第23話 文と華乃の電話

『……なに、文ちゃん。文ちゃんがこんな夜中に電話なんて珍しいじゃん。ふーん、そ。文ちゃんまであたしをバカにするつもりなんだ。ふーん、ふーん』


「わたしだって乳輪がデカいと言ったじゃないか、さっき。同志を馬鹿にするわけがないだろう?」


『そんな同志嫌だ。……ほんと、嫌。何で……何でわたしばっか、こんなの……っ。こんなキモキモ乳輪のせいで、じょーたに嫌われちゃうとか絶対いやー!! ぴえんっ!!』


「安心しろ。君の彼氏は、恋人のデカ乳輪を受け入れられないような、器の小さな男ではないだろう?」


『それは……そう、だけど……じょーたは昔からあたしのことを守ってくれて……って、彼氏じゃないしー! 文ちゃんはまたそーやってー! ……でも、さ。実際、さっきのじょーたさ、「え。あ、あー……うん」って……! あんな引き攣った顔、見たくなかった! 紫子の言う通り、初エッチのときにだって、あんな顔されちゃうってことじゃん! こんな乳輪じゃ、じょーたのお嫁さんになれないじゃん!』


「冷静になって考えてみてくれ。クラスメイトの女子と従妹の前で、幼なじみの乳輪が大きいという話を聞かされて、童貞の高校生男子が『え。あ、あー……うん』以外のリアクションを取れるとでも思うか?」


『確かに』


「私の乳輪に対する反応だって同じだ。女子トークに本当は全然ついていけていなかったにもかかわらず、童貞だと思われたくなかったから、適当に話を合わせただけなのだろう。そういう表情をしていただろう?」


『確かに』


「スマートな返答でもされたりしたら、むしろ女慣れを疑っていたのではないか、君は」


『確かに。今思えば、なんてじょーたらしくて、可愛らしい反応なんだろ。からかいたい。童貞イジりしたくてたまらない』


「だろう? そういう男じゃないか、難波は。大切な恋人がコンプレックスを抱えて落ち込んでいたら、気に病んでしまうとは思わないか?」


『うん……でもさ、やっぱさ……じょーただって、紫子みたいな乳輪の方がいいってゆーのが本音だよね……やだなー……』


「はぁ……贅沢な悩みだよ。本当にくだらない」


『はぁ? なにそれ。文ちゃんは彼氏もいないからわかんないんでしょ!』


「そうだよ、彼氏なんて出来るわけがない。私は乳輪がデカいだけではなく、乳首だって陥没しているのだから。こんな情けない陥没乳首に比べたら、君のデカ乳輪なんてもはや優雅だよ」


『ちょ……ちょっと文ちゃん……ぷ――うぷぷっ……あっ、ごめ……っ、ほ、ホントなの……?』


「こんな嘘をつくわけがないだろう。ものすごく陥没しているぞ。刺激すれば顔を出してくれるが」


『うぷぷっ、あはっ! ちょっとやめてよー! 文ちゃんのオナニー事情とか知りたくないってー!』


「いいだろう、こんな恥ずかしい話、白石にしか出来ないんだから。誰にも言わないでくれよ。二人だけの秘密だ」


『わかってるってばー! ……でも、ありがと。あたしを元気づけるために秘密まで明かしてくれたんだよね。八つ当たりみたいなことしちゃって、ごめん』


「構わないよ。それだけ難波への想いが強かったということなんだろう?」


『……それは、まぁ』


「ん? 『それは、まぁ』では分からないが。好きじゃないのか、難波のことが」


『文ちゃんのイジワル……言わなくたってさ、わかるじゃん、そんなの。あたしとじょーたはさ、三歳のころに結婚の約束してるし、それからはいちいちそんなこと口で伝え合う必要なんてなかったんだもん』


「そうか。羨ましいな」


『あたしらの関係ってそーゆーとこあるからね。他の人には立ち入れないってゆーか。だから、野暮なこととかしたくないし……大事な言葉は、初めてのときに取っておくのもいいかなって。じょーたの方もそう思ってくれてるし』


「ロマンチストなんだな。君も難波も」


『もーっ、バカにしてるでしょー』


「違うよ。本当に羨ましいんだ。まさに君と彼にしか入り込めない世界なんだな。やはり、お似合いだよ。お互い、運命の相手なんだろう。これからも応援させてくれ、二人のことを」


『文ちゃん……』


「今までも陰ながら応援させてもらっていたつもりではあったが……あんな邪魔者が現れるとは思っていなかったからな」


『だよねー! 何なの、あのメスガキ! ただの従妹のくせに、じょーたにちょっかい出してさー!』


「だいたい、人の体の特徴を馬鹿にして笑うなんて最低の行いだからな。さすがに許しがたいよ」


『ホントそれー! あたし、そーゆーのって絶対許せなくてー! あんなのが、じょーたのお嫁さんとか言ってるの、ありえないから!』


「私もそう思う。白石、良かったら、応援だけではなく、実務面でも協力させてくれないか? 少し嫌な言い方にはなってしまうが、柚木を蹴落とすための働きを私に任せてくれ」


『全然嫌な言い方じゃないよー。これは戦争なんだから、手加減なんてするつもり初めからないし! 文ちゃんが助けてくれるとかマジありがたいって!』


「そうか。では、スパイとして働かせてくれ。陰毛繋がりで仲間意識を抱いているのか、なぜか柚木は私に懐いているようだからな。『柚木と難波の仲を応援する』と嘘をついて、君に都合の良いように操ってやることも可能だろう」


『文ちゃん……! ありがとー! 持つべきものは陥没乳首デカ乳輪の親友だね!』


「もう一度言うが、他言無用だからな、それ。君と私は秘密を共有する唯一無二の仲間なんだ」


『陥没のちぎり……デカ乳輪同盟……』


「気に入った。ただし人前で口には出さないようにな。名前で秘密までバレる。あとは、そうだな……柚木達の関係をコントロールするに当たって、難波との接触も必要になってくるからな。彼と二人きりの時間も作らなければいけなくなる。君の前で作戦を実行したりすれば、怪しまれてしまいかねないしな。白石、どうせ不自然なリアクションを取ってしまうだろう? 演技とか全く出来ない女だし」


『ひっどー! まぁ、そーだけど。自分ではそんなつもりないんだけどなー。よくみんなが言ってくる、目が泳いでるってどんな状況なの? クロール? バタフライ?』


「君の場合はもはや目が溺れてるレベルで暴れているぞ、いつも。しかし、これから難波としょっちゅう二人きりになると思うと……気が重いな……」


『あはっ♪ 文ちゃんもいい加減、少しは男慣れしなってー。うん、いい機会なんじゃない? 文ちゃんのこと全く女として見てない童貞じょーたなら、練習相手としてはぴったりじゃん』


「確かに」


『これからも、じょーたジムでのパーソナルトレ続けなよ。作戦的なことするってゆーなら、あたしもそんときは邪魔しないからさ』


「助かる。ただ、やはり運動はな……昨日の軽いトレーニングだけで今でも体中痛いし……難波の部屋での勉強会辺りの方が都合良いのだが」


『もー、文ちゃんは相変わらずザコザコ女子力だなー。そんなんじゃ、ほんとーに一生処女だよ? うぷぷっ♪』

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