『不死ゾーン』で100万回死んでも戦ってたら最強レベルになっていた
十本スイ
前編
「おらぁっ、この役立たずがっ!」
周囲に反響するような怒声が響き渡るとともに、バキッと乾いた音が同時に鳴る。
怒声の主に対し、ロウキ・アマトが顔面を蹴られたからだ。
ロウキのせいでクエストは失敗。現在はパーティのリーダーに折檻を受けていた。
「けっ、やっぱてめえはどこまでいっても役立たずで邪魔にしかならない『無能』なんだな。もうハッキリ言ってやるけどよぉ、てめえなんかが強くなれるわけねえだろ。冒険者ってのは強い者の象徴なんだよ。神に選ばれた存在ってわけだ。なのにまともなスキルすらない、戦闘のセンスもない、将来性すらない。ないない尽くしのてめえがこの世界で生きてけるわけがねえ。さっさと諦めて田舎で農業でもしてな。このボンクラがっ!」
リーダーは言いたいことを言うと、そのまま他の仲間たちを引き連れて去って行った。
「っ……情けねぇ。……ちくしょう」
痛みに呻き声を上げながらも、ゆっくりと立ち上がる。よろめきつつ、口元についている血を袖で拭う。
「オレなんかが強くなれるわけがねえ……か」
この世界――【アガイア】は七柱の神々が存在する。
世界を七つに区分けし、それぞれのエリアを神が一柱ずつ管理しているのだ。
エリア内で生を受けた者は神の祝福が与えられ、スキルと呼ばれる贈り物を授かる。
スキルは多種多様で、授かった者は特技として活かし日々の生活を営んでいる。
その中でも特別恵まれた資質を与えられた者たちがいる。
――〝冒険者〟。
一般人では到底敵わないような凶悪な
常に死と隣り合わせの危険な職業ではあるが、見返りは大きく、実力次第では金、地位、名誉などを高価値で得られる。
そしてロウキにもまた〝レベルとスキル〟が存在した。
冒険者の資質があったのだ。嬉しかった。冒険者に憧れていたから。
ただレベルはともかく、己に宿ったたった一つだけのスキルがあまりにも異質だった。
――《パンドラの匣》――
この能力は、レベルアップするために必要な経験値を倍加させるというもの。
つまり通常の冒険者が、1から2へと上がるための経験値を、ゴブリン五体を撃破することとしよう。
だがロウキは、ゴブリン十五体以上。約三倍もの経験値を必要とするのだ。
実際レベル1では、一人でゴブリン一体倒すにも難しいとされる。凶暴で徒党を組むモンスターなので、普通は最初の頃は仲間とともに相対する。
だがこの《パンドラの匣》というのは、傍にいる者たちにも違った影響を与えるのか、不運を招いてしまうようなのだ。
今回に関してもそうである。実際、以前にも何度か違うパーティに入れてもらったが、その都度不運なことが起こり、その原因がロウキであることが分かると追い出された。そのためいまだにレベルは2と低い。
次にレベルアップするには、ゴブリン換算で軽く三十体以上は倒さないといけない。さすがに一人では無理。2に上がったことも、ほとんど偶然の産物みたいなものなのだから。ちなみに現在のステータスはこんな感じだ。
レベル:2 EXP:55
体力:21/21 気力:17/17
攻撃:12 防御:11
敏捷:10 命中:8
知力:13 運:1
スキル:《パンドラの匣》
「…………これじゃ、『無能冒険者』って言われてもしょうがねえよな」
足手纏いにしかならず、将来性すら感じさせられない。
運は無さ過ぎるし。……泣けてくる。パーティ契約が長続きするわけがなかった。
「それもやっぱ、『不在の大地』出身だからか……?」
この世界を神々が七つのエリアで管理しているが、神が管理していない大地が存在する。
それは『不在の大地』と呼ばれていて、ロウキはそこから管理世界へと足を踏み入れた。
ただ『不在の大地』は神の恩恵が消失していることから、スキルを持った存在もまた生まれない。しかしロウキだけは例外だった。自分は何か偶然などが重なって起きた突然変異のようなものかと驚かれた。
それでも自分に力が宿ったことは何かの始まりを予感し期待した。
だから周りの者たちの制止の声を振り切ってまで故郷を出て、管理世界で冒険者として名を馳せようと考えたのである。
(それに…………ファナにもきっと楽な暮らしをさせてやれるはずだ)
思い浮かぶのは故郷に残してきた妹のこと。
ロウキたちは孤児院出身だが、一つ下の妹は今もその孤児院で暮らしている。
孤児院を維持するには思った以上に金が必要になる。今まで僅かばかりだが稼いだ金を孤児院へと送っていた。でも全然足りないだろう。しかしロウキが冒険者として格を上げていけば、稼げる金も膨大に増える。
当然仕送りできる金も多くなるので、孤児院の暮らしも豊かになるはず。
(でもこれからどうすれば……?)
今回のことで、また自分の悪い噂が広まることだろう。誰一人見向きもしてくれなくなるかもしれない。
(……………………………………見返してぇな)
曲がりなりにも冒険者としての資質は宿ったのだ。レベルだって上がる。ということは将来性だってあるはず。
「オレにできることは…………自分を信じることだけだよな」
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