。


「ハヅキ。これはティーノーンの神から見たあなたの評価であって、あなたの全てを示しているわけではありませんよ。だから落ち込むことはありません。逆に、ハヅキは非常に優しい心を持ち、常に他者への思いやりを欠かさないとも受け取れますよ。それに、人見知りの方が一度信頼関係を築けば、その関係は非常に強固なものになります。ゆっくりで良いので、この街の人と関わってくれたら嬉しいですね。


 それに、魔法は人族でも使用できる人は二割程度と言われています。あなたは魔法が使えるティーノーンの人族の平均よりも魔力が少ないようですが、魔法が使えるようになるととても便利なんですよ。私たち獣人は魔法が苦手でね。あなたがこの街に奉仕している姿を見せれば、より早く打ち解けられるかもしれませんね。


 ハヅキ、あなたが長寿であることを考えると、私たちが神殿であなたを保護する期間は比較的短いかもしれません。しかし、この期間を通じて、できる限りの支援と助言を提供したいと思います。あなたがここで必要なものを見つけ、自立できるようになることを期待しています」


 葉月はフック神官長の思いやりのある言葉には感動したが、「長寿」の言葉が引っ掛かった。葉月は自分が長寿の国・日本から来たことを再認識し、聞いてみることにした。


「ありがとうございます。フック神官長様。ところで私、長寿なんですか?」


「……そうですね。私は自分では老人だと思っていますが、三十九歳です」


 フック神官長は葉月から見たら五十代後半から六十代前半に見えていたので、まさか四歳も年下だったなんて!


「ちなみに、ハヅキの国の平均寿命は何歳なんですか?」


 葉月は顎に手を添え、思い出す。テレビで、解説が上手な元アナウンサーが分かりやすく説明していた。


「この前、八十五歳くらいになったと聞きました」


「そのように長寿の国なのですね? バンジュートでは残念ながら、神殿で行う治癒魔法では病気や老衰を治せません。さらに悲しいことに、子どもが成人する十五歳まで生きる確率は半分ほどです。二年前には戦争があり、この湖の街も被害を受け、たくさんの命がティーノーンの神々の庭に見送られました。転移者の知恵を活かして治水事業や上下水道の整備を進め、ようやく平均寿命が延びてきたと思っていたのですが……」


 葉月はこの世界であと何年生きることができるのか不安になった。さらに、日本の様に様々なセーフティーネットが無いこの世界でどうやって生きていくのかも心配だった。


「あのー、私、仕事って見つかるでしょうか?」


 フック神官長はその大きな目を丸くして首を傾げ溜息をつき、説明するように続けた。


「獣人国では二十代以降の経産婦の子育て経験者は乳母として歓迎されますが……。ハヅキは何しろまだ清い乙女ですからね。葉月の職業欄に乳母や介護人がありますが、必ずその職業に就けるわけではありませんし……。今は戦後でターオルングからバンジュートに若い人族が仕事を探しに来ていて、若い子から採用することが多いでしょうね。ハヅキさえよければ、神殿で働いてくれたらいいのですよ」


 葉月は獣人から自分がどの様に見られているかを現代日本の平均年齢に当てはめて考えた。


『健康的な九十代の女性。今回、外国に一人で移住してきて身寄りはない。移住前は実家から出たことがなく、就職もしていない。小規模の農業と、家事手伝いをしていた。未婚。清い乙女のため閨や出産の経験はなく、閨の指導や乳母としては実力不足。特筆する特技はない。魔力量は極めて低く、使える魔法は限定的な生活魔法のみ。資格は普通運転免許証と狩猟資格。介護は家庭内で長年行ってきたが、他人に通用するかは不明。性格は軽率・人見知り・内向的で信頼できない』


 いや、これはないよね。バーリック様やタオさんが嫌がるのも無理ないか。こちらに来たら平均寿命も短くなるのかな? 私だけ長生きするのもちょっと嫌だな。アニメで良く出てくる「オババ様」ってあがめられたりして。


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